オンキヨーから新たに発売されたフラッグシッププリメインアンプ A-7VL。
フルサイズのプリメインでありながらDACを内蔵している点は、オンキヨーらしいユニークな特徴です。今回は現行の下位機種A-973やA-5VL、さらに過去のアナログアンプA-927LTDと比較しながらレビューしていきます。加えて、内蔵DACの音質やヘッドホンアンプ性能、外付けDAC「HP-A7」との比較テストについても触れていきます。
外観とデザインの印象
A-7VLのカラーはシルバーのみ。
フロントパネルはオンキヨー定番のヘアライン仕上げですが、水平ではなく緩やかなラウンドがかかっています。ノブは左右対称に配置されており、A-5VLが直線的だったのに対し、A-7VLはわずかに傾斜を持たせた有機的な曲線デザインとなっています。
全体的に柔らかく優しい雰囲気で、A-973と比べるとより洗練されて見えます。
ノブはアルミ無垢材で高級感があり、コントロールはボリュームとインプットのみ。バランスや高低音のトーンコントロールは排除されており、まるでパワーアンプに近い仕様です。
操作感も好印象で、ボリュームはリモコンからもコントロール可能。重みはあるものの、十分に快適に扱えます。ただしインプット切替は本体のみの操作に限られ、リモコンで行うことはできません。
フロントのLEDは電源、光入出力のロック、ミュートの3つ。発光色は青ながら、やや白に近いニュアンスを持っています。
全体的に従来のデジタルプリメインよりも薄型でシャープな印象で、個人的には歴代機の中でもっともスタイリッシュだと感じます。過去の上位機種A-1VLよりも風格があり、高級感を強く漂わせています。
内部を覗くと、銅シールドや多数のヒートシンクが備えられており、音質を支えるこだわりが随所に見受けられます。外観と設計だけでも十分に“所有欲”を満たしてくれる仕上がりです。

A-7VLの音質とその傾向
これまでしばらく愛用していたA-927LTDから切り替えて、A-7VLを接続して数曲聴いてみると――まるでスピーカーを交換したかのように音が広がり、空間表現が一変しました。
まず驚かされるのは「細かい音の拾い方」です。低音域でも輪郭が崩れず、芯を保ちながら確かな存在感を伝えてくれるため、全体の安定感がぐっと増しています。今まで聴き慣れたJ-POPでさえ、新しい発見があるように印象が変わりました。
B’zやUVERworldといったロック寄りのポップスでは、ベースラインとドラムがきりっと引き締まり、バスドラムやシンバルが混ざることなく分離して響きます。エレキギターもピッキング時のアタックが鮮明に再現され、各パートのフレーズがくっきりと聴き取れるのが印象的。楽器を演奏している方なら、音楽をより深く楽しめるはずです。
さらにジャズを再生してみると、低音再生が苦手なスピーカーにもかかわらず、ウッドベースのリアルな質感が伝わってきます。ウィリアム浩子、伊藤君子、綾戸智絵といった女性シンガーでは、ブレスやビブラートまで丁寧に描写され、ボーカルの表情がしっかりと浮かび上がります。
音のキャラクターとしては、ソニーのスタジオモニターヘッドホンMDR-Z1000に近い印象。硬質でありながら、柔らかい音もきめ細かく表現できる――デジタルアンプにありがちな偏見を覆すようなサウンドです。
なお能率の高いスピーカーを組み合わせると、ボリューム位置はだいたい9時方向で十分な音量が得られました。

A-7VLの入出力と接続性
A-7VLの入出力端子はシンプルながら必要十分な構成になっています。
アナログ入力は PHONO(MMカートリッジ対応)/CD/TUNER/TAPE(IN・OUT)/DOCK の各系統。PHONOを備えているため、レコードプレーヤーを直接つなげるのも魅力です。
スピーカー出力は上位機種A-1VLと同じく1系統に絞られています。ターミナルはやや小ぶりですが、モンスターXPケーブルなど定番サイズのケーブルなら余裕をもって接続可能。ただし、コブラ6Sのような極太ケーブルを使いたい場合はバナナプラグを併用する必要があります。
入力端子はいずれも金メッキ仕様で、見た目だけでなく耐久性や精神的な安心感にもつながります。
デジタル入力は 同軸デジタル(コアキシャル)と光デジタルの2系統 を搭載。例えば、PlayStation 3とオンキヨーのND-S1を同時に差し込んで常時接続する、といった使い方も可能です。複数のデジタルソースをシンプルにまとめたい人には便利な構成でしょう。

A-7VLと他機種との比較
ここでは直感的に感じた違いを中心に、A-7VLをいくつかの機種と比べてみます。
A-5VL
A-1VLの販売終了後、しばらく最上位機の立場にあったのがA-5VLです。価格もこなれており、市場で人気の高いモデルでした。
何度かD-412EXとセットで試聴しましたが、音がやや硬く厚みに欠け、全体が表面に張り付いたように感じました。クラシックで試すと、たとえばブラームスの《ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」》では、ピアノの旋律が冷たく淡々と響き、感動に欠けてしまいます。
ただしピアノ独奏では綺麗なタッチで再現され、魅力もあります。しかしA-7VLと比べると、デジタルアンプとしての進化を強く実感しました。
A-973
こちらはしばらくB&W 686と組み合わせ、音楽やゲームに使っていました。全体にまとまりはあるものの、楽器の音が細く、どこか寂しい印象です。
ただし中高域の伸びとスピード感はあり、打ち込み系の音楽には向いています。しかしA-7VLと比べると音の厚みや表現力に差が出てしまい、価格差がそのまま音質に反映されていると感じました。
A-927LTD
10年以上前のモデルですが、特に女性ボーカルでは今でも十分に満足できる音質です。奥華子、元ちとせ、山下達郎、山崎まさよしなど、声の表現力に関しては格別。
ピアノ+ボーカルやヴァイオリンにも相性が良く、A-7VLがフラットでモニターライクな傾向であるのに対し、A-927LTDは少し味付けされた厚みのある音が特徴です。古い山水やコーラルのスピーカーとも好相性で、レコード好きにはこちらが向いているかもしれません。
ただし現代的なロックや打ち込み系にはA-7VLの方が適しており、総合的な万能性ではA-7VLに軍配が上がります。
DENON PMA-2000AE
最後に比較対象としてデノンのPMA-2000AEも挙げておきます。価格帯は上ですが、音のキャラクターが大きく異なります。
2000AEは明るく壮大で迫力のあるサウンド。一方でA-7VLは解像度が高く、音の分離や立体感で優れています。
ポップスやロックで圧のあるサウンドを楽しみたいならデノン、緻密で立体的な描写を求めるならA-7VL――というように、ここは好みの問題で優劣はつけがたい部分です。

A-7VLの内蔵DACとFOSTEX HP-A7の比較
A-7VLは96kHz/24bitまでのリニアPCM信号に対応しており、プリメインアンプながら本格的なDACを内蔵しています。ここでは外付けDACの代表格である FOSTEX HP-A7 と比較してみました。
まず、A-7VLとND-S1を同軸デジタルケーブルで接続し、iPhoneからApple Lossless形式の楽曲を再生。これまでプリメインアンプのDACは「おまけ程度」と考えていましたが、予想に反して解像度が高く、ONKYOのC-S5VLやサウンドカードSE-200PCI LTDを超える繊細さを感じました。小さなパーカッションからシンバルまで輪郭が明瞭で、ウッドベースも歪むことなく迫力ある音を再現します。全体として味付けの少ない、リアルな表現力が印象的です。
内部DACにはCEC DA53Nと同じバーブラウン製 PCM1796 が左右独立で搭載されており、プリメインアンプ付属とは思えない本格仕様。所有感を満たすに十分な設計といえます。
一方で、同じソースをHP-A7経由(光デジタル)で聴き比べると、HP-A7の方が空気感が澄み、奥行きの表現が一段上に感じられました。一度切り替えて聴くと、A-7VL内蔵DACがやや平板に思えてしまうのも事実です。
とはいえ、A-7VLの内蔵DACも十分に高性能で、単体3万円クラスのDACに匹敵する実力を持っています。外部DACにこだわらないリスナーにとっては、これ一台で十分満足できるレベルでしょう。

付属のヘッドフォンジャック
歴代プリメインアンプのヘッドフォン端子に良い印象を持ったことがなかったので、正直あまり期待はしていませんでした。実際に試してみても、その予想は当たってしまいました。
SONY MDR-Z1000やゼンハイザーHD650でチェックしたところ、FOSTEX HP-A7のヘッドホン出力と比べると音に厚みがなく、高音の切れも乏しい印象です。全体的にカスカスしており、パイオニアの2万円クラスのコンポと同等程度。ここまでシンプルで美しいデザインに仕上がっているので、むしろヘッドフォン端子自体を廃止するか、背面にひっそり付けるくらいでも良かったのでは?と感じました。
付属品とリモコン
リモコンはごく普通の質感ですが、ボリューム操作は滑らかで快適に使えます。また、RI Remote Controlを介してND-S1と接続すれば、A-7VLのリモコンでiPodやiPhoneの操作も可能です。
ただし、この操作キーが大きな落とし穴。中央のボタンが再生・停止に割り振られているため、エンターと誤って押してしまうことが頻発します。さらにフォルダ移動やプレイリストのスキップ操作が直感的でなく、まるで意地悪されているかのような操作感。携帯電話の十字キー中央ボタンが「決定」として慣れ親しんでいるユーザーには不親切に感じられるはずです。
デザイン的にも、本体が高級感ある仕上がりなので、デノンPMA-SAシリーズのように金属調リモコンで統一感を出しても良かったと思います。おそらく他機種との金型を共用し、コストダウンを図ったのでしょうが、もう少し工夫が欲しいところです。
付属品は電池と取扱説明書というシンプルな内容です。

A-7VLの総評
オンキヨーはP-3000R、M-5000R、DAC-1000、ND-S1000などを投入し、再びピュアオーディオの世界に本格復帰しました。その流れの中で登場したプリメインアンプがA-7VLです。伊達に復帰を掲げているわけではなく、その完成度は非常に高いと感じます。これに触発され、今後は他メーカーからも同クラスの意欲的なモデルが登場することを期待せずにはいられません。
オーディオシステムをグレードアップする際、多くの人はスピーカーの変更をまず考えるものですが、音の“上流”を見直すことでスピーカーが生まれ変わったかのように響きが変化することがあります。A-7VLはまさにその効果を体現してくれる存在です。
洗練されたデザイン、シンプルかつ必要十分な機能、そして原点回帰とも言える潔さ。10万円を切る価格帯のアンプで、ここまでの高音質を実現していることには驚かされました。単なるコストパフォーマンスの高さではなく、音楽を聴く喜びを新たに感じさせてくれる一台です。



