E60型BMW M5徹底レビュー|507馬力V10セダンの魅力と維持費の真実

クルマ
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代わりの存在が居ない。唯一のBMW M5

ちょうど10年前、まだ高校生だった私は、モーターショーの会場でE60 M5を初めて目にしました。その瞬間、言葉では言い表せないほどの衝撃を受けたのを今でもはっきりと覚えています。

日本車にはない彫刻的なボディライン、猛禽類を思わせるフロントライト、大きく開いたエアダクト、そして存在感のあるホイールと分厚いタイヤ。

そんな強烈なインパクトを放ちながらも、この車は4ドアセダンなのです。

外観だけでも十分に驚かされたのに、後にそのM5が搭載している機構を知り、さらに衝撃を受けることになります。

このM5には、BMW史上でも唯一無二と言えるV型10気筒エンジンが搭載されています。

BMWといえば直列6気筒――いわゆる“シルキーシックス”と呼ばれる滑らかな加速感が代名詞ですが、このM5には、ランボルギーニなど一部のスーパーカーにしか採用されないV10エンジンが搭載されているのです。

排気量は5000ccの自然吸気(NA)。過給器なしで8500回転まで回るという驚異的なスペック。

最高出力は507ps、最大トルクは53.0kgm。

ピークパワーは7750回転で発生します。これがどういう体験なのか、想像できるでしょうか?

その存在にあまりにも強く惹かれ、憧れ続けた結果、私はついにM5のオーナーになりました。

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航空機のようなエンジン音と大袈裟な加速

このM5には「SMG」と呼ばれる特別なミッションが搭載されています。

特別といっても魔法のようなものではなく、2000年前後に各メーカーが注目していたセミオートマチックの一種です。フェラーリの「F1マチック」やマセラティの「カンビオコルサ」と同じ仕組みで、クラッチペダルを踏むことなくギアチェンジできるという、当時は画期的な技術でした。

発売当時は非常に人気がありましたが、その後フォルクスワーゲンをはじめ各社が2枚クラッチを備えたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を登場させたことで、SMGのようなシングルクラッチ式は徐々に廃れていきます。

今でこそパドルシフトは一般的になりましたが、当時はスーパーカーだけに許された特別な装備。ハンドル裏のパドルを操る姿は羨望の対象でした。

さて話を戻すと、リモコンキーを差し込み、スタートボタンを押すと――巨大なV10エンジンが目を覚まします。屋外ならそれほど目立ちませんが、立体駐車場でかければ「ゴゴゴ…」という荒々しいアイドリング音が建物全体に反響し、異様な迫力を放ちます。

SMGをマニュアルモードに切り替えて1速へ。2トン近い巨体がグッと押し出される瞬間は、まさに感動そのものです。

高速道路の合流でギアを落とし、アクセルを大きく踏み込むと――航空機のような轟音を響かせながら、8500回転に向かって一切の息継ぎなく吹け上がる。初めて体験した時は、ステアリングを握る手が汗ばんでいたのを今でも覚えています。

輸入車、国産スポーツカー、レーサーレプリカ、そして1400ccの大型バイク…数々の乗り物に触れてきましたが、この感覚に最も近いのはやはり航空機。フェラーリやマセラティのV8とは全く違う、重低音の轟音。しかも回転が上がっても音が意外なほど低いままという独特さ。

いまのBMWはダウンサイジングが進み、主流は2000ccターボ。ハイパフォーマンスモデルでも直列6気筒の3000ccや、V8の4200ccターボです。

そう考えると、自然吸気5.0LのV10がいかに特別で、二度と代わりのない存在かが分かります。しかもこのエンジンはM5とM6にしか与えられていないのです。

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過剰なまでの走行性能

スポーツ走行が好きな人でも、「ここまでの性能が必要か」と問われてYESと答えられる人は多くありません。

人によってはユーノス・ロードスターのような優しいパワーを楽しむ人もいますし、国産スポーツカーの主流であった280馬力でサーキットを走る人も少なくありません。

私自身もBMW 335iでサーキット走行をしたことがありますが、常識的に考えれば300馬力もあれば十分にスポーツ走行が成立します。サーキットでも峠でも、それ以上のパワーは乗り手を選ぶ領域です。

しかしこのM5は507馬力。しかもパワーに合わせて、強靭なシャーシとサスペンション、そして巨大なタイヤを標準装備しています。

例えば、ファミリーカーなら時速70kmが限界のコーナーを、335iなら120kmでクリアできます。それがM5なら140km近い速度で旋回できてしまうのです。

フロントには255/40ZR19という極太タイヤ――これは335iのリアに相当する太さ。そしてリアは285/35ZR19。フェラーリやポルシェ、コルベットなど、スーパーカー級の幅が与えられています。

つまりM5は、富士スピードウェイや鈴鹿サーキットのような超高速域を想定して作られたマシン。

日常生活では、その能力の8割以上を持て余してしまいます。

加速、ブレーキ、コーナリング――そのすべてが一級品。M5は間違いなくスーパーカーの領域にあります。

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M5の故障と維持費

結論から言えば――べらぼうに高いです(笑)。

オイル交換で約5万円。クラッチが壊れれば100万円コース。

自動車税は8万8千円、車検は30万円以上。

……うーん、びっくりするほど高いですね。これでは街であまり見かけないのも納得です。

そして気になる燃費はリッターあたり3〜4km/L!

RX-7やクアトロポルテも驚き、インプレッサなら真っ青になるレベルです。

極端な話、普通の人なら「自転車とM5どちらか差し上げます」と言われたら、自転車を選ぶでしょう。

しかも狭い道で対向車にミラーをぶつけられただけで修理代10万円。工賃込みならさらに上がります。

新車価格1,350万円は、やはり伊達ではありません。

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M5に乗るべきか…。中古の相場とパフォーマンス。

ずばり、特殊な事情がない限り乗りべきではありません!

日常使いを考えるなら、トルコンATやDCTの方が断然快適。

E92にはアクティブステアリングが搭載されていましたが、このM5にはありません。そのため街中でのハンドル操作は重く、乗り心地もガッタンゴットン。段差の突き上げは凄まじいものがあります。

ただし道が綺麗に舗装されていれば、4人乗車でも意外と快適に過ごせます。

走行性能を追求するなら、むしろM3の方が扱いやすいでしょう。

実際、加速に関しては335iの直6ターボの方が速い場面もあります。カタログ上ではM5の0-100km/hは4.7秒ですが、ミッションの癖や「Mボタン」を押さないと性能が発揮されず、街乗りでは意外に遅く感じることもあります。

サーキットや本気の走行シーンならM5の真価が発揮されますが、日常でサンデードライバーを軽くパスする程度であれば、335i/435i/ActiveHybrid 3や5の方が圧倒的に楽です。

――それでもどうしてもV10の大排気量に乗りたいなら、このM5は唯一無二の存在として強烈な魅力を放ちます。


中古相場とリスク

現在の中古相場はおよそ250〜400万円。

多くは乗り出し価格300〜400万円ほどですが、安い個体はSMGミッションにガタが来ている可能性があります。購入後わずか数ヶ月で保証が切れ、ミッション交換=100万円コース……というリスクもあるため、できる限りディーラー車を選ぶのが安心です。

リセールバリューについては、詳しくは分かりませんが決して悪くはないはずです。特にこのV10モデルは後継がターボ化してしまったため、希少性は今後ますます高まります。実際、E60より前のE34やE39のM5はいまだに強気の価格で取引されています。

BMW M5 スペック

エンジン型式 S85B50A
最高出力 500ps(373kW)/7750rpm
最大トルク 53.0kg・m(520N・m)/6100rpm
種類 V型10気筒DOHC40バルブ
総排気量 4999cc
内径×行程 92.0mm×75.2mm
圧縮比 12.0
過給機 なし
燃料供給装置 デジタル・モーター・エレクトロニクス(DME/電子燃料噴射装置)
燃料タンク容量 70リットル
使用燃料 無鉛プレミアムガソリン
ステアリング形式 パワーアシスト付きラック&ピニオン
サスペンション形式(前) ダブル・ジョイント・スプリング・ストラット式、コイル・スプリング、スタビライザー
サスペンション形式(後) インテグラル・アーム式、コイル・スプリング、スタビライザー
ブレーキ形式(前) ベンチレーテッドディスク
ブレーキ形式(後) ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前) 255/40ZR19
タイヤサイズ(後) 285/35ZR19
加速・最高速   0-100km  4.7秒   MAX 320km/h

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