B&W「802 Diamond」──真価を引き出せなかった初体験レビュー

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英国Bowers & Wilkins(B&W)の「802 Diamond」は、世界中のオーディオファイルから憧れの眼差しを向けられているフロア型スピーカーです。定価は1本で100万円を超えるハイエンド機種で、クラシックからジャズ、ロックまで幅広い音楽を限りなくリアルに再現できると評判です。

そんな夢のスピーカーが私のもとにやってきました。ところが、環境が整っていなかったため、その真価を十分に発揮させることができなかったのです。本記事では「802 Diamond」を導入した実体験を交えながら、その音の傾向や特徴、そして今後の改善課題についてお伝えしたいと思います。


現在のシステム構成と課題

今回「802 Diamond」に組み合わせた機材は以下の通りです。

  • アンプ:ONKYO A-7VL(デジタルプリメイン、パワー不足気味)

  • DAC:FOSTEX HP-A8

  • ソース:MacBook Pro

A-7VLはコンパクトで取り回しの良いアンプですが、さすがに802 Diamondのポテンシャルを引き出すには力不足です。本来であれば、200Wクラスの出力を持つハイエンドアンプと組み合わせるべきスピーカーですので、現状はその半分程度しか性能を生かせていません。

さらに部屋のデッドニング(吸音・拡散処理)も施していないため、反射音が回り込み、本来の解像度や定位をスポイルしてしまっています。つまり、宝の持ち腐れ状態ではあるのですが、それでも驚くほどの音を聴かせてくれるのが802 Diamondのすごさなのです。


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802 Diamondの音の傾向

ナチュラルな低域

ブックシェルフ型の805 Diamondでは20Hz付近の低音がやや持ち上がって聴こえましたが、802 Diamondではそうした誇張がなく、極めて自然な低音が再現されます。サブウーファー的な“部屋鳴り”ではなく、楽器本来の質感をそのまま描き出す印象です。そのため、低音を強調したサウンドに慣れている人には少々物足りなく感じるかもしれませんが、これは忠実再生を目指すB&Wらしい特徴だと言えます。

クラシック音楽で光る分解能

オーケストラを鳴らしたときの分解能は圧倒的です。バイオリンの弓使い、オーボエの艶、ヴィオラの繊細な響きまで明瞭に浮かび上がります。特にホルンのリバーブ感は、805シリーズと比べても段違い。譜面をめくる音まで聴こえるほどの解像度には驚かされます。

一方で、ピアノソロは“地味”に感じられる場面もありました。フジコ・ヘミングの録音を聴いたとき、その素直さに拍子抜けしたのですが、後から考えるとホール20列目で聴いた音そのものでした。B&Wの理念である「忠実再生」の証左とも言えるでしょう。

ヘッドホンで言えばHD800

この傾向は、ゼンハイザーの名機HD800を思わせます。華やかさよりも忠実さを優先し、長時間聴いても疲れないナチュラルバランスを保っている点が共通しています。派手さを求めるリスナーには合わないかもしれませんが、録音現場や生演奏を追体験したい人にとっては理想的です。

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ダイヤモンド・トゥイーターの実力

802 Diamondの最大の特徴といえば「ダイヤモンド・ドーム・トゥイーター」です。工業用ダイヤモンドを用いた超高剛性素材で、金属ドームの弱点である共振や濁りを最小限に抑えています。

実際に聴いてみると、PM1のアルミ・カーボン複合ドームでは感じられなかった透明感が得られます。女性ヴォーカルの抜け、アコースティックギターの倍音成分の豊かさなど、リアリティはまるで別物。離れた部屋で流していたギター演奏を、訪問者が「生演奏かと思った」と勘違いするほど自然に再現してくれます。


必要なアンプとデッドニング

現状のA-7VLでは完全に駆動できていないため、次のステップとしては高出力アンプの導入が必須です。候補としては以下のようなモデルが挙げられます。

  • マランツ PM-11S3

  • LUXMAN L-507uX

  • DENON PMA-SX1

  • McIntosh MA5200

これらはいずれも実売50万〜100万円クラスで、802 Diamondのポテンシャルをある程度引き出すことができるでしょう。理想を言えばセパレート構成ですが、そこまで揃えるとスピーカー本体と同額以上の投資が必要になります。

加えて部屋の音響調整も不可欠です。吸音材や拡散パネルを導入し、反射音をコントロールすることで、解像度や定位感は格段に向上します。現状では残響が多く、スピーカー本来の性能を阻害しているのが明らかです。


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802 Diamondと次期モデル

802 Diamondは2015年に生産終了し、その後継として「800 D3シリーズ」が登場しました。802 D3は米国価格でペア22,000ドル、日本では約300万円近い価格になる見込みです。

D3シリーズではクロスオーバーやキャビネット設計が刷新され、外観もモダンに進化しました。ただ、クラシックなデザインを好む人にとっては802 Diamondの方が魅力的に映るかもしれません。販売終了に伴い、今なら在庫限りで値引き販売している店舗もあるため、手に入れるならラストチャンスです。


まとめ──未完成の環境でも見えるポテンシャル

現状ではアンプの出力不足と部屋の未処理により、802 Diamondの能力は半分ほどしか発揮されていません。それでもなお、クラシックの壮大さや弦楽器の艶、ダイヤモンドトゥイーターの透明感は他のスピーカーでは得られない次元にあります。

完成したリスニング環境であれば、さらに別次元の音楽体験が待っていることは間違いありません。

「派手さではなく、忠実さを極める」。B&W 802 Diamondは、そんな哲学を体現したスピーカーです。オーディオ環境を整えつつ、このスピーカーの本領発揮を楽しみにしたいと思います。

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