スマートフォン=音質劣化の常識を覆す
かつて「iPodやiPhoneの音質は悪い」とオーディオマニアの間で囁かれていた時代がありました。オーディオショップに行けば必ずといっていいほど「ソニーのネットワークウォークマンを選ぶべき」と勧められ、iPodは利便性こそ評価されても音質面では二流の扱いを受けていました。
しかし、時代は変わります。iPhone 4での音質改善は驚きとともに迎えられ、さらにiPhone 5では音の分解能やクリーンさが格段に向上。従来の「ウォークマン神話」を崩すほどの衝撃をもたらしました。これに対抗するかのように、ソニーもNW-XシリーズやNW-Z1000といった音質特化型のモデルを打ち出し、その後はハイレゾ対応へと突き進んでいきます。
そして2014年、iPhone 6 Plusの登場は、単なる「大画面スマホ」の枠を超え、音楽再生機器としての存在感を一層高めることになりました。その鍵を握ったのが、DACの刷新と電源の大容量化です。
iPhone 6 PlusのDAC刷新と電源強化
iPhone 6 Plusは自らを「高音質モデル」や「ハイレゾ対応機」として売り出してはいませんでした。しかし、その内部構成には明確な変化がありました。
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DACの刷新
新しいDACが採用されたことで、高音域の表現力が飛躍的に向上しました。特に10kHz〜20kHzの帯域での透明感が際立ち、ハイハットの鋭い切れ味や、歪ませたエレキギターの倍音が美しく透き通るように響きます。これにより、アコースティックギターやピアノ、管弦楽器の音色が実物に近づき、リアリティが増しました。
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電源の大容量化
Plusモデルは筐体が大きくなった分、バッテリー容量にも余裕があり、安定した駆動が可能となりました。オーディオ再生において電源の安定性は音質に直結します。結果として低域の表現力が強化され、バスドラムの床を震わせるような迫力が小さなスマホから信じられないほど自然に再現されます。
iPhone 5との比較 ― 驚きの進化
同じ音量、同じヘッドホンを使ってiPhone 5と6 Plusを聴き比べると、その違いは歴然です。
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高音域:iPhone 6 Plusは曇りがなく透明感が高い。シビランスで耳を刺すこともなく、伸びやかで美しい。
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低音域:キレが良く、床を叩くようなバスドラムをリアルに表現。豊かさでは、かつて定番DACとされたFOSTEX HP-A7を凌ぐ部分もあります。
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全体のバランス:よりナチュラルで、楽器本来の音色を忠実に引き出す方向へ進化。
数年前に絶賛したソニー NW-Z1000と比べても、iPhone 6 Plusの方が上と感じられる場面があるほどでした。
専用オーディオプレーヤーとの比較
もちろん、10万円を超えるAstell&Kern AK120などの専用オーディオプレーヤーと比べれば、iPhone 6 Plusの音はまだ劣ります。しかし、1万〜3万円台の再生機と比べれば、iPhone 6 Plusの方が優れているケースも多々あります。
これは、量産効果によるパーツの質の高さも一因です。iPhoneのような世界的な量産モデルでは、通常なら高額になってしまう高品質部品もコストダウンの恩恵で搭載可能になります。逆に小ロット生産の専用機は不利な立場に追い込まれるのです。
そのため、iPhone 6 Plusに外付けDACや低価格帯のポータブルアンプを組み合わせても、むしろ満足度が下がる恐れがあります。もし外部機器で音質を本格的に高めたいなら、Astell&Kern K380クラスまで一気に飛ばさないと物足りなさを感じるでしょう。
実際のリスニング体験
iPhone 6 Plusは、モニター寄りのイヤホンやヘッドホンと組み合わせることで、その透明感のあるサウンドを存分に味わえます。
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高音域:美しく伸びやかで、透明感に富みながら耳を刺さない。
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中音域:ボーカルの質感が自然で、厚みよりもクリアさを重視した描写。
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低音域:切れが良く、量感も十分。タイトで引き締まったバスドラムは圧巻。
Apple Losslessで音源を取り込めば、ハイレゾ音源を必要としなくても、ほとんどのリスナーが満足できるクオリティに達しています。
まとめ ― iPhone 6 Plusは「隠れた高音質機」
iPhone 6 Plusは、外観や新機能ばかりが注目された機種ですが、実は内部のDAC刷新と電源の大容量化によって、音質面でも大きな進化を遂げていました。
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DAC刷新による高域の透明感
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電源強化による低域の迫力と安定感
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1〜3万円クラスの専用機を凌駕するケースもある高音質
スマートフォンでありながら据え置き機に迫る再生能力を持ち、特別に「ハイレゾ対応」と銘打たなくても、多くの音楽ファンを満足させられる一台。それがiPhone 6 Plusです。
オーディオマニアの視点からすれば、まだまだ専用プレーヤーに優位性はありますが、一般的な音楽リスナーにとっては「これ一台で十分」と言えるほどの完成度を誇ります。
ぜひ一度、iPhone 6 Plusで音楽を聴いてみてください。その澄み切った高音と力強い低音に、きっと驚かされるはずです。




