高級スピーカー、タンノイ(TANNOY) Precision 6.4の音質レビュー

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はじめに

「タンノイ」と聞けば、英国を代表する老舗スピーカーブランドとしてオーディオファンの記憶に刻まれている名前です。創業から長い歴史を持ち、クラシックやジャズをゆったりと聴かせる“伝統的ブリティッシュサウンド”の象徴でした。落ち着いた響き、温かみのある中域、そして家具のように佇む木製キャビネット──そのイメージはオーディオマニアの間で確立されてきました。

しかし今回取り上げる Precision 6.4 は、その固定観念を打ち破る存在です。

正直に言えば、従来のタンノイ・マニアには受け入れられないかもしれません。なぜなら、外観も音も、過去の「タンノイらしさ」から大きく離れ、近代的な設計思想を前面に押し出したモデルだからです。


デザインの革新

Precision 6.4を目の前にすると、まずそのシルエットに驚かされます。従来のチーク材やウォルナット仕上げの「家具然」としたキャビネットではなく、光沢あるピアノフィニッシュの仕上げ。造形はどこか Bowers & Wilkins(B&W) の現代的デザインを思わせるほどで、英国伝統の雰囲気から一転、ハイエンドモダンの世界に飛び込んだ印象です。

搭載ユニットも意欲的。ツインマグネットを用いたフルレンジユニットに加え、6インチ(150mm)の同軸ユニットを3基搭載。視覚的にも「攻め」の設計が伝わってきます。

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驚くほどシャープで鮮明な音

最も大きな驚きは、そのサウンドキャラクターです。これまでのタンノイが誇ってきた“落ち着き”“暖色系のトーン”とは真逆。Precision 6.4はシャープで鮮明、現代的な音を放ちます。

特筆すべきは「距離を取っても崩れない立体感」。

一般的な中級スピーカーでは、リスニングポジションを外れると音像がぼやけてしまいがちですが、6.4は数メートル離れても別室で聴いても、音がクリアに分離して届きます。

電子音を多用するDAW制作の楽曲では、高域が鋭すぎて耳に刺さるほど。そのため、場合によっては大音量再生を避けたり、アナログアンプを組み合わせて音を和らげる方が良いと感じます。逆に言えば、**「距離を離れても高域が減衰しにくい」**という特性は、このモデルの強みと言えます。

クラシックを例に取ると、フジコ・ヘミングの《ラ・カンパネラ》は一音一音が澄み切っており、マイルス・デイヴィスのトランペットは艶よりも鋭さを前面に出して響きます。J-POPにおいても女性ヴォーカルがステージ中央に立っているかのように定位し、非常に立体的に聴こえます。

ただし、B&Wの800シリーズと比較すると「艶や深み」ではやや劣ります。とはいえ価格を考慮すれば十分以上の完成度。むしろ現代的な鮮明さを求めるなら、Precision 6.4は大きな武器となるでしょう。


消え際のスピード感

音の消え際の速さも特徴です。例えばマッキントッシュ+JBLの組み合わせでは、音が尾を引き次の音と重なってしまう印象を受けることがあります。対してPrecision 6.4は、音がすっと消え、次のフレーズと混じらない。クリア志向のリスナーには心地よい特性です。

低音に関しては「十分に出る」という評価がある一方、筆者の試聴個体は新品直後ということもあり、重低音が少し物足りない印象でした。エージングが進めば変化する可能性もあり、長期的なレビューが必要です。

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スペック概要

推奨アンプ出力:20W~200W
連続許容入力(RMS):100W
最大許容量(瞬間):400W
能率(2.83V/1m):90dB
インピーダンス:8Ω
周波数特性(-6dB):29Hz~35kHz
クロスオーバー周波数:170Hz, 1.6kHz
ユニット放射角:90°コニカル
エンクロージャー:パッシブラジエーター方式
サイズ:310 × 1052 × 352mm
容量:44.1リットル
重量:21.8kg
発売日:2012年
メーカー希望小売価格(税別):1本 220,000円
参考価格:175,700円(税込)


総評

Precision 6.4は、タンノイというブランドが長年築いてきた伝統像から、大きく方向転換を図ったスピーカーです。古き良き「タンノイ・サウンド」を愛するマニアには歓迎されないかもしれません。しかし、これまで「タンノイは古臭い」と感じていた人にとっては、まさに革新的なモデル。

シャープで鮮明、距離を取っても崩れない立体感、スピード感ある音の消え際。これらはクラシック、ジャズ、J-POP、そして電子音楽まで、幅広いジャンルで新たな魅力を引き出します。

もしあなたが「伝統的なタンノイ」ではなく「新しいブリティッシュサウンド」を求めるのであれば、このPrecision 6.4はきっと期待に応えてくれるはずです。

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