最も良い高級スピーカーがB&W?
たまに「B&Wってどう?やっぱ一番いいの?」と聞かれることがありますが、これは少し違うと思います。オーディオスピーカーというのは、驚くほど好みが分かれる世界です。
私のように「B&W最高!」と15年以上も頑なにB&Wしか聴かない人もいれば、「JBL以外は認めない」「いやタンノイ派」「いやKEFのニアフィールドが至高」と、ブランドへのこだわりは人それぞれ。当人の好みが強く反映されます。
そこに「正解」はなく、「ラーメンこそ麺の王様!」「いや、蕎麦のほうが旨い」「私は素麺が…」と議論するようなもの。結局のところ、本人が気に入ったものが一番良いのです。
仮に好みのブランドが見つかったとしても、そこから先も選択肢は豊富です。B&Wの場合、ハイエンドの800シリーズだけでも800D3、802D3 PE、802D3、803D3、804D3、805D3、805D3 PEと、少なくとも7種類がリリースされています。

オーディオオタクの中には、「ピアノブラックのほうが音が良い」「いや、Prestige Editionよりローズナットのほうが響きが自然」など、仕上げやカラーによって音が変わると主張する人もいます。実際、エレキギターと同じように、素材や塗装によって音質に差が出るのは事実です。
それだけではなく、「ひとつ前のB&W 805Diamondのほうが音のバランスが好み」という人もいて、そうなってくると同じブランド内だけでも、好みの細分化はどんどん進みます。もはや数百パターン以上の“音の価値観”が存在すると言っても過言ではありません。
というわけで今回は、「B&Wの音が好き」という方向けに、805D3 Prestige Edition(PE)の魅力について書いてみたいと思います。
B&W 805D3 PEはどんな人にオススメ?
「606 S2 Anniversary Edition」や「705 S2 Signature」など、B&Wのブックシェルフ型スピーカーが好きな方であれば、805 D3 Prestige Edition(PE)はきっと気に入るはずです。
私自身、過去に802 Diamondを使用していましたが、800シリーズは「サイズが大きければ音が良い」という単純な話ではありません。聴く音楽のジャンル、聴く人数、設置する部屋の広さ、音量が出せる一軒家かマンションか、さらには音質を優先するのかインテリア性を重視するのか――そういった複合的な要素で判断し、最適なサイズを選ぶべきだと感じます。
私の場合は12畳前後のリビングで、インテリアとの調和を意識しつつ、日常的に気軽に音楽を楽しみたいというスタイルなので、805シリーズのようなブックシェルフ型がベストマッチでした。一方で、800 D3や802 D3のような大型フロア型スピーカーは、防音や反響対策を施した20畳以上の専用空間で、大音量再生を前提とする方に向いていると思います。
オーディオのセッティングは必要?
専門店の中には、スピーカーとリスニングポイントの距離や角度をレーザー測定で正確に割り出すような、非常に緻密なセッティングを行う業者も存在します。しかし、その設置例を見てみると、スピーカーのすぐ背後に石膏ボードの大壁があり、音が反射して濁ってしまうようなケースも多く見られます。カーテンのないむき出しの壁、音を吸収しない複合フローリングの床など、部屋の反響環境が悪いままスピーカーの角度だけを調整しても、根本的な解決にはなりません。
もし本格的にオーディオ環境にこだわるのであれば、遮音性の高いフローリングの上に毛足の長いカーペットを敷き、厚手のカーテンを取り入れるだけでも吸音効果があり、音質は劇的に改善されます。部屋の見た目にこだわらないなら、レコーディングスタジオ用のウレタンやメラミン製の吸音材を壁に貼ることで、素材に応じて低音〜高音の調整も可能になります。
スピーカーの設置位置や高価なアクセサリーにこだわる前に、まずは部屋そのものの音響特性を整えること。セッティングやアクセサリーは、その土台の上で“味付け”として楽しむものだと考えるのが理想的です。

良い点と気になる点:805D3 PEの音質印象
良い点
805D3 PEは、収録の新しいハイレゾ音源との相性が非常に良く、とくにR&BやJ-POPなど打ち込み系の音源ではキレのある再生ができ、聴いていてとても心地良いです。Amazon Music HDに切り替えてからは、SACD相当のハイレゾ音源が自由に聴けるようになり、スピーカーの性能を最大限に引き出せている実感があります。J-POPの懐かしい楽曲もリマスター音源が多く配信されていて、「こんなに音が良かったんだ」と驚かされることも少なくありません。
たとえば、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の主題歌である宇多田ヒカルの「One Last Kiss」も、ハイレゾで発売当日に配信され、話題の楽曲を最高音質で楽しむことができました。
中音域と高音域はとても美しく繊細に再現されますが、ベースとなる低音域にやや弱さがあり、そこが唯一気になるポイントです。802D3ではこのウィークポイントが完全に解消されていますが、その分ヴォーカルが中央に“浮いて”定位するような805D3の魅力が薄れてしまいます。好きなアーティストの「声」を立体的に味わいたいなら、805D3の方が適していると感じます。一方、R&Bの豊かな低音やベースの沈み込みを重視するのであれば、802D2の方が向いているかもしれません。
悪い点
805D3は信じられないほどレコードとの相性が悪いです。“名盤”とされる『Portrait in Jazz / Bill Evans Trio(リバーサイド盤・ビクター音楽産業発売)』を再生してみましたが、収録の古さがむしろ際立ってしまい、特殊なレーザーターンテーブルでも使わない限り、わずかなチリノイズが目立ちます。さらに、低音の厚みも物足りなく感じました。ベートーヴェンの三重協奏曲やショパンのバラードなど、10種類ほどのレコードで試してみましたが、805D3の高い解像度がかえって音源の粗を拾ってしまい、アナログとの相性に疑問を感じました。
この点においては、JBLやTANNOY、SANSUI、CORALといった30年以上前のモデルのほうが明らかに良い結果を出してくれます。あるオーセンティックバーで、紙コーン時代のスピーカーを使ってビル・エヴァンスを流していたことがありますが、空間の広さもあってか、音の抜けと空気感が抜群にマッチしていました。

また、Amazon Music HDで再生できる優れた音源であっても、大編成のオーケストラになると低音の不足が顕著に感じられます。これはブックシェルフ型スピーカーの宿命ですが、打ち込み系のように低音が過度に強調され、音圧の高い音源であれば心地よく再生される一方で、クラシックのようにダイナミックレンジの広いソースでは「ソロは音量を上げて」「サビで慌てて下げる」の繰り返しになり、通しで聴くのが難しくなります。
ピアノソロや無伴奏ヴァイオリンなどの小編成であれば、ブックシェルフ型でも十分に楽しめますが、オーケストラが主な目的であれば、JBL S4700や4349のような大型キャビネットを持つフロア型スタジオモニターを選んだほうが、より満足度は高いでしょう。
スピーカーは2年間でエージングされる?
これは正直、「分からない」としか言えません。仮にスピーカーを2セット(計4本)購入して、1セットだけを使い続け、数年後に未使用のセットと比較すれば明確な違いが分かるかもしれませんが、通常は1セットで聴き続けるため、耳が慣れてしまって機材側に変化があったのか、自分の聴覚が変わったのか判断がつきません。
一般的には「スピーカー内部のゴムや接着部分が長時間の使用でなじみ、音が滑らかになる」と言われていますが、少なくともB&W 805D3に関しては箱出しの状態で十分に完成された音質でしたし、2年後に急激な音質変化を感じたこともありません。

B&Wの限定モデルはお買い得
「B&W 805SD Maserati Edition」や「B&W 805 Diamond Limited」などの限定モデルは、量販店で入手可能なうえ、値引きもされやすく、さらにリセールバリューが非常に高いのが魅力です。マセラティエディションもリミテッドも、発売から6〜7年経過していても販売価格の70〜80%で取引されており、希少性とブランド力の高さを物語っています。
この805D3 Prestige Edition(PE)も例外ではなく、ヤフオクやメルカリでは2019年の購入価格とほぼ同等で売買されている状況です。803シリーズや804シリーズは比較的値落ちしやすいのに対し、802シリーズや805シリーズは10年以上経っても購入価格の半額以上でリセールできるケースもあり、発売直後に思い切って購入するのが結果的に最も合理的な選択かもしれません。
むしろ「そのうち安くならないかな?」と古い個体を高値で購入してしまうと、直射日光によるプラスチック部分のベタつきや、塗装のひび割れといった経年劣化に後悔することもあるため注意が必要です。
そんなわけで、B&W 805D3 Prestige Editionを2年間使ってみた感想としては、「限定モデルは買うなら“今”が最適」という一言に尽きます。
まとめ
B&W 805D3 Prestige Editionは、コンパクトなブックシェルフ型でありながら、高い解像度と美しい中高音を実現し、ハイレゾ音源との相性は抜群です。低音の量感やクラシック、アナログ音源との相性にはやや難があるものの、デジタル中心の現代的なリスニング環境では非常に優秀な選択肢と言えるでしょう。
さらに、限定モデルならではの資産価値の高さも魅力のひとつ。部屋の広さや使い方にマッチするなら、発売直後に思い切って買ってしまうのが、最も満足度が高い選び方かもしれません。



