「今年のボジョレー・ヌーヴォーは例年に比べて最高の味わい!」
そんな触れ込みとともに、スーパーやコンビニにまでボジョレー・ヌーヴォーが並ぶ季節になりました。ここ数年は飲んでいなかったのですが、久しぶりに飲んでみようと思い、少し高いなぁと思いつつもイオンワインで2021年のボジョレー・ヌーヴォーを購入してみました。
毎年この時期になると「今年のボジョレーは素晴らしい」「近年まれに見る出来」といった言葉が飛び交いますが、個人的にはヴィンテージだけでなく、どこの畑で誰が造ったのかという生産者側の違いもかなり重要だと思っています。
例えば山梨県は桃の産地として有名ですが、同じ地域でも標高、斜面の向き、日照時間、土壌などは場所によって違います。さらに生産者によって肥料の与え方、剪定、収穫時期なども異なります。同じ「山梨の桃」であっても、全部が同じ味になるわけではありません。
ワインも同じです。
ボジョレー地方のブドウ畑は、リヨンの北側からマコネ地方の南側にかけて南北約55kmに広がっています。北部にはモルゴン、フルーリー、ムーラン・ナ・ヴァンなど10のクリュがあり、中央から南部にはボジョレー・ヴィラージュやボジョレーAOCの畑が広がります。同じガメイを主体としたワインでも、土壌や標高、斜面、生産者によって当然味わいは変わってきます。(ボジョレー)
一方で、同じ年の気候による共通した傾向もあります。夏の気温や降雨量、収穫期の天候などは広い範囲で影響するため、「2021年は酸が残りやすかった」「果実の成熟が穏やかだった」といったヴィンテージ全体の特徴が現れることもあります。つまり「今年のボジョレー」という表現が完全に無意味なわけではありませんが、それだけで一本一本の味を決められるほど単純でもありません。
2021年のボジョレー・ヌーヴォーはどんな味?
飲んで最初に感じたのは、やや冷涼で、小粒の酸が生き生きしていることでした。
過去の記憶と比較すると、2016年頃に飲んだボジョレー・ヌーヴォーには、もっと果実味が溢れ、ジューシーで、少し熱帯の動物園を思わせるような賑やかなニュアンスがありました。
それに対して2021年はかなり大人しいです。
涼しげで、果実が過熟していない。ガメイらしい明るさを持ちながら、どこか冷涼な地域のピノ・ノワールを連想させるような、細身でエレガントな片鱗があります。
もちろんボジョレーの品種はガメイなので、ピノ・ノワールそのものという意味ではありません。しかし「赤い果実が爆発する」というより、酸と香りを細く整えたような印象です。
ドメーヌ・ピュリア ロイック&ノエル 2021
今回イオンワインで選んだのは、少し高価な「ドメーヌ・ピュリア ロイック&ノエル 2021」。価格は2,980円、税込3,278円でした。
ワイン専門家の高野豊氏が選定したコレクションの一本ということで、せっかくなのでこちらを選んでみました。もちろん誰か権威のある人が選んだから必ず美味しいというわけではありませんが、スーパーに大量に並ぶヌーヴォーの中から一本を選ぶ基準としては面白いと思います。
ドメーヌ・ピュリアはボジョレー地方のモルゴン周辺に畑を持つ生産者で、今回のワインには平均樹齢30年以上という古樹、いわゆる**Vieilles Vignes(ヴィエイユ・ヴィーニュ)**のブドウが使われているとのことでした。
ここでいうVVは「古酒」という意味ではなく「古い樹齢のブドウの樹」です。古樹だから自動的に高品質になるわけではありませんが、収量が自然に落ち着き、条件によっては凝縮したブドウが得られることがあります。
また、自社畑を管理しているドメーヌであれば、栽培から収穫、醸造まで一貫した方向性を持たせやすいという魅力があります。もちろん協同組合やネゴシアンにも素晴らしいワインはありますが、一本のワインが「誰の畑から来て、誰が造ったのか」が分かりやすいことは、ワインを楽しむうえで面白い部分だと思います。
ドメーヌ・ピュリア ロイック&ノエル 2021の味わい
コルクを抜いた瞬間に飛び出してくるフレッシュな香りで、大昔に飲んだボジョレー・ヌーヴォーの記憶が一気によみがえりました。
あれから数百本以上のブルゴーニュを飲んできましたが、それでも一瞬で「ああ、ボジョレー・ヌーヴォーだ」と分かる独特の香りがあります。これが若いガメイ由来なのか、ヌーヴォー特有の醸造由来なのか、あるいはボジョレーという土地のニュアンスなのかは分かりませんが、とにかく記憶を直接刺激してくる香りです。
グラスへ注ぐと、百花の香りとまでは言いませんが、スイートピー、ローズヒップ、少しバニラを思わせるような、草花とハーブのニュアンスが混じります。甘酸っぱく、どこか可愛らしい香りで、しばらくグラスを嗅いでいたくなります。
口に含むと、完熟したあまおうやとちおとめのような濃密な苺ではありません。もう少し小粒で、まだ少し酸を残した苺を噛んだ時のような、明るい酸味がふわっと広がります。
酸にはきちんと骨格がありますが、刺さるような不快なものではありません。完熟する直前の果物にある、少し青くて、少し酸っぱく、それでも爽やかな味です。
余韻はそれほど長くありません。すっと消えていきます。
しかし、それもこのワインには合っています。濃厚なソースのように舌へ残るのではなく、果物の盛り合わせを食べているように次の一口へ進んでいきます。
バナナ満開のヌーヴォーとは正反対
以前飲んで気に入っていた「ポール・アンドレ・ブロセット ボジョレー・ヌーヴォー レオ・セレクション」とは、ほとんど正反対のキャラクターです。
あちらはバナナを思わせる甘い香りが前面に出ていて、いかにもボジョレー・ヌーヴォーらしい賑やかさがありました。
一方、ドメーヌ・ピュリアはトロピカルではありません。
ホテルのロビーで大きな花束を渡された時のような、フローラルで少し涼しげな香りです。派手に果実を押し出すというより、花と酸の透明感で見せるタイプです。
土、革、枯葉、出汁のようなニュアンスが複雑に入り混じった熟成ブルゴーニュをいきなり渡されるより、普段あまりワインを飲まない人には、こうした分かりやすく華やかなワインの方が親しみやすいと思います。
プレゼントにも向いていそうです。
このワインを飲むには、少し遅すぎた
アラサー男性がこんなことを書くと少し気持ち悪いのですが、このボジョレー・ヌーヴォーには、可憐な少女のような快活さと透明感があります。
明るくて、素直で、軽やかです。
素晴らしいワインなのですが、飲みながら「これは今の自分には少し若すぎるな」と思ってしまいました。
疲れたアラサー男性を癒やしてくれるのは、むしろボーヌやヴォルネイ、オーセイ・デュレスあたりの古酒。それも20世紀に造られ、果実がすっかり落ち着き、枯葉や土、古い家具のような香りをまとった赤ワインの方が、今の自分にはしっくりきます。
普段それほどワインを飲まない若い男女が、クリスマスディナーで開ける一本としては、このボジョレー・ヌーヴォーはかなり良いのではないでしょうか。
花の香りがあり、酸は爽やかで、タンニンも重くない。
難しいことを考えずに飲んでも美味しいですし、少し真剣に香りを取れば細かな花や果実の違いも楽しめます。
ヌーヴォーの先にあるボジョレーも面白い
ボジョレーというと、日本ではどうしても11月のボジョレー・ヌーヴォーばかりが注目されます。
しかしボジョレー地方には、ヌーヴォー以外にもかなり面白いワインがあります。
北部にはモルゴン、ムーラン・ナ・ヴァン、フルーリー、サンタムールなど10のクリュがあり、それぞれ土壌や地形が違います。ボジョレー公式にも、北部の10クリュ、中央部のボジョレー・ヴィラージュ、南部を中心とするボジョレーというように、地域によって異なるスタイルが形成されていることが示されています。(ボジョレー)
若いうちのガメイだけでなく、熟成したモルゴンなどには全く違う魅力があります。
それこそ先日話に出たルー・デュモンのレア・セレクション、モルゴン1995のような熟成したワインになると、ボジョレー・ヌーヴォーの明るい果実味とは別世界です。果実が落ち着き、枯れたニュアンスや複雑な香りが現れ、大人がゆっくり飲むガメイになります。
2021年のドメーヌ・ピュリア ロイック&ノエルは、そうした熟成ワインとは反対側にある一本でした。
若く、軽やかで、花が咲いていて、酸がきれいです。
そして飲み終わって思ったのは、「ボジョレー・ヌーヴォーだから」と一括りにするのは、やはり少しもったいないということでした。
ヴィンテージだけでなく、生産者、畑、樹齢、造り方によって表情はかなり変わります。
毎年のお祭りとして気軽に一本開けるのも良いですが、今年は少しだけ生産者まで見て選んでみると、いつものボジョレー・ヌーヴォーがもう少し面白く感じられるかもしれません。