BMW 640i クーペ(F13/N55)を10年越しに総括

クルマ
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購入から売却までの距離感

車のレビューは、購入直後の高揚感のまま一気に書かれることが多い一方で、数年乗ってからの“生活者の実感”はあまり残りにくいものです。そこで今回は、私がちょうど10年前に購入したBMW 640iクーペ(F13)について、2015年6月に購入し、2020年12月までの5年間で感じたことをまとめておきたいと思います。

購入時の走行距離は27,000km、売却時はおよそ75,000km。約5万kmを実際に走りきった上での率直なレポートになります。


購入までの経緯:E92の衝撃から“6”への分岐

最初にBMWへ足を踏み入れたのはE92 320iでした。その後にE92 335i M Sportへ乗り換え、2.0Lから3.0L直6ツインターボへのスイッチで「これがBMWか」と度肝を抜かれました。ボディ、フレーム、足まわりの総合設計が素晴らしく、以後は国産車へ戻れないほどの“信仰”が芽生えたのを覚えています。

10万km近く走った335iは家族へ譲り、次の1台を探したのが2015年。候補は6シリーズ(F13)とE92 M3でした。とはいえ当時のE92 M3はV8 NAの評価が高いこともあり、認定中古で600万円前後、状態に難がある個体でも450〜500万円。しかも“認定”に限ると玉が少なく、私が探していた夏頃は全国でほぼ弾切れというタイミングでした。

一方、新型のF82 M4は出たばかり。新車1,400万円が少し落ちた程度で、総額は1,000万円オーバー。現実的ではありません。そんな時に偶然出会ったのが、神奈川県・平塚市のディーラーにあった1台の640iクーペでした。初年度登録は2011年11月、つまりモデルとしては2012年式相当。発売から約4年にもかかわらず半値近くまで下がっており、「1,000万円級のプレミアムクーペに400万円台後半で乗れる」と知って、一気に現実味が増しました。現車を見て、流れるようなスタイリングに完全に心をつかまれ、その場で5年の長期ローンで契約しました。


支払いと保証:実際にかかった総額

車両本体は500万円弱。ここに税金・登録・車検関連費用などが加わり、長期ローンの手数料(約30万円)も含めると、総額はおおむね550万円になりました。当時は4シリーズも出たばかりで、435iの良質な中古はむしろこれより高い水準。結果的に6シリーズの割安感は際立っていたと思います。さらに2年保証を付けてもらえたのが決め手でした。

納車は約3週間後。静岡での目撃例は少なく、同じマンションに白のF13に乗る方が1人か2人いる程度。街中での存在感は圧倒的で、所有満足度は非常に高かったです。


エクステリアとホイール選び:20インチ化の功罪

購入当初、標準ホイールの見た目がどうにも気に入らず、早い段階で**F10 5シリーズ用オプション “Style 356”**へ交換しました。

この初期のホイールがあまり美しくないです。軽いアルミの色で、エレガントなのですがもう少しという感じでした。

  • 20インチ

  • フロント:245/35R20

  • リア:275/30R20

こちらがスタイル356です。鍛造で肉抜きされて色も美しいです。

当時としてはかなりワイドで、巨大なF13ボディとの相性は抜群。グランドツアラーらしい伸びやかさに、スポーツのエッセンスが強く加わりました。M Sportと比べるとやや“眠たげ”とも言えるフロントマスクですが、私は猫のような眼差しがむしろ好みで、グリルや下部メッキ、ウィンドウモールのシルバーが織りなす統一感も大好きでした。

一方で乗り心地は明確に悪化します。ノーマルを10とすると、20インチ化で7〜8へ低下。段差での突き上げが増え、ステアリングの初期切り込みも重め・遅めになります。ワインディングで狙ったラインへ素早く入るなら18インチ前後がベスト、というのが私の結論です。狭い峠道ならなおさらです。ただ、富士スピードウェイのような広いコースでは20インチでも大きな不満は出ませんでした。


タイヤでクルマが“別物”に:PSS → PS4Sの衝撃

納車時に付いていたタイヤは正直“薄味”で、制動時に簡単にスキール音が出るレベル。「これはまずい」と感じ、すぐにミシュラン Pilot Super Sport(PSS)へ。

PSSはハイグリップ+高いコントロール性で、特に高速域での安心感が出色。雨でも安定し、疲労感が少ないことに驚きました。3年ほど経って**Pilot Sport 4S(PS4S)**に履き替えると、体感はまさに“車体が200kg軽くなった”よう。切り込みは鋭く、静粛性も改善、乗り心地まで向上しました。F13の良さを最大化するなら、**PS4S(もしくはPS5系)**は本気でおすすめできます。格安コンフォートからの換装なら、別の車に乗り換えたと錯覚するほどの差が出ます。


故障・維持費:5万kmで何が起きたか

大きな故障はゼロでした。唯一のトラブルはソフトクローズドアのアクチュエーターで、保証内対応(実費換算で約10万円)。前後ブレーキパッドの交換が両方で10万円前後。3シリーズ比で極端に高いという印象はなく、「壊れなければコストは落ち着く」という実感でした。N55直6ターボの信頼性も、この個体では良好だったと言えます。


キャビン品質と長距離性能:7シリーズ級の静けさ

外観は低く長いシルエットでスポーティですが、**ドアを閉めると一気に“別世界”**です。

  • 静粛性は7シリーズ級

  • エンジン始動時の振動が極小

  • 大柄な体格でも余裕のあるシートサイズ

この1台で静岡―九州往復青森往復など、1日で800km超のロングランを何度もこなしましたが、疲労は最小限でした。途中で短い仮眠を挟めば、無理なく移動できます。内装の作り込みも素晴らしく、ダッシュボードのステッチセンターコンソールの素材感は高級感に直結。ドアのきしみも皆無で、**3シリーズよりさらに厳格な“組み”**が感じられます。

装備面では、

  • ソフトクローズ(軽く寄せてもしっかり施錠)

  • コンフォートアクセス(触れるだけで施錠・解錠)

  • リモコン長押しでのウインドウ開閉

  • 電子式パーキング/オートホールド

    などが日々の快適性を底上げしてくれました。


走りの二面性:ラグジュアリーとスポーツのスイッチ

F13はドライブモードの切り替えで性格が大きく変わります。

  • Comfort:上質なグランドツアラー

  • Sport/Sport+:足が引き締まり、エンジン回転は高め、トルクの出方も鋭さが増す

DTCやDSCを緩める(あるいはオフ)と、FRらしい素直な挙動で軽いドリフトも可能。シフトをSに入れれば積極的に回る“BMWらしさ”が顔を出します。電子制御のトーンはあくまで上品で、街とサーキットの境目を上手にぼかす、そんな味付けです。


富士スピードウェイでの実測:ノーマルで2分10秒

この640iで富士スピードウェイの走行会に参加したことがあります。コンディションは万全ではなく、タイヤも減り気味でしたが、2分10秒が出ました。新品タイヤと良好なブレーキで挑めば、フルノーマルでも2分05秒台は狙えるはずです。

もちろんM6650i(V8)に比べれば絶対パワーは不足しますし、ラグジュアリー寄りのシートはサーキットでは体を支えきれません。ただ、N55のECUチューンや軽量化、タイヤ・サス・ブレーキの適正化で、十分に「タイムを狙える」領域には入ってきます。ちなみに、富士スカイラインの急坂などでは“あと一歩の押し”が欲しい瞬間が何度かありました。車重約1.8t × 320psというバランスゆえですが、ECUで350〜400psを狙えれば、その物足りなさはかなり解消すると思います。

要するに**「普段は静かに速く、やる気になればそこそこイケる」**。これが私の640iに対する結論です。


中古相場と狙い目:2025年時点の冷静な提案

新車時は約1,000万円。私が購入した4年落ちは約500万円。2020年に売却した頃は150〜200万円でした。そして2025年の現在、良質個体が驚くほど手頃になっています。

極端な例では100万円台からF13が見つかります(例:走行11万kmなどの過走行)。走行距離6万km上限などで絞り込むと160万円前後200万円あれば3万km台の好条件に届くこともあります。ブッシュやゴム部品など経年劣化は想定すべきですが、消耗品の計画交換を前提にすれば、まだまだ“快適に走れる”ポテンシャルは十分です。

滅多に出ませんが、BMW認定中古車で保証付き(1〜2年)の個体が200〜300万円台で“年に数件”ひょっこり市場に現れることがあります。ワンオーナー/低走行/屋内保管のような“履歴の美しい個体”に出会えたら強く推します。保証重視派には、かなり理想的な選択です。

1.1万キロでは新車レベルに綺麗だと思います。


なぜ今でも心を動かされるのか:F時代の完成度

この世代の6シリーズは、FR × 直列6(N55)という伝統的パッケージが磨き上げられ、ラグジュアリーとBMWらしい走りのバランスが絶妙でした。最新のG系も技術的には進化していますが、F13の“官能”は別物だと感じます。

私は640iとM6という両極端を経験し、650iは未体験ですが、中間解としての魅力は想像に難くありません。それでも、直6の気持ちよさは替えがたいものがあります。迷っている方には、640iを選んでも後悔は極めて少ないはず、と背中を押したいです。台数は減っていますが、いまこそ**“状態の良い一台”を射止める好機**だと思います。


まとめ:5年間でわかった“F13 640iという回答”

  • 所有満足度:スタイリングと存在感は圧倒的。街での目立ち方は今でも特別です。

  • 快適性:7シリーズ級の静けさと、長距離での圧倒的余裕。800km/日も難なくこなせます。

  • 走り:モードで性格が一変。普段は上品に、走らせればBMW

  • 維持:大故障なし。日常メンテと消耗品更新で素直に乗れます。

  • タイヤの重要性PS4Sで“別の車”。ホイールは18インチ前後が万能解。

  • 中古相場:2025年の今が狙い目。保証重視なら認定中古の“掘り出し”を待つのも手。

ゆっくり快適に走れるけれど、スポーツ走行でも“そこそこ速い”――これがF13 640iの本質です。

静と動、上質さと楽しさ。その折り合いが見事で、5年・5万kmを走り終えてなお、「もう一度所有したい」と思わせる一台でした。F13と暮らす日々は、いま振り返っても確かな満足で満たされています。興味のある方は、ぜひ“あなたの一台”を早めに見つけてください。きっと長く、豊かな時間をもたらしてくれるはずです。

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