今回は久しぶりに「BMWの中古車はいつ買うのが正解なのか?」を振り返り、あらためて自分なりに定義し直してみたいと思います。
ご存じのとおりBMWは、新車で買うのは本当に裕福な人やこだわりの強い人に限られ、2〜3年経つだけでひどいと30〜50%近く値落ちすることも珍しくありません。
よほど収入に余裕があるか、あるいは趣味性に全振りできる人でない限り、新車をバンバン買うのは“合理的ではない”というのが昔からの定説でした。だからこそ合理的に考えると、車検が2回目を迎える5年目あたり――つまり2回目の車検前後――が「お買い得ゾーン」だと言われてきたのです。

実際、私自身も昔から中古車の相場をウォッチするのが好きで、ヤフオクやカーセンサーを日課のように眺めていました。元ネタをたどれば、自作PC界隈で有名だった「今は時期が悪いおじさん」にも通じる話です。パーツ価格は待てば下がる、だから今は買うな――そんな言説がBMWの中古車市場でも当たり前のように語られてきました。
| 年数 | 評価額 | 残価(%) |
|---|---|---|
| 新車 | 708万円 | 100.0% |
| 1年 | 478万円 | 67.5% |
| 2年 | 399.5万円 | 56.4% |
| 3年 | 340万円 | 48.0% |
| 4年 | 327.5万円 | 46.3% |
| 5年 | 292.5万円 | 41.3% |
ただし、結論を先に言えば、その“一律の正解”はすでに崩れつつあります。昔のように“待てば安くなる”が自明だった時代とは前提が違います。だからこそ、いまの相場の歪みやモデルごとの差、装備や電動化のクセをまとめて見直しておく価値があると思いました。
「今は時期が悪いおじさん」と指数関数の終わり
「今は時期が悪いおじさん」をご存知でしょうか?
PCパーツ界隈を歩いた人にはお馴染みの「今は時期が悪いおじさん」。かつて自作スレで「GPUを買おうと思う」「SSDを増設したい」と書けば、秒速で「今は時期が悪い」が飛んできました。背景は単純で、ムーアの法則の実感が強かったからです。
2000年代前半、HDD容量は5〜10GBから50GB、100GB、そして1TB、2TBへ。GPU性能も世代ごとに段違い、価格はセールでガクッと下がる。「来月にはもっと良いのが安くなるぞ」という予測が、現実に何度も当たった時代でした。

2007年5月14日にドスパラで筆者撮影
ところが、コロナ以降、タイ洪水、サプライチェーンの寸断、エネルギーや原材料高、為替の激変……価格は必ずしも右肩下がりではなくなった。私も2TBのSSDを約2万円で買ったところ、その後しばらく“価格が上がる”という珍現象に遭遇。つまり、“待つほど得”の前提が崩れ、今は時期が悪いおじさんは徐々に姿を消したのです。
このパラダイムシフトがクルマにも静かに波及しています。特にBMWはモデルサイクルの変化、小売価格上昇、電動化、規制対応、デザイン言語の刷新など同時多発で起き、単純な減価曲線を描きにくくなりました。そんなことから「3年落ちが最もお買い得」といった“古い常識”を、いったん忘れる方が良さそうです。
F型→G型→ノイエ・クラッセ:デザインは“慣れ”だけで語れなくなった
私はE90/E92期にどっぷり浸かった世代です。F型が出た当初は「うーん」と首をひねりつつ、数年で目が慣れて“やっぱり良い”へ転じたタイプ。しかしG型は5年たってもなお、私の中で完全に慣れていないのが正直なところです。

2014年6月1日中古車販売イベント
理由はいくつかあります。
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デザインの目的地が変わった。 衝突安全性・歩行者保護・新市場の嗜好(中国/中東)へ配慮した結果、古典的“駆け抜ける喜び”の顔つきから、前衛的・大胆な造形へ。
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インテリアのUI/UXが別物。 メーターがクラシカルな二眼計器から大画面連結ディスプレイへ。“機械式の手応え”より“ソフトウェア”が前面に出る設計思想。
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駆動・パワートレーンの多様化。 マイルドハイブリッド、PHEV、xDrive前提の重量配分……“FR+直6”のピュアさ一択ではなくなった。
さらに来年以降のノイエ・クラッセは、60年代アイコンの名を借りた“完全刷新”。スクリーン、センサー群、電動化を主軸に「BMW=エモーショナルな機械」から「BMW=感性最適化されたモビリティOS」へと舵を切りつつあります。
ここで言いたいのは、「新しい=劣っている」でも「古い=至高」でもないということ。価値軸が分岐したのです。だから中古で“あなたの価値軸”に合う世代を選ぶのが、これまで以上に重要になります。
価格の“歪み”はどこに出るか:G20前期、F30後期、F80 vs G80の妙
最近の相場で気になるのは、新旧の価格帯がグラデーションで重なり始めていること。たとえば:
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G20(前期)3シリーズが、認定中古で早くも250万円台に顔を出す。一方、
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F30後期(2018年型)の320d/320i良質個体も同レンジに残存。
- 出典元:https://usedcars.bmw.co.jp/
- 出典元:https://usedcars.bmw.co.jp/
普通なら“より新しいGが高い”はずが、デザイン嗜好の割れや、装備の好み(物理キーの残存/デジタル化の度合い)でF後期を選ぶ層が一定数いる。結果、価格が接近・逆転する局面が生まれるのです。

今見ても美しいF型前記のインテリア、メーターやシフトなど古典的配置
Mでも同様。
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F80 M3最終(2019):認定で700万円台。
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G80 M3初期(2020〜):新車は跳ね上がったのに、中古は2022年コンペでも800万円台まで落ちる個体が出る。
差額わずか100万円。ここに「価値の不確実性」がにじみます。
Gの性能は圧倒、でもFの軽快・ラフさやNAライクなフィールのファンは根強い。つまり性能ベースの減価と情緒ベースの保ちが綱引きを起こし、価格が“教科書どおり”に動かないのです。
電動化をどう見るか:アクティブハイブリッド、PHEV、iシリーズ
10年前は「未来」だったアクティブハイブリッド3(または5)は、今や相場の底です。理由はシンプルで、バッテリーの経年リスクと重量増による操安の劣化、積載やメンテの制約が中古ユーザーの“不安”に直撃するからです。直6搭載という魅力があってもなお、高額な蓄電池の交換可能性=不確実コストとして嫌われ、100万円を切る個体も出てきています。
2012年から2015年まで生産されましたが、当時は乗り出し価格が800〜850万円ほどのの車両も6.9万キロで状態も良さそうですが、本体価格65万円まで下がっています。3リッター直6ターボを搭載しているので、バッテリー問題が解決できればもっと価値が出ても良さそうではあります。
出典元:https://www.carsensor.net/usedcar/detail/AU6506180076/index.html?TRCD=200002&RESTID=CS210610
PHEVも似た構造ですが、日常距離のEV走行+補助金世代は一部で踏ん張る。とはいえ次の車検・次のバッテリー劣化が見えた瞬間、価格の下げ圧は強くなっています。電動化=全部ダメではなく、車両コンセプトの完成度が相場耐性を決める。バッテリー搭載系はかつて以上に重要です。
余談ですが、ポルシェ・タイカンはさらに過酷で、ポルシェブランドがあってしても3年で66%オフの大バーゲンになってしまうようです。新型の性能アップと同時にリースや残価設定ローンなどの売却で市場が飽和しているようです。
ポルシェのタイカンが安すぎる。
3年で3分の1か… pic.twitter.com/eNOh6dWufV— まさるmasaruTV 車YouTuber 兼 建築家 関西 関東 MSR (@DD_dai_dai) August 13, 2025
2022年当時1500万円程度の車両が1度目の車検で、走行距離わずか1.8万キロで669万円は驚愕ですね。ここにもEVやPHEVの難しさが現れています。
2025年“今”の狙いどころ
さて、あくまで私見ですが、いま手を出す合理性が高いところを性格別に紹介します。
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古典BMWの骨格を味わいたいよ派
F30後期 320i/320d:物理キーの残存、必要十分のパワー、維持費も控えめ。良質認定で250万円前後は“終着点価格”に近い。
F20 118i後期(B38):軽快なFRハッチ。走行3〜6万km、整備簿付きが理想。
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GTでロングを流したい派
F36 420i/430i グランクーペ:スタイルと実用のバランス。20インチより18インチ+良タイヤの実用仕様が理想的。
G30 523d/530i 前期後期問わず:完成度が高く、装備の厚い個体は長く価値を保つ。そもそも新型5シリーズは丁寧に乗られやすい。
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Mの入口を踏みたい派(無理しない)
F87 M2 :前期ならカーセンサーでは200万円台になったけれど、エンジンがN55ベース。コンペティションになるとF82 M4と同じS55になって別物。
F80 M3後期:700万円台の認定は“最後の安全地帯”。機械のラフさがまだ残る。
G80 M3 初期:800万円台に触れてきたら“買い”。
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電動化の“成功例”を味わう派
i3(レンジエクステンダー有無は好み):唯一無二の軽さ。i8などは状態が良い個体はむしろ上がる可能性。
330e/G30 530e 後期:自宅充電前提・短距離中心なら合理。バッテリー健診レポート必須。

注意深く見ていると、認定中古車でも乗り出し400万円台でM6が保証付きで出ていたりすることも……。

ご覧の通り9年前は定価18,910,000円で、乗り出し2000万円近い究極のラグジュアリークーペが、たったの470万円しかも1年走行距離無制限保証付き!で乗れるチャンス(!?)
「待てば得」の時代は、いったん終わった?
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昔の正解:「3年落ちを待てば、より安く・より良く」
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いまの正解:「相場の歪み・装備の価値・保証の厚み・電動化のリスクを束ね、自分の価値軸に合う個体を“見つけた時に買う”」
価格は必ずしも右肩下がりではなく、新旧の価格帯が重なり、感性と機能の分岐が起きています。ノイエ・クラッセで価値軸はさらに分岐するはず。“古き良きBMW像”を求めるなら、むしろ今が買い時ですし、最新のOS体験や電動化の先端を味わいたいなら、次世代を待つのも戦略です。
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目的を決める(GTか、FR感性か、最新UIか)
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予算を“総額”で決める(本体+保証+タイヤ+次回車検想定)
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掘り出しを“待つ”のではなく、“見に行く”
これが、今後のBMWの理想的な1台を見つける秘訣かもしれませんね。







