皆さんはSNSやYouTubeなどで、「FXで人生が変わった」「短期間で数千万円を稼いだ」という投稿を目にしたことがあるのではないでしょうか。
キラキラした画像や数字を見ると、自分も頑張ればできるのではないかと感じる人も多いと思います。
しかし実際のところ、FXで人生が好転するケースはごくわずかで、大半の人は逆に人生を大きく狂わせてしまうという現実があります。
今回は、実際にSNS上で「ハイレバ戦士」として活動していたあるトレーダーのケースをもとに、なぜFXで勝ち続けるのが難しいのか、そして税金が人生プランを破壊してしまう仕組みについて詳しく解説していきます。
一度の成功が人生を狂わせる
あるSNSの人物は、10年間にわたって海外FXを続けていましたが、その間の収支はマイナス600万円。いわゆる「勝てないトレーダー」の典型でした。
ところが2021年、ついに大きな波をつかみ、ゴールド(XAU/USD)の取引を中心に最大で2,400万円の利益を出すことに成功したのです。
SNS上では「ついに覚醒した」「10年の努力が報われた」と話題になり、多くのフォロワーが祝福しました。
本人もこの成功で勢いづき、2,400万円を元手に、1億円、さらには10億円を目指して再びレバレッジを高めて挑戦を続けました。
いわゆる「勝ちグセ」がついた状態です。
しかし、市場は容赦なく反転します。
相場がわずかに逆方向に動いただけで、ハイレバレッジ取引では損失が一気に拡大します。
何度もロスカットに遭い、資金を追加投入して「取り返そう」とするものの、結局は追証が発生。
最終的には資金がゼロになり、800万円の借金を抱えることになりました。
自己破産しても、税金だけは逃れられない
この方は最終的に自己破産を選択しました。
借金800万円のうち、クレジットカードや消費者金融などの債務は帳消しになりました。しかし、もうひとつ逃れられなかったのが「税金」です。FXで得た利益は「雑所得」に分類されます。
特に海外FXの場合は「総合課税」が適用され、他の収入と合算して税額が決まります。所得が高くなるほど税率が上がる仕組みのため、2,400万円の利益が出れば実効税率は50%前後にもなります。
つまり、約1,000万〜1,200万円の税金が発生していたと考えられます。問題は、この税金が「その年の利益」で確定してしまうことです。
翌年にどれだけ損を出しても、FXの損失は翌年以降に繰り越せないため、税金は減りません。たとえ口座資金をすべて失っても、税務署からの請求は止まりません。
さらに追い打ちをかけるのが「破産しても税金は免除されない」という現実です。破産法第253条では、税金や社会保険料などの公的債務は免責の対象外と定められています。つまり、借金は帳消しになっても、税金だけは残り続けるのです。
税金地獄のメカニズム
このような仕組みのため、FXトレーダーの多くが「税金地獄」に陥ります。税金を支払うための資金が残っていないのに、請求だけが現実としてやってくるのです。
一括で支払うことが難しい場合、税務署と交渉して「分納(分割払い)」を行うことになります。
たとえば税金1,000万円を月5万円ずつ返済した場合、完済までに約17年かかります。その間も延滞税(年2.5〜8.8%)が発生し、元本がなかなか減りません。
また、生活費・家賃・社会保険料なども支払い続けなければならないため、実質的には年200万円以上の収入を安定して確保し続ける必要があります。
このようにして、破産後も長期にわたって「税金だけを払い続ける生活」が始まるのです。彼もSNSで「コツコツ返済中」「まだまだ先は長い」と語っています。
まさに、勝っても破産するという典型的な構図です。
FXが構造的に不利な理由
FXが難しい理由は、単に相場が読めないからではありません。
税制や制度の構造そのものが、投資家にとって不利なのです。
国内FXの場合は、税率が一律20.315%の「申告分離課税」が適用されます。損益通算や3年繰越控除も可能で、制度的にはまだ安全です。
しかし、海外FXは完全に別物です。
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「雑所得」として総合課税
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税率は最大55%前後(所得に応じて上昇)
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損益通算できない
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繰越控除できない
つまり、負けた年の損失は無視され、勝った年だけ重課税されるという仕組みです。運良く一度大勝しても、翌年に損を出せば税金だけが残る。
これは制度上の“罠”であり、気づかないまま大金を失うトレーダーが後を絶ちません。
株式・ETF投資との決定的な違い
これに対し、株式やETFを「特定口座(源泉徴収あり)」で運用する場合、税金処理は非常にシンプルで安全です。売却益が出た瞬間に自動的に20.315%の税金が引かれるため、「後から税金を請求される」ことがありません。
さらに、他の株や投資信託との損益通算も可能で、もし年間でマイナスになった場合でも、3年間の繰越控除が使えます。また、NISA(新NISA・旧NISA)を活用すれば、利益が出ても完全非課税です。
しかも、株式の現物取引であれば元本以上の損失は発生しません。つまり、借金に追われるようなリスク構造とは無縁です。この点で、FXと株式投資のリスクは「別次元」と言えるでしょう。
制度の土台そのものが違うため、同じ“投資”という言葉で括るのは危険です。
「勝てた経験」が人を破滅へ導く
FXの最大の罠は、一度大きく勝つと冷静さを失うという人間心理にあります。1日に数十万円、数百万円が動く環境では、脳が強烈な快感を覚えます。
その高揚感はギャンブルのそれと似ており、「もう一度あの感覚を味わいたい」と思ってしまうのです。
実際に勝ち逃げできるトレーダーはごく一部で、多くは「次も勝てるはず」と考えてポジションを増やし、やがて全損します。これは「損失を取り返そうとする心理」「快感を追い求める依存傾向」が原因です。
その結果、勝っても破滅・負けても破滅という構造に陥ります。
まとめ:FXは「税金が最後に勝つゲーム」
FXは、一見すると夢のある投資のように見えます。
しかし、その裏では税制と心理の両面で極めて危険な構造が潜んでいます。
一時的に勝っても、翌年の損で帳消しになり、税金だけが残る。
自己破産しても免除されず、十数年にわたって返済が続く。まさに「税金が最後に勝つゲーム」です。
一方で、株式投資やETF、NISAを活用した長期投資であれば、制度的にも心理的にも安定して資産を育てることが可能です。短期的な興奮や一攫千金の夢よりも、堅実な制度の上で資産を積み上げることこそ、現実的で賢明な選択ではないでしょうか。


