「SHEINと同じ」と言われたアクセサリーポーチ騒動に見る、OEM製造の誤解

コラム
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とあるアクセサリー関連の事業者が「自社オリジナルのジュエリーポーチの試作品が完成した」と報告したところ、別の一般ユーザーがその投稿を引用し、「SHEINで330円くらいで買えるものと全く同じです!」と指摘したのです。

この発言が拡散され、「特注品なのにSHEINと同じ?」「どちらが本物なのか?」という論争に発展しました。

しかし、実際の製品を比較してみると、これは単なる“コピー”問題ではなく、OEM製造という仕組みへの理解不足が引き起こした誤解であることがわかります。


騒動の概要

発端となったのは、国内のアクセサリー販売業者が投稿した、あるポーチの製造報告です。

生地の選定に時間がかかったこと、これから数百個を海外工場で生産する予定であることなどを説明する、いわば日常的な業務報告でした。

しかし、その投稿を見た一般ユーザーが「SHEINに同じものがある」と引用リポスト。
画像比較までされ、「特注といいながら既製品では?」という批判が広がりました。

これに対して他のユーザーが「公開の場で“安物と同じ”と断定するのは営業妨害に近い」と反論し、意見が真っ二つに割れる事態となったのです。


当事者の冷静な対応

話題の中心となったアクセサリー業者は、感情的な反論を一切せず、むしろ冷静に説明を重ねました。

  • 「SHEINで似たデザインがあるようです。お値打ちな方がよければそちらでも構いません」

  • 「こちらの製品は、生地を別注して内側も統一した仕様にしています」

  • 「SHEINのほうの工場がどこかはわからないため、完全に同一かどうかは確認できません」

  • 「外装・内装の両方に別注生地を使い、金具も細長いタイプに変更しています」

どの説明も淡々としており、誤解を正しながらも攻撃的な表現はありませんでした。

また、SHEINを批判することもなく、誠実な対応と言えるでしょう。


金型は同じでも中身は違う ― OEMの構造

両者のポーチを比較すると、確かに金型や構造はほぼ同一に見うけられます

ミラーの位置、仕切りの配置、ジッパーのカーブまで、確かにほとんど一致して見えます。
しかし決定的に異なるのは「素材」と「質感」です。

項目

国内業者のポーチ

SHEINのポーチ

表地

ベロア調のしっとりとした生地

合皮に軽いエンボス加工、ビニール的質感

手触り

柔らかくマットで高級感あり

ツルツルしてややチープな印象

この差は見た目よりも明確で、「同じ形でも別物」であることがわかります。

引用元:https://x.com/yutasuzuki0930/status/1982617668877435022/photo/2

SHEINの格安商品は既存の金型を流用し、安価な素材を使って量産しているケースが多い一方、国内ブランドは同じ型をベースにしても、生地などを別注して差別化しています。


OEM生産では「似ている」は日常?

OEM(相手先ブランド製造)やODM(設計委託生産)では、同じ金型を複数ブランドで使うことはよくある話です。特にポーチやバッグのような布製品では、金型や縫製ラインを共通化してコストを下げることが一般的です。

同じ工場が、

  • 低価格ブランド向け(安価な素材)

  • セレクトショップ向け(別注仕様)

  • 高級ブランド向け(厳格な検品・金具指定)

    を並行して製造することもあります。

つまり、「形が同じ=コピー」ではなく、「仕様が違う=ブランドとしての設計思想が違う」という構図なのです。


SNS時代の「疑いの目」が生まれる背景

SNSでは、見た目の一致がまず目につき、素材や製造の背景までは伝わりにくいという構造的な問題があります。画像一枚を見ただけで“同じ”と断定されてしまうリスクが常につきまとうのです。

実際、指摘する側の意見にも理解できる点は多くあります。近年では、インフルエンサーや個人ブランドがTシャツやアクセサリーなどを「オリジナル」として販売しながら、実際にはSHEINやアリエクスプレスなどで数百円で流通している既製品にタグを付け替え、数万円で販売するケースも見られます。

こうした過剰な価格設定や品質の低い転売行為が増えたことで、「形が似ているもの=粗悪な転売品ではないか」と疑う心理が広がるのも自然な流れです。

一方で、企業側の事情を見れば、国内でアクセサリーケースを製造する場合、仕入れ価格だけでも1個あたり3,000〜4,000円に達し、販売価格が1万円近くなっても利益はごくわずかです。需要が限られる中で高品質な日本製を維持するのは難しく、結果として多くの業者がコストを抑えるために中国の工場へ製造を委託します。

しかし、アクセサリーケースのような商品の金型を一から起こすには数千〜1万個単位の最低ロットが必要になり、個人や小規模ブランドでは現実的ではありません。そこで、既存の金型を活用しつつ、自社で選んだ生地や金具によってオリジナル性を加える方法が取られるのです。

似て見えても「中身」は違うということ

現在ではGoogleレンズなどの画像検索で瞬時に類似商品を探せるため、消費者が海外通販サイトと照合して「同じでは」と判断してしまうケースも増えています。つまり、似た形を見て疑う人も、実際に手間とコストをかけて別注生産を行う事業者も、どちらの立場にも一定の理があるのです。

とはいえ、今回のようなケースでは、販売価格や仕様を考慮すると極端な高額設定ではなく、生地の別注や品質管理、関税・税金などのコストを踏まえれば、十分に妥当性の高い誠実な取り組みといえます。

SNSでは“見た目”が独り歩きしがちですが、本質は「どれだけ手間をかけ、どんな価値を加えているか」という“中身”にあります。見た目の一致だけで判断せず、作り手の努力や製造の背景にも目を向けることが、これからの消費者に求められる姿勢ではないでしょうか。

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