昨今、メモリーをはじめとするPCパーツ市場が、これまでとは違った「ゆるやかな沈静化」から転換しつつあります。長らく「ムーアの法則」の延長線上で、メモリやストレージ、PCパーツの価格は微上昇・微下落を繰り返すという構図が続いてきました。
例えば、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大や、その後の台湾・中国における半導体供給網の混乱、タイや中国での洪水や火災リスク、ウクライナ情勢による物流・部材リスク、輸送コストの高騰、円安による部材コスト増など——複雑な要素が重なってもなお、「大きな価格上昇には至らない」状態が続いていました。

ところが、2025年10月末から11月にかけて突然「メモリー価格が急激に跳ねる」動きが確認されています。消費者向けのDDR4モジュールなどで「1週間で倍近く」という報もあり、卸価格・見積価格の上昇が波及して、PC自作派やパーツ購入を検討していたユーザーから「値上がりが激しすぎる」「セール待ちできない」という声が相次いでいます。
この急変の背景と、今後の価格推移を分析してみましょう。
メモリがバカみたいに値上げしてて草 pic.twitter.com/A73JX7EqXQ
— Aile@自作PC (@Aile_yukkuri) November 2, 2025
長期的な市場構造の変化
なぜ「横ばい・少し上下」が続いていたのか
・ムーアの法則に基づく微細化・量産化の加速により、DRAMやNANDの単価は下がり続けるという前提が長く支配的でした。
・しかし2018〜2020年ごろには、スマートフォンの大容量化一服やクラウド需要の頭打ち、PC需要の横ばい化で、供給過剰傾向が現れました。
・さらにコロナ禍による製造・物流の停滞や、ウクライナ情勢・中米摩擦による地政学的リスクが続きました。
・円安・エネルギー高騰・輸送コスト増なども加わり、価格が“下がりにくい”構造に転換していきました。
つまり、ここ5年ほどの市場は「緩やかな上下」を繰り返す安定期にあり、消費者にとっては“劇的に安くならない時代”が続いていたのです。
直近の急騰要因
1. DDR4の終息期による供給縮小
DDR4はすでに旧世代扱いとなり、メーカーはDDR5やHBMなど高付加価値製品へと生産を移しています。DDR4は利益率が低く、在庫処分対象とみなされる傾向が強まっています。
たとえば「CP2K16G56C46U5 [DDR5 PC5-44800 16GB 2枚組]」のスポット価格は、わずか1週間で約200%に上昇しました。供給が減る中で需要がしぶとく残る構図が、価格急騰を招いています。
2. サーバー向けDDR5・HBM需要の急増
AI、クラウド、データセンター分野では、DDR5 RDIMMやHBM(高帯域幅メモリ)の需要が急拡大。これにより製造能力が高単価製品へと偏り、一般向けモジュールの供給が圧迫されています。サーバー用DRAMの契約価格が一部で50%上昇という報もあります。
特にDDR5メモリは深刻な状況
DDR5メモリやSSD、HDDなど、一部PCパーツの価格が急激に値上がりしている。特にDDR5メモリは深刻な状況で、かつてない品不足に陥る可能性もある。複数のショップやメーカー、代理店関係者によると、今後数カ月にわたりDDR5メモリの供給が不安定になり、価格もさらに上昇する見通し。
原因はDRAMおよびNANDの供給不足で、すでにMicron、SK hynix、SAMSUNGの3大チップメーカーは年内の受注を停止している。これに伴い、ADATA、Crucial、CORSAIR、G.SKILL、Team、SanMaxといったメモリメーカーも、代理店からの新規注文をすべて断っている状況だという。
3. 見積停止・卸価格上昇
メーカーや代理店が「見積提示を一時停止」「価格据え置きを拒否」するなど、供給ひっ迫局面特有の動きが出ています。販売店では仕入れ価格が短期間で上昇しており、末端価格にも即反映されています。
4. 駆け込み・転売需要
SNSでは「今日買わないと明日もっと上がる」といった声が拡散。投資・転売目的の動きも確認されており、市場心理が価格上昇を後押ししています。
5. 設備・部材コストの上昇
製造ライン転換には時間がかかるうえ、半導体装置・原材料・電力コストの上昇が続いており、供給側のコスト構造も重くなっています。「2026年まで需給タイトが続く」との見通しも一部メーカーから出ています。

今後数ヶ月〜半年の見通し
「すぐ下がる」とは言い切れない理由がいくつかあります。
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製造ラインの切り替えに時間がかかる
DDR4からDDR5への完全移行には時間が必要で、旧世代供給を即座に戻すことは不可能です。
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AI・クラウド需要が構造的に高止まり
AI生成処理・サーバー拡張などに伴い、メモリ需要が根強く、底堅い価格推移が続く見込みです。
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旧世代DDR4の在庫縮小
「今買わないと手に入らない」という心理が価格維持要因になります。
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セールシーズンの効果が限定的に
例年ならブラックフライデーや年末セールで値下げが期待されますが、卸価格自体が高騰しており、割引余地が小さいと見られます。
まとめ
今回の価格急騰は一過性ではなく、メモリ市場の「構造的な転換期」を象徴する動きです。DDR4の終息とDDR5・HBMへの集中、AIインフラ需要の拡大、製造コスト上昇が重なり、今後も“高値安定”が続く公算が大きいでしょう。
PCパーツ購入を検討している人にとっては、「少し待てば下がる」という時代は終わりつつあるとも言えます。転売目的での買い占めも増えてきて、メモリ・SSD・CPUなど主要パーツの調達を考えているなら、“今”というタイミングが、価格的にも心理的にも最も現実的な選択になるかもしれません。



