財務省が個人輸入優遇を廃止へ SHEIN・Temuユーザーに波及する“見えない増税”

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出典元:https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/syogakuyunyuwg/syogakuyunyuwg_gijihaihu/20251017/shiryo1.pdf
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海外EC利用者の関税優遇、ついに見直しか

2025年11月、財務省が「個人輸入品の課税価格を軽減する特例」を廃止する方向で調整に入ったと報じられました。

これは、中国発の越境ECサイト「SHEIN(シーイン)」「Temu(テムー)」「AliExpress(アリエクスプレス)」などの利用が急増する中で、国内小売業との価格差が広がっていることへの対応です。

もしこの見直しが実現すれば、私たちが海外通販で買い物をする際の「実質的な税負担」が増えることになります。つまり「関税が上がる」というよりも、“優遇がなくなることで結果的に増税になる”という話です。


これまで続いてきた「×0.6特例」とは

今の日本では、個人使用を目的とした海外からの輸入品について、税金を計算する際に少し優遇があります。それが「課税価格を海外小売価格の60%で計算する」という特例です。

たとえば、SHEINなどで1万円の商品を買った場合、実際に税関で課税される金額は1万円ではなく6,000円。この6,000円を基準に関税や消費税を計算するので、税額がぐっと安くなる仕組みです。

さらに課税価格の合計が1万円以下(つまり商品価格でおおよそ1万6,666円以下)の場合は、関税も消費税も免除されます。この「少額免税制度」と「×0.6特例」によって、個人輸入はこれまで非常に有利な環境にありました。

ただ、この制度は1980年代から続いているもので、当時は個人輸入がまだ珍しく、一部の富裕層が利用していた程度。現在のように誰でもスマホ1台で簡単に海外から購入できる時代になるとは想定されていなかったのです。


越境ECの急拡大で生まれた“制度の歪み”

ここ数年、中国系ECの勢いはすさまじく、SHEINやTemuでは数百円で服や雑貨を買うことができます。しかも送料無料で、配送も早い。
この仕組みの裏側には、課税の優遇があることを知らない人も多いと思います。

たとえば同じ中国製の洋服でも、国内の小売店が輸入して販売する場合は正規の関税・消費税を払っています。一方で、個人輸入では課税価格を60%にして計算できるため、結果的に税金が少なく済み、価格が下がるのです。

そのため、国内の小売業やメーカーからは「同じ商品なのに不公平ではないか」という声が高まっています。

また、最近は商業輸入を“個人輸入”と偽って通関するケースや、複数回に分けて発送して課税を逃れる行為も増えており、制度の見直しが避けられない状況になっています。


財務省が見直しに動いた背景

財務省は2025年6月と10月に「少額輸入貨物への対応に関するワーキンググループ」を開催しました。その資料では、「越境ECの拡大によって特例の濫用や不公平な価格差が生まれている」と明記されています。

海外でも同様の問題が起きており、欧州連合(EU)ではすでに少額輸入の免税制度を撤廃。すべての輸入品に付加価値税を課す仕組みに変更しています。こうした国際的な流れを受けて、日本も制度を見直す方向に舵を切ったというわけです。

財務省は2026年度の税制改正で、「課税価格×0.6」の特例を廃止することを検討しており、あわせて「1万円以下免税」の基準を見直す案も浮上しています。


仮に廃止された場合の負担はどう変わるか

もしこの特例がなくなった場合、私たちの負担はどれくらい増えるのでしょうか。

実際の例で見てみます。

【例1】商品価格2万円

  • 現行制度:課税価格=2万円×0.6=1万2,000円

     → 関税+消費税(10%)で約1,200円の税負担

  • 特例廃止後:課税価格=2万円

     → 同じ10%の税率なら2,000円

     → 負担は約1.7倍に増える

【例2】商品価格1万5000円

  • 現行制度:課税価格=9,000円(免税ライン1万円以下)

     → 税金ゼロ

  • 特例廃止後:課税価格=1万5000円

     → 約1,500円の税金が発生

     → これまでゼロだったものが課税対象に

たとえば、私自身もイギリスからプロテインなどを個人輸入で購入していますが、一度2万円を少し超えたときに、追加で5,000〜6,000円の請求を受けたことがあります。

単純に関税が2,000円だったとしても、実際には運送会社が立て替え払いをしてくれており、その立替分に加算される通関手数料(2000円前後)代行手数料(1000〜2000円前後)が重なって、支払額が想定よりも大きくなることがあるのです。

つまり、税関での課税額と実際に払う金額が一致するとは限りません。

「まあ2,000円くらいの関税ならいいか」と思っていたら、結果的に5,000円や6,000円の支払いになることもあります。

この部分が非常にややこしく、海外通販を利用する際に見落とされがちな点です。

今後、制度が厳格化されれば、こうした“思わぬ追加コスト”を感じる機会もさらに増えるかもしれません。


今後のスケジュールと見通し

現時点で法案はまだ成立しておらず、正式な施行日は未定です。

ただし、財務省は2026年度税制改正大綱に盛り込む方針を示しており、早ければ2026年4月以降に段階的な引き上げが始まる見込みです。

制度を一気に廃止するのではなく、段階的に「×0.6 → ×0.8 → ×1.0」と引き上げる案も検討されているようです。いずれにしても、現行の優遇制度が長く続くことはなさそうです。


まとめ:海外ECの「安さ神話」に転機

今回の見直しは、単なる税率変更というよりも、時代の流れを映す政策転換です。

越境ECが一般化し、個人が世界中からモノを買えるようになった今、制度そのものを見直す段階に来ているということです。私たち消費者にとっては痛い話ですが、国内の小売や生産者にとってはようやく公平な競争環境が整うとも言えます。

まだ法案の詳細や実施時期は決まっていませんが、仮にこの特例が廃止されれば、SHEINやTemuのような「激安通販」はこれまでのような価格ではなくなるかもしれません。今後の財務省の発表や税制改正大綱の行方に注目しておきたいところです。

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