2025年国勢調査で起きた本当の異変
2025年の国勢調査速報が発表されました。ニュースでは全国人口が減少したことや東京都が人口増加を維持したことが取り上げられましたが、本当に衝撃的だったのは別の部分です。
それは埼玉県、千葉県、神奈川県がそろって人口減少に転じたことでした。
これらの地域は長年にわたって首都圏人口増加の受け皿として機能してきました。東京で働きたいけれど都内の家賃は高い。住宅を購入したいけれど23区内では手が届かない。そうした人々が埼玉県や千葉県や神奈川県へ移り住み、電車で20分から40分ほどかけて東京へ通勤していました。そのため首都圏郊外は地方からの人口流入によって長年人口を増やしてきたのです。

しかし今回、その流れに変化が生じました。地方から東京圏へ移動してくる若者の数そのものが減少し始めています。一方で1960年代から1980年代にかけて大量に流入した世代が高齢化し、死亡者数が増加しています。人口は社会増減と自然増減の合計で決まります。社会増減とは転入転出の差であり、自然増減とは出生と死亡の差です。
これまで首都圏は社会増が自然減を上回っていたため人口が増加していました。しかし現在は死亡者数が増加し、その差を埋めるだけの流入が確保できなくなりつつあります。埼玉県、千葉県、神奈川県の人口減少は、単なる一地域の問題ではなく、日本の人口構造が次の段階へ進んだことを示す象徴的な出来事だったのです。

東京は増えているが、増え方が急激に弱くなっている
今回の調査で、東京都は人口増加を維持しました。
しかし数字を詳しく見ると決して楽観できる状況ではありません。2015年から2020年にかけて東京都の人口増加率は3.9%でした。ところが2020年から2025年では1.4%まで低下しています。わずか5年間で増加率が約3分の1になったのです。
東京都の人口は確かに増えています。しかし重要なのは増加していることではなく、増加する力が急速に弱まっていることです。これは東京への流入が止まったという意味ではありません。現在も全国から進学や就職を目的として多くの若者が東京へ移り住んでいます。問題はそれ以上の速度で高齢化が進んでいることです。

東京都の人口動態統計を見ると、2024年の出生数は84,207人でした。一方で死亡数は140,329人です。その差である自然増減はマイナス56,122人となっています。つまり東京都はすでに毎年5万人以上の自然減が発生している状態なのです。
東京は若者の街というイメージがありますが、実際には高度経済成長期に地方から上京してきた世代が大量に存在しています。その世代が現在75歳以上に入り始めており、今後10年間は死亡数が増えやすい構造が続きます。

東京都の人口増加は、自然減を上回る社会増によって支えられています。しかし自然減が今後も拡大するのであれば、同じ人口を維持するためにはさらに多くの転入者が必要になります。問題は、その転入者を送り出す地方の若者人口も減っていることです。
少子化の本当の怖さは出生率ではなく母数の減少にある
人口問題を語るとき、よく合計特殊出生率という数字が登場します。これは一人の女性が生涯に産む子どもの数を表した指標です。人口を維持するためには約2.07が必要とされています。女性が平均して二人以上の子どもを産まなければ、長期的には人口が減少していくからです。
ところが東京都の合計特殊出生率はついに1を下回りました。2024年には0.96となっています。これは世界的に見ても極めて低い水準です。少子化が深刻な韓国に迫る数字であり、日本国内でも突出して低い水準です。
しかし本当に恐ろしいのは出生率そのものではありません。出産する女性の数が減っていることです。たとえば出生率が1.5であっても出産世代の女性が100万人いれば出生数は多くなります。しかし出生率が同じでも出産世代の女性が50万人しかいなければ出生数は半分になります。

現在の東京では出生率が低いだけでなく、出産世代そのものが縮小し始めています。そのため仮に今後子育て支援が拡充されて出生率が多少改善したとしても、出生数の急回復は期待しにくいのです。少子化とは単に子どもを産まない社会ではありません。子どもを産む世代そのものが減少する社会です。この段階に入ると人口減少は強い慣性を持ちます。
インフレ、住宅価格、金利上昇は東京集中を弱めるのか
ここで近年の経済環境も考慮する必要があります。東京は日本最大の雇用市場であり、今後も多くの人を引きつけるでしょう。しかしその吸引力を支えてきた前提条件は少しずつ変化しています。
まず住宅価格です。東京都内のマンション価格は過去最高水準に達しています。新築マンションは平均1億円を超える地域も珍しくありません。賃貸住宅の家賃も上昇傾向にあります。さらに日銀は長らく続いた超低金利政策を修正し始めています。

政策金利はすでに0.75%まで引き上げられており、市場では今後の金融政策決定会合で1%程度まで上昇するとの見方も少なくありません。もちろん将来の金利水準を正確に予測することはできませんが、少なくとも数年前のような「金利はほぼゼロのまま」という前提は崩れつつあります。
仮に今後1.5%や2%といった水準まで利上げが進めば、住宅ローン利用者への影響はさらに大きくなるでしょう。変動金利型住宅ローンでは金利上昇の影響が段階的に反映されるため、将来的な返済負担の増加を懸念する家庭も増える可能性があります。
加えて実質賃金は伸び悩んでいます。名目賃金が上昇しても物価上昇がそれを上回れば生活は苦しくなります。円安による輸入価格の上昇、エネルギー価格の上昇、社会保険料負担の増加なども家計を圧迫しています。

こうした状況は若者の結婚や出産を遅らせる要因となります。また、東京に住み続けるコストを引き上げます。
もちろん東京の雇用や所得水準は依然として全国トップクラスですが、以前ほど圧倒的な優位性を持ち続けられるかどうかは分かりません。人口は経済に反応します。そして経済環境が悪化すれば、東京への流入ペースも少しずつ鈍化していく可能性があります。
2030年前後に東京の人口が減少へ転じると考える
そうなると東京都の人口はいつ減少に転じるのでしょうか。
以前は2035年前後を想定していました。しかし2025年国勢調査と近年の人口動態統計を踏まえると、その時期はもう少し早まるかもしれません。
埼玉県、千葉県、神奈川県がすでに人口減少へ転じたことは大きなサインになっています。これは東京圏全体の人口吸収力が弱まり始めていることを意味します。東京は最後まで残りますが、永遠に増え続けることはできません。東京が人口を増やすためには地方から若者が流入し続ける必要があります。しかしその地方の若者人口自体が急速に減少しています。

さらに東京都では毎年5万人以上の自然減が発生しています。今後は団塊世代後半や団塊ジュニア世代の高齢化が進み、死亡数は増加しやすくなります。一方で出生数は減少傾向が続いています。
これらを総合すると、私は2028年頃から東京都の人口増加幅はさらに縮小し、2029年には横ばいに近づき、2030年前後には人口減少へ転じる可能性が高いと考えています。もちろん大規模な移民政策や経済成長などの変数があれば結果は変わります。しかし現在の人口構造と経済環境が続くならば、東京の人口ピークは想像以上に近い場所にあるように思えます。
多くの人は日本の人口減少を地方の問題だと考えています。しかし2025年国勢調査はそうではないことを示しました。首都圏郊外ですら人口が減少し始めています。そして東京もまた、その流れの延長線上にあります。東京が人口減少へ転じる日は、もはや遠い未来の話ではないのかもしれません。