皆さんは高級絨毯をじっくり見たことがありますでしょうか。伝統的な高級絨毯といえば、イラン、かつての呼び方でいえばペルシャ、そしてトルコ、パキスタンなどが有名です。細かな花模様が隙間なく織り込まれ、中央には大きなメダリオンが置かれ、見る方向によってシルクの光沢が変化する。百貨店の家具売場などで見かけると、普通のラグとは明らかに違う存在感があります。
こうした絨毯は単なる床材ではなく、長い間「豊かな家」を象徴するインテリアの一つでもありました。クラシックなマホガニーの家具、本革のソファ、大理石のテーブル、重厚なカーテン、シャンデリア。その中央に赤や紺を基調としたペルシャ絨毯が敷かれているという光景は、昔の映画やホテル、邸宅の写真などでもよく見かけます。かつては、成功者のリビングや応接間にはこうした絨毯がある、というほど強いイメージがあったのではないでしょうか。
しかし最近、この高級絨毯の市場にもかなり大きな変化が起きているように見えます。現在でも百貨店へ行けば100万円、200万円、場合によっては500万円を超える商品を見ることができます。それにもかかわらず、実際にそれを買っている人を目にする機会は以前よりかなり少なくなりました。今回は販売店の売上高そのものではなく、輸入統計や中古オークションの履歴などから、高級絨毯の現在地を少し考えてみたいと思います。

ペルシャ絨毯はなぜこれほど高級品になったのか
そもそもペルシャ絨毯には非常に長い歴史があります。現存する作品については年代や産地の同定が難しいものも多いのですが、イランの絨毯文化は少なくとも16世紀、サファヴィー朝の時代にはすでに高度に成熟しており、この時代はペルシャ絨毯の「黄金期」とされています。王侯による庇護のもと、タブリーズ、カシャーン、イスファハンなどを中心に極めて細密な作品が作られ、絨毯の意匠には当時の写本装飾や装丁美術との強い共通性も見られます。
現在でもよく見る、中央に大きな円形や菱形の模様を置く「メダリオン」は、この時代を代表する意匠の一つです。中央のメダリオンと四隅のコーナーメダリオンを組み合わせる形式、花や蔓草を全面に広げるアラベスク、祈りの方向を示す建築的な形を描くメヘラブ、区画ごとに花木を配した庭園文様など、実に多くの形式があります。
トルコでも絨毯文化は古く、アナトリアでは13~14世紀のパイル絨毯が残り、15~16世紀にはウシャクなどの絨毯がオスマン帝国を代表する工芸品になりました。ヨーロッパ絵画にもトルコ絨毯は頻繁に描かれています。
つまり、何百万円という値札は単に「布なのに高い」という話ではありません。シルクを用い、細い糸を何十万、何百万という結び目で織り、複雑な下絵を人の手で再現していくため、大型品では制作に非常に長い時間がかかります。都市の工房から家族単位の織り手まで、多くの人々によって支えられてきた巨大な工芸産業だったわけです。
百貨店には今も100万円、200万円の絨毯が並んでいる
では現在はどうなのでしょうか。
実際に百貨店の売場を歩いてみると、高級絨毯そのものが消えてしまったわけではありません。今回撮影したものでは、約61×93cmという玄関にも置けそうな小さなペルシャ絨毯が、絹100%で137万5,000円でした。

さらに約130×80cm、同じく絹100%の一枚には242万円という値札が付いています。
面積だけを考えれば決して大きな絨毯ではありません。それでも細密な織り、シルクの品質、産地や工房などによって200万円を超える価格が付く世界です。

2025年の伊勢丹の催事を見ても、タブリーズの約205×245cmが220万円、イスファハンの約80×115cmが82万5,000円、ナインの約204×254cmが99万円など、現在でも相当な価格の商品が販売されています。つまり高級絨毯という商品カテゴリー自体は、2020年代後半になっても確実に存在しています。
ただ、売場を見ると昔とは少し雰囲気が違います。広大な常設売場に何十枚、何百枚という高額品が並ぶというより、在庫を重ねて展示し、催事や期間限定フェアとして扱われるケースが目立ちます。もちろん外商や自宅への持ち込み販売など、店頭だけでは見えない需要がありますので、売場だけから販売量を断定することはできません。それでも「非常に高価な商品は残っている一方、市場の幅はかなり狭くなっているのではないか」という印象を受けます。
貿易統計にも少し変化が出ています。結びパイルの毛製絨毯を見ると、日本の輸入量は2019年の約30万700平方メートルから、2024年には約11万2,900平方メートルまで減少しました。金額では約2,931万ドルから約1,921万ドルへの減少ですので、面積では約62%、金額では約34%の減少となります。市場の縮小を考える一つの材料にはなりそうです。
オークション履歴から「実際の需要」を推測
問題は、百貨店に500万円の値札が付いた絨毯があることと、その価格帯の商品が継続的に売れていることは全く別だということです。しかし百貨店や専門店が、高級絨毯だけの販売枚数を細かく公表することはまずありません。そこで完全な統計ではありませんが、フェルミ推定に近い方法としてYahoo!オークションの落札履歴を調べてみました。
外部の落札履歴サイトで「絨毯」「住まい、インテリア」「100万円以上」という条件を2015年6月から2026年8月まで検索すると、表面上は約82件の記録が見つかりました。11年以上で82件ですので、この時点でも決して多くありません。しかし一つ一つを見ると、さらに注意が必要なことが分かります。
例えば同一と思われる商品が数日、数週間後に再び同じ価格で現れていたり、2019年12月5日の一日だけで100万円以上の商品が十数件まとまって記録されていたりします。さらに直径10mという宮殿やホテル向けの特殊サイズ、複数枚セット、宝石を大量に取り付けた1億円を超える特殊な絨毯なども含まれていました。

そこで、明らかな重複候補、同日に大量発生した不自然な記録、宝石絨毯など別カテゴリーの商品、極端な特殊品、現在のYahoo!公式履歴と整合しないものなどをかなり厳しく除外すると、残ったのは約49件でした。もちろん49件すべてについて「代金が支払われ、返品もなく、最終的に取引が完了した」と確認できるわけではありません。あくまで、少なくとも明確な疑義を見つけにくかった記録が49件程度という意味です。
11年強で49件なら、単純平均では年間4~5件ほどです。しかも100万円を超えている作品を見ていくと、ハビビアン、セイラフィアン、マスミなど工房名を前面に出した作品や、非常に細密なシルク作品、古い年代のもの、巨大サイズなどがかなり含まれています。つまり「普通に品質の良い現代物のペルシャ絨毯」が100万円以上で次々売れているというより、上澄みの作品を日本全国から拾い集めて、ようやくこの件数になっている可能性があります。
さらに通常のマンションや一戸建てのリビングに置ける、概ね2×3m前後までのサイズに限定し、アンティークや歴史的価値のあるもの、宮殿サイズなどを外していくと件数はもっと少なくなります。タイトルから寸法を確認できた範囲だけでも、一般的な住宅サイズと判断できたものは17件程度でした。この中にも工房名を持つ作品が多数含まれていますので、「美術的な付加価値を特に持たない普通の高級絨毯」に限れば、100万円以上の中古成約は相当に珍しいと考えた方が自然でしょう。
そして2026年8月時点でYahoo!オークション公式の直近180日履歴を「絨毯」「住まい、インテリア」「30万円以上」で検索すると24件、平均落札額は約43万円、最高88万円でした。100万円以上はゼロです。百貨店では200万円、500万円という新品が現在も存在する一方、公開された一般中古市場では100万円の壁を越えること自体が難しい。この価格差はかなり印象的です。

日本だけでなく、世界でも市場構造が変わっている
ここで一つ疑問が出ます。もし高級絨毯に飽きているのが日本人だけなのであれば、日本の中古市場で30万円や50万円になった高品質な絨毯を業者が買い集め、ヨーロッパや中東、アメリカへ輸出すればよいはずです。海外で200万円で簡単に売れるものが日本では40万円なのであれば、裁定取引、いわゆるアービトラージが成立します。複数の業者がそれを始めれば、日本国内の中古価格も自然に上昇するでしょう。
ところが産地側の数字を見ると、むしろ高級手織り絨毯の苦戦は世界的な現象であることが分かります。イランの手織り絨毯輸出は1990年代初頭には年間20億ドルを超えていましたが、2025年3月までの一年では約4,170万ドル、2026年3月までの一年は4,000万ドルを下回る見込みとされています。95%を超える縮小です。米国の対イラン制裁が極めて大きな要因ですが、現地の業界関係者は消費者の嗜好変化についても指摘しています。
パキスタンも同様で、手工芸絨毯の輸出額は2005年の約2億7,700万ドルから、2024年度には約5,942万ドルまで低下しています。約8割の縮小です。人件費や原材料、物流費、後継者不足など供給側の問題もありますが、「作れば世界中で高値で売れる」という時代ではなくなっていることは間違いなさそうです。
一方、本当に歴史的重要性のある作品は現在でもまったく別の市場を形成しています。17世紀サファヴィー朝のシルク絨毯などは国際美術市場で高額取引されており、2024年には日本で2007年に発見されていた大型のサファヴィー朝「ポロネーズ」絨毯が、クリスティーズ・ロンドンで94万5,000ポンドで落札されています。つまり「絨毯に価値がなくなった」のではありません。博物館級の歴史作品と、20世紀後半以降に作られた高品質な住宅用高級絨毯との間に、非常に大きな価格差が生まれているのです。

品質が落ちたのではなく、「高級」の意味が変わった
こうして見ていくと、昨今の高級絨毯市場で起きていることは、単純な品質低下ではないように思います。むしろ昔の製品は驚くほど品質が高く、数十年使用してもクリーニングや補修をすれば使い続けることができます。それこそが逆に、新しい需要を生みにくくしている面もあります。
1990年代に300万円の絨毯を購入した家庭では、その一枚が2026年になっても残っている可能性があります。所有者は「すでに良いものを持っているので買い替える必要がない」。一方、それを相続する30代、40代の世代は、白やグレー、ベージュを中心としたモダンな住宅に住み、クラシックなメダリオン柄を必ずしも欲しがらない。過去に大量に販売された高品質品が長持ちすることと、次世代の好みが変化したことが同時に起きています。
現在の富裕層がインテリアにお金を使わなくなったわけでもありません。大理石、ウォールナット、大型ソファ、現代アート、間接照明、造作家具などには相変わらず大きなお金が動いています。しかし「高級住宅だから中央にペルシャ絨毯を敷く」という価値観は、以前ほど当然ではなくなりました。高級品そのものが衰退したというより、何をもって高級と感じるかが変わったと考える方が近いのかもしれません。
数百万円だったものが数十万円になったからといって、その絨毯を織った職人の技術まで10分の1になったわけではありません。市場価格と工芸的価値は必ずしも同じではありません。高級絨毯の現在を見ていると、流行というものが、時に人間が何年もかけて作った作品の値段さえ大きく変えてしまうことに気づかされます。
高級絨毯の時代が完全に終わったわけではないでしょう。しかし、かつてのように「成功者のリビングに当然あるもの」という時代は、おそらく終わりつつあります。これから残っていくのは、歴史的・美術的価値を持つ最高峰の作品と、現代のインテリアに自然に溶け込む新しいデザイン。その間に大量に存在する20世紀後半の高品質な伝統絨毯は、しばらくの間、非常に興味深い中古市場を形成していくのではないでしょうか。