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USB Type-Cなのに充電できない? iPhoneのケーブルを挿してもハンディファンが反応しない理由

店頭に並ぶAnkerの充電器

3COINSで購入してきた小型の扇風機を使っていて、「さて充電が切れたし、そこにあるiPhoneのケーブルでも挿しておこう」と接続してみたものの、なぜかうんともすんとも言わない。壊れたのかなと思って別のケーブルを持ってくると、今度は普通に充電が始まる。さらに別のACアダプターにつなぐと使えたり、パソコンのUSBポートなら動いたり、逆に最新のUSB-C充電器ではまったく反応しなかったりします。

「端子の形は全部USB-Cなのに、どういうことなんだ」と思った経験がある人は少なくないはずです。昔のUSBなら端子が刺さればだいたい何とかなったのに、最新規格になったはずのUSB-Cでは、なぜかケーブルとの相性まで考えなければならない。これには単純な粗悪ケーブルだけでは説明できない理由があります。

実はUSB-Cという規格は、誕生した時点からかなり重い宿命を背負っています。
データ通信もする。充電もする。ノートパソコンまで動かす。モニターへ映像も送る。そしてどちら向きに挿しても使える。しかも昔のUSBとも互換性を持たせる。世界中のメーカーが一つの小さな端子へ「あれもこれも」と押し込んだ結果、見た目は同じなのに中身が全然違うという、なかなか壮大な規格になってしまいました。

USBはそもそも「充電器」として生まれたものではなかった

少しインターネット老人会の話をすると、そもそもUSBの正式名称は「Universal Serial Bus」です。
1990年代、それまでパソコンの裏側に大量に存在していたシリアルポート、PS/2、プリンター用のパラレルポートなどを整理して、マウス、キーボード、プリンター、スキャナーといった周辺機器を簡単につなげるために登場しました。

机に並べたUSBケーブルとUSBメモリーなどの周辺機器

当時として画期的だったのがPlug and Playです。
パソコンの電源を一度落として、怪しげなドライバーをフロッピーディスクから入れなくても、USBなら挿せば機器を認識してくれる。
今では当たり前ですが、当時はこれだけでもかなり革命的でした。

初期のUSBにも最初から5Vの電源線は存在していました。したがって「USBは完全にデータ専用だった」というわけではありません。ただし現在のスマートフォンのように大きなバッテリーを高速充電することを中心に設計されたものでもありませんでした。

USB 2.0の標準的なポートでは最大500mA、USB 3.xでは標準的に900mA程度という世界で、消費電力の大きな外付けHDD、スキャナー、プリンターなどには普通にACアダプターが付属していました。インターネット老人会の皆様なら、「USBケーブルを挿しているのに、さらに丸いACアダプターも挿す」という光景を覚えていると思います。

 

その後、携帯電話やiPod、スマートフォンなどが普及すると、USBがいつの間にか「データを送る端子」であると同時に「充電する端子」として使われ始めました。より大きな電流を流せるようになり、USB 3.0の時代には外付けHDD程度ならUSBだけで動かせることも普通になっていきます。

しかしUSB Type-Aには、人類を長年苦しめてきた致命的な欠点がありました。

“裏表”があります。

複数のケーブルを接続したUSBハブ

挿す。入らない。ひっくり返す。なぜか入らない。もう一度最初の向きに戻すと入る。
USB Type-Aには量子力学でも使われているのではないかというインターネット上のジョークが大量に作られましたが、実際あれに腹を立てた人は相当多かったはずです。

USB-Cは重い重い宿命を背負って生まれてきた

そこで登場したUSB Type-Cでは、まず裏表をなくしました。

上下どちら向きでも挿せます。そしてスマートフォンのような薄い機器にも搭載できる小型端子にしました。ここまでは非常に分かりやすいのですが、USB-Cに課せられた仕事はそれだけではありません。

USB-C一本でマウスのような小さな機器からスマートフォン、タブレット、外付けSSD、ディスプレイ、さらには100Wを超えるノートパソコンまで接続したい。データ転送も数百Mbpsから数十Gbpsまで扱いたい。DisplayPortなどの映像信号も流したい。そして給電する側と充電される側が固定されているとも限りません。例えばモニターとMacBookをUSB-Cで接続すると、MacBookからモニターへ映像を送りながら、反対方向にはモニターからMacBookへ電力を送ることができます。

ここまで来ると、昔のように「端子が刺さったから、とりあえず5Vを流しておけ」という乱暴な方法では危険です。そこでUSB-CではCC(Configuration Channel)という信号線を使って、「何が接続されたのか」「どちらが電力を供給するのか」「どの程度の電流を利用できるのか」などを判定します。USB-IFの現行USB PDでは、条件を満たしたUSB-Cケーブルと機器を使うことで最大240Wまで扱えるようになっています。USBという名前なのに、もはや小さな家電くらいなら普通に動かせる電力です。

仕組みを乱暴に人間の会話へ置き換えると、こんな感じです。

供給「こんにちは。何か接続されましたか?」

受給「はい。私は電気をもらう側です」

供給「5Vならこれくらい流せますよ」

受給「分かりました。それで大丈夫です」

USB PD対応機器であれば、さらに、

供給「ちなみに9V、15V、20Vも出せますけど、どうします?」

受給「私は20Vが必要です」

供給「では20Vで供給します」

という交渉まで行います。実際には最初の接続確認は抵抗値によるアナログな判定から始まり、USB PDになるとCC線を使ったデジタル通信へ進むので、最初から全部が会話しているわけではありません。しかし利用する側から見ると、「いったんお互いに名乗ってから電気を流す仕組みになった」と考えると非常に分かりやすいです。

USB-AとUSB-Cの端子、モバイルバッテリーの接続口

同じUSB-Cでも中身はまったく同じではない

そしてUSB-Cがややこしい最大の理由が、USB-Cは基本的に端子の形の名前であって、それだけでは通信速度も充電能力も決まらないことです。

USB-C端子だからUSB 3.2とは限りません。USB 2.0しか通信できないUSB-Cもあります。USB4対応もあります。USB PD対応かどうかも別の話です。さらにケーブル側にも対応できる通信速度と電力の違いがあります。

種類・機能 主な能力 電力の目安 ポイント
USB 2.0 + Type-C 最大480Mbps 基本的な5V給電 端子だけUSB-Cで中身はUSB 2.0という製品も多い
USB 3.x + Type-C 数Gbps〜 基本給電〜高出力まで様々 USB-CだからUSB 3.xとは限らない
USB Type-C Current USB-CのCC線で電流能力を通知 5V / 1.5A、5V / 3Aなど PDを使わなくてもUSB-C独自の電流通知が可能
USB Power Delivery 機器と充電器が電力を交渉 従来最大100W級 スマホ、タブレット、PCなどで普及
USB PD EPR より高い電圧・電力に対応 最大240W 28V、36V、48Vなどを使用可能
USB4 高速通信、映像など ケーブル・機器次第 高速通信と給電能力は別々に確認が必要

ここで重要なのは、この表が単純な「USB-C Ver.1、Ver.2、Ver.3」のような階級表ではないことです。通信規格と電力規格が重なり合っています。例えば通信はUSB 2.0しかできないのに、100W級の充電には対応しているケーブルも作れます。逆に高速通信には対応していても、必要な電力を扱えないケーブルもあります。

つまりUSB-Cケーブルを見た目だけで判断するのはほぼ不可能です。

このあたりから、「全部同じ形にしたら便利になるはずだったのに、むしろ分からなくなってない?」という問題が発生します。たしかにその通りです。ただ、もし全部別の端子にしていたら、スマートフォン用、ノートパソコン用、映像用、高速SSD用で再びケーブルだらけになるので、USB-Cは物理的な端子を統一した代わりに、内部の仕組みが非常に複雑になった規格とも言えます。

なぜ「USB-Cなのに充電できない機器」が生まれるのか

ここからが本題です。3COINSの扇風機のような小型機器には、USB Type-Cの充電端子を持ちながら、入力電源自体は「DC5V/1A」や「DC5V/2A」という非常に単純な製品が多数あります。3COINSの現在のハンディファンやネックファンでも、公式仕様を見るとUSB Type-Cポートを採用しながら電源は5V/1Aや5V/2Aとなっており、USB PDの高電圧充電を必要としているわけではありません。

USB端子を備えた小型ファン

本来、それ自体は何の問題もありません。USB-CはPDを必ず搭載しなければならないわけではなく、5Vだけを受け取る簡単な機器も作れます。

ところが問題になるのが、USB-C端子を採用した安価な小型機器の一部です。

USB-Cで「私は電気を受け取る側です」と充電器へ知らせるためには、機器側のCC1とCC2にRdと呼ばれるプルダウン抵抗を設けます。単純な5V充電機器なら、基本的にはそれほど複雑な回路ではありません。USB-CのSource側はこのRdを見つけることで、「あ、電気を欲しがっている機器が接続された」と判断し、VBUSへ5Vを出します。

ところが、この抵抗を省略してしまったUSB-C製品が実際に存在します。

そうなると最新のUSB-C充電器側から見ると、

「誰かいますか?」

「……」

「電気を受け取る機器はいませんね」

となり、安全のため電源を出しません。

つまり充電できません。

面白いのは、ここで古いUSB Type-A充電器とType-A→Type-Cケーブルへ交換すると、突然充電できてしまうケースがあることです。従来のType-A側にはUSB-CのようなCC端子がなく、基本的に5VのVBUSが存在しています。Type-A→Type-Cという旧規格との橋渡しをするケーブル側にも必要な処理があるため、製品側のUSB-C実装が簡略化されていても電源だけ取れてしまうことがあります。

その結果、

USB-A→USB-Cなら充電できる。
USB-C→USB-Cだと充電できない。

という、利用者からすると意味不明な現象が完成します。

USB-C規格に沿って作られた電源側が賢くなったため、逆に雑に作られた機器へ電気を流してくれなくなったわけです。

もちろん、3COINSの特定の扇風機がこの抵抗を省略していると断定しているわけではありません。実際に内部回路を調べなければ原因は分かりませんし、製品によって仕様も違います。ただ、USB-A→Cでは充電できるのに、USB-C→Cではまったく反応しないという症状が出る小型機器では、非常に典型的な原因の一つです。

店頭に並ぶUSB PD対応ACアダプターのパッケージ

昔のUSB Type-Aは「挿す向きが分からない」という物理的な苦痛がありましたが、USB-Cではそれを完全に解決しました。

その代わり人類は、「このケーブル何Wだっけ」「これUSB 2.0だっけUSB4だっけ」「PD対応だっけ」「なぜ扇風機だけ充電できないんだ」という新しい種類の苦痛を手に入れました。

進歩とは難しいものです。

パソコンとUSBハブ、充電器の配線

USB-Cは失敗した規格というより、あまりにも多くの仕事を一つの端子に任せた結果、外から見えない部分が複雑になりすぎた規格なのだと思います。それでも現在ではスマートフォンからMacBook、ゲーム機、カメラ、モニター、SSDまで同じケーブルで接続できるようになり、USB PDでは最大240Wまで扱えます。昔なら巨大なACアダプターが必要だった機器までUSB-C一本で動かせることを考えれば、確かにものすごい進化です。

ただし次にUSB-Cの扇風機へiPhoneのケーブルを挿して何も起きなかったら、ケーブルを捨てる前に少し思い出してみてください。

充電器と扇風機の間で、

供給「こんにちは」

受給「……」

となっているだけかもしれません。


出典・参考資料

USB Type-CのCC端子では、Source側がRp、Sink側がRdを使って接続、向き、供給可能電流などを判定し、Sinkを検出してからVBUSを有効化する仕組みになっています。USB Type-Cでは5VでDefault、1.5A、3Aの電流通知が定義されています。USB-IF

USB Power Deliveryは現在最大240Wまで拡張され、28V、36V、48Vを利用するExtended Power Rangeが規定されています。USB-IF

USB 2.0の標準ポートは最大500mA、USB 3.xの標準ポートでは900mAという基本的な給電仕様が定められています。USB-IFコンサプライアンス

USB-CのSink側ではCC1・CC2にRdを持たせる必要があり、この実装を省いた機器ではC-to-C接続時にSourceが接続を認識できず、5Vが供給されないことがあります。Texas Instruments

3COINSの現行ファン製品にもUSB Type-C充電ポートを搭載し、入力電源をDC5V/1Aまたは5V/2Aとする製品があります。USB Type-C端子であること自体はUSB PD対応を意味しません。palcloset.jp