グルメ・嗜好品

紅茶だけではない?フォートナム&メイソンの魅力

フォートナム&メイソンという名前を聞くと、日本ではまず紅茶を思い浮かべる人が多いと思います。
百貨店の紅茶売り場に並ぶ、少し高級な英国紅茶のブランド。青緑色のきれいな缶に入っていて、ロイヤルブレンドやクイーンアン、フォートメイソンブレンドなどがある。長い間、私にとってのフォートナム&メイソンは、だいたいそんな存在でした。

ただ、実際に英国本家から商品を取り寄せたり、ロンドンの本店まで行ってみたりすると、どうもそれだけではないのです。紅茶の隣にはビスケットやジャムがあり、その先には食器、シルバーのティーポット、ピクニック用のバスケット、ブランケットまで並んでいます。巨大な総合百貨店という感じでもなく、単なる紅茶専門店でもありません。何というか、「英国的な食べる時間そのもの」を売っている店に近いのです。

私はF&Mの紅茶を長く飲んできましたが、とくにフォートメイソンブレンドが好きで、一時期は英国本家から直接取り寄せていました。紅茶を買うだけのつもりが、気づくとミニ缶を見たり、ハンパーを見たり、ティーポットを見たりするようになります。今回は、そんな個人的な体験も交えながら、「フォートナム&メイソンとは結局どういう店なのか」を改めて掘り下げてみたいと思います。

フォートナム&メイソンとは?

フォートナム&メイソン(Fortnum & Mason、以下F&M)は、1707年にロンドンのピカデリーで創業した老舗です。日本ではどうしても紅茶ブランドとして認識されがちですが、本来は紅茶専門店というより、高級食料品店、あるいは食品を中心とした百貨店に近い存在です。紅茶やコーヒーだけでなく、菓子、ジャム、蜂蜜、ワイン、チーズ、惣菜、食器、ギフトなどまで扱っていて、ピカデリー本店へ行くとその違いがよくわかります。

日本の百貨店を想像すると、服があり、化粧品があり、家具があり、家電があり、その一角に食品売り場があるという構成を思い浮かべます。しかしF&Mは少し違います。中心にあるのは、あくまで食べること、飲むこと、誰かに贈ることです。その周辺にティーポットやカップがあり、ピクニック用品があり、ギフトボックスがある。つまり、物をジャンル別に大量に並べる店というより、食事やお茶の時間を一つの文化として見せている店なのだと思います。

紅茶についても、自前の巨大茶園で茶葉を作っているメーカーというわけではありません。F&Mはさまざまな産地の茶葉を選び、ブレンドして商品にする茶商です。これは意外と重要で、紅茶はワインと同じように農産物なので、産地や季節、収穫によって味が変わります。その中から茶葉を選び、いつ飲んでも「この味だ」と感じられるように組み立てること自体が仕事になります。

私自身、昔は単純に「高い紅茶=茶葉そのものが特別に高級なのだろう」と考えていました。しかし長く飲んでいると、必ずしもそうではありません。単一農園の茶葉をそのまま楽しむ紅茶もあれば、複数の産地を組み合わせて完成度を高める紅茶もあります。F&Mは後者の面白さが強い店です。そして面白いのは、その紅茶だけで完結せず、「ではこの紅茶をどんなカップで飲むのか」「何を一緒に食べるのか」「誰に贈るのか」というところまで、店全体がつながっていることです。

英国王室と長い歴史

F&Mの歴史を調べると、最初から現在のような華やかな店だったわけではないことがわかります。
創業者の一人、ウィリアム・フォートナムはアン女王に仕えていた人物で、もう一人のヒュー・メイソンは彼の家主でした。F&Mが伝える創業物語では、当時の王室では毎晩新しいろうそくを使っており、余ったろうそくを使用人が売ることが認められていました。フォートナムはそこから得た利益をもとに、1707年にメイソンと商売を始めたとされています。

今のF&Mを見ると、王室御用達の華やかなブランドというイメージが先に来ますが、始まりをたどると、むしろ非常に商人的です。まだ使えるものを売り、その利益を元手に店を始める。何か特別な製品を発明したというより、需要を見つけて商売にするところから始まっています。300年以上続く老舗というと最初から完成されたブランドだったように感じますが、当然ながら最初は一つの商売だったのです。

王室との関係は、その後も商品名などに色濃く残っています。代表的なのがロイヤルブレンドで、1902年にエドワード7世のために作られたとされています。アッサムとセイロンを組み合わせた紅茶で、現在でもF&Mを代表する銘柄の一つです。一方のクイーンアンは、創業時代のアン女王を名前に持っていますが、実際に作られたのは創業200周年にあたる1907年です。つまり、アン女王が1707年当時に飲んでいた紅茶がそのまま残っているわけではありません。このあたりは、歴史のイメージと実際の商品史を分けて考えるとおもしろいところです。

そしてF&Mといえば、やはりロイヤルワラント、いわゆる英国王室御用達です。ただし、これは「英国王室が世界中の紅茶を全部飲み比べて、一番おいしいと認定した」という意味ではありません。王室に継続して商品やサービスを納めている企業に与えられる制度です。2026年現在も、F&Mは王室御用達企業として登録されています。

こういう話を知ると、「王室御用達だからありがたい」というより、何百年も続く店と王室との関係そのものが面白くなってきます。2012年には、ピカデリー本店の「ダイヤモンド・ジュビリー・ティーサロン」が、エリザベス2世の即位60周年に合わせて開かれました。1707年の創業から300年以上たっても、王室との関係が単なる昔話ではなく、その時代ごとに新しい形で続いているわけです。

ホリデーバスケットと英国的ライフスタイル

F&Mを英国本家のサイトで見ていると、紅茶以上に気になるものがあります。それがハンパーです。日本語で言えばバスケットや詰め合わせに近く、柳で編まれた立派な籠の中に、紅茶、ビスケット、ワイン、ジャム、チョコレートなどが詰められています。とくにクリスマスシーズンになると非常に豪華なものが並び、「これは食品のセットなのか、それとも家具なのか」と思うくらい大きなハンパーまであります。

昔、私が英国本家から取り寄せていた頃も、このハンパーを見ていました。当時から「日本ではあまり見ない文化だな」と思っていたのですが、改めて考えると、日本のお歳暮とも少し違います。中身だけを詰め合わせるのではなく、籠そのものに価値があり、食べ終わった後も使うことを前提にしています。贈り物であり、保存箱であり、ピクニックにも使える。F&Mのロゴが入った籠そのものが一つの商品になっています。

さらにおもしろいのが、F&Mのハンパーは単なるクリスマスギフトから始まったものではなく、旅との関係が深いことです。同社の歴史には、1922年のエベレスト遠征へ食品を供給したという話が残っています。しかも、その内容にウズラやフォアグラの缶詰、シャンパンなどが含まれていたというのです。エベレストに行くのにシャンパンまで持っていくのか、と現代の感覚ではちょっと笑ってしまいますが、逆にそこが非常に英国的にも見えます。

一方、本店には食品を詰めるハンパーだけでなく、食器やカトラリーを収納したピクニックセットもあります。写真を見るとわかりますが、蓋の内側に皿が固定され、ナイフ、フォーク、スプーンがきれいに並び、中にはカップや収納用品まで入っています。横には持ち運び用のブランケットも置かれていました。

実用性だけを考えれば、こんなものは必要ありません。外で食べるだけなら紙皿と紙コップで十分ですし、いまなら軽量なアウトドア用品のほうが圧倒的に便利です。でも、そこをあえて陶器の皿やカップ、金属のカトラリーで揃える。食事そのものだけではなく、どこでどう食べるかまで楽しもうとする考え方です。

もちろん、英国人がみんな休日になるとこういう籠を持って湖水地方へ出かけるわけではありません。ただ、F&Mが売っているものを見ると、英国的な「休日の理想像」がかなりわかりやすく表現されているように感じます。芝生の上にブランケットを敷いて、籠を開け、カップに紅茶を注ぐ。少し大げさかもしれませんが、F&Mは食品と一緒に、そういう時間まで売っているのだと思います。

日本での展開とカフェ文化

日本でもF&Mの商品は正規に販売されていて、三越などの百貨店で比較的簡単に購入できます。私自身も、日本で買うこともあれば、以前は英国本家から直接輸入することもありました。昔は本国価格がかなり安く、日本では扱っていない商品も多かったため、まとめて買えば個人輸入する楽しさがありました。ただし送料や通関手数料もかかるので、紅茶を数缶だけ買うなら日本国内で購入するほうが現実的です。

日本橋三越本店にはティーサロンもあり、F&Mの紅茶をポットで楽しむことができます。以前私も訪れたことがあります。ただ、そのときは少しお茶がぬるく、味も薄めに感じて「ん?」となりました。もちろん提供するタイミングや好みもあるでしょうし、紅茶は自宅でも温度や抽出時間でかなり味が変わります。普段から自分で淹れている人ほど、「自分の家で淹れたほうが好きかも」ということは普通にあると思います。

それでも、ティーサロンには自宅とは別のよさがあります。紅茶だけを飲みに行くというより、スコーンや菓子と一緒にポットで紅茶を楽しむ。その時間ごと含めて店へ行くのだと思います。F&Mの場合、もともと紅茶だけではなく、食べ物や食器まで含めて一つの世界を作っているので、ティーサロンという形はかなり相性がいいです。

自宅では、逆に好きな茶器を自由に使える楽しさがあります。写真で淹れているのはクイーンアンですが、私がF&Mの中で一番好きなのはフォートメイソンブレンドです。昔から何度も書いていますが、これは今でもかなり好きです。インドと中国の茶を使い、オレンジの花の香りを加えた紅茶で、フランス紅茶のように強く香るわけではないのに、飲んだ瞬間に独特の華やかさがあります。

個人的にはストレートで飲むのが好きです。ロイヤルブレンドやクイーンアンはミルクティーにも合いますが、フォートメイソンブレンドは香りをそのまま楽しみたくなります。紅茶についてはいろいろ飲んできましたが、F&Mの中で「これを飲みたい」と思って戻ってくるのは、結局フォートメイソンブレンドです。ブランド全体を好きになるきっかけも、私の場合はこの紅茶だったと思います。

缶デザインの魅力と世代ごとの記憶

F&Mについて語るとき、味と同じくらい重要なのが缶です。紅茶好きの人ならわかると思いますが、紅茶というのはなぜか缶を捨てられません。F&Mに限らず、マリアージュフレールでもダマンフレールでも、きれいな缶を見ると取っておきたくなります。中身はとっくになくなっているのに、棚の上には空き缶だけが増えていきます。

F&Mの現在の象徴といえば、青緑色の「Eau de Nil」と呼ばれる色です。少し青くも見え、少し緑にも見える独特の色で、金色の文字や細かな装飾と非常によく合います。店の箱やバッグまでこの色で統一されているので、ロンドン本店に行くと売り場全体がF&Mの世界になっています。

ただし、私の手元にあるものを見ても、すべて同じデザインではありません。ダージリン、セイロン、アッサム、ロシアンキャラバンなどには、それぞれ違った色の丸缶もありました。角缶も、ロイヤルブレンドなら青、クイーンアンなら紫系、フォートメイソンならオレンジといったように、帯の色で銘柄を見分けられます。同じブランドで揃っているのに、並べたときに単調にならないところも好きです。

さらに長く見ていると、パッケージそのものも変わっていきます。以前のF&Mを知っている人なら、もっと深い緑色の缶を思い浮かべるかもしれません。私の場合は平成生まれなので、今の青緑色のデザインのほうが「フォートナム&メイソンらしい」と感じますが、もっと昔から飲んでいる人にとっては、緑缶のほうが懐かしいのでしょう。

これがおもしろいところで、ブランドの記憶というのは必ずしも会社が決めるものではありません。子どもの頃に家に置いてあった缶だったり、誰かにもらったお土産だったり、初めて海外旅行で買った箱だったりします。その時代のパッケージが、その人にとっての「F&M」になります。味覚だけではなく、缶そのものが記憶を持っているのです。

ミニ缶のセットなどは、まさにそういう気持ちを刺激してきます。小さい缶がいくつも並んでいるだけなのですが、妙に欲しくなります。おそらく紅茶の量だけ考えれば大きな缶を一つ買ったほうが合理的です。でも、合理性だけならF&Mである必要もありません。飲み終わったあとも取っておきたくなる。棚に置いて眺めたくなる。こういう部分まで含めて、嗜好品なのだと思います。

実際にロンドンの百貨店に訪れてみて

ロンドンへ旅行したとき、絶対に行きたかった場所の一つがF&Mのピカデリー本店でした。ずっと紅茶を飲んでいて、英国本家から取り寄せまでしていたので、せっかくロンドンに行くなら本店を見ないわけにはいきません。

ピカデリーの通り沿いにあり、建物は立派ですが、実際に行ってみると思ったよりコンパクトでした。もちろん普通の店として考えれば十分に大きいのですが、日本の巨大百貨店やハロッズを想像して行くと、かなり印象が違います。近くにはリバティ・ロンドンもあり、少し離れればハロッズもあります。余談ですが、ハロッズは本当に巨大です。フロアを見て回るだけでもかなり疲れます。それに比べるとF&Mは、店全体の雰囲気を感じながら見て回りやすい大きさでした。

店内へ入ってまず感じたのは、思った以上に可愛らしいことでした。「300年以上の歴史」「英国王室御用達」と聞くと、もう少し重厚で堅い店を想像するのですが、実際には青緑色の箱がずらっと並び、オレンジ色のパッケージがあったり、カップやティーポットのイラストがあったりして、かなり華やかです。

普段日本で見ているロイヤルブレンドやクイーンアンが本店の棚に普通に積まれているのを見るだけでも、個人的にはちょっと感激しました。海外の店へ行って、日本で長年使っていた商品を見つけると妙にうれしいんですよね。「あ、本当にここから来ていたんだ」と変な実感があります。

そして本店へ行くと、紅茶だけを見て帰るのはかなり難しいです。ピクニック用品、食器、ハンパー、バッグ、菓子などが次々に出てきます。日本ではF&Mの紅茶だけを購入している人も多いと思いますが、現地ではむしろ紅茶は店を構成する一部分に見えてきます。紅茶を飲むためのカップがあり、その紅茶と一緒に食べるものがあり、それらを外へ持ち出す籠がある。店全体がつながっています。

中でも私がかなり見たかったのが、シルバーのティーポットです。以前、英国本家のオンラインストアを見ていた頃から気になっていて、シルバープレートのティーセットを本気で個人輸入しようか考えたこともありました。本店では実物が並んでいて、F&M好きとしてはやはり感激します。

写真の「Louis Philippe」のシリーズも、丸みのある胴体に大きく湾曲した注ぎ口が付いていて、かなり存在感があります。ティーポット、シュガーボウル、ミルクジャグと揃えていくと当然それなりの金額になりますが、こういうものは単に紅茶を注ぐ道具というより、半分は工芸品を見る感覚に近いです。鏡のような表面に店内が映り込んでいるのもきれいで、オンラインストアの写真で見るのとはまったく違いました。

こうして実際に本店まで行ってみると、長年なんとなく感じていた「F&Mは紅茶だけではない」ということが、かなりはっきりわかりました。むしろ紅茶は入口なのかもしれません。私も最初はフォートメイソンブレンドが好きになり、そこから缶を集め、本家のオンラインストアを見て、ハンパーやティーポットを知り、最後にはロンドン本店まで行きました。

紅茶だけなら、世の中にはもっと専門的な店もあります。単一農園のダージリンを追いかけるなら別の専門店がありますし、強い香りのフレーバーティーならフランス系のブランドにも魅力的なものがあります。それでもF&Mが特別なのは、紅茶一杯の周囲にあるものまで全部つながっていることだと思います。

缶を開けること、ポットに茶葉を入れること、好きなカップを選ぶこと、ビスケットを出すこと。休日ならバスケットに食器を詰めて外へ出る。誰かに贈るなら、箱を開ける瞬間まで考える。効率だけで考えれば必要のないことばかりですが、嗜好品というのは、そもそもそういう余計な部分を楽しむものなのかもしれません。

私にとってフォートナム&メイソンは、今でもまず「フォートメイソンブレンドのおいしい店」です。ただ、長く付き合って本店まで訪れてみると、それだけではありませんでした。紅茶を売っているというより、紅茶を飲む時間や、食卓や、贈り物や、休日の過ごし方まで含めた一つの世界を売っている。そこが、300年以上続いてきたフォートナム&メイソンの一番おもしろいところなのだと思います。

参考資料・公式情報

Fortnum & Mason「Our History」
Fortnum & Mason
https://www.fortnumandmason.com/our-history

フォートナム・アンド・メイソン 日本公式サイト
https://fortnumandmason.co.jp/

Royal Warrant Holders Association「Frequently Asked Questions」
https://www.royalwarrant.org/frequently-asked-questions