F82 M4の生産終了から、すでに6年ほどが経過しました。現行のG80 M3、G82 M4もすっかり街に馴染み、いまF80 M3やF82 M4を見かけると、少し前のBMW Mというより、ひとつ前の時代を象徴するクルマとして見えるようになってきた気がします。
ただ、このF8X世代をあらためて振り返ってみると、意外なほどモデル構成が複雑です。
通常モデルがあり、コンペティション パッケージが追加され、その後コンペティションが独立したモデルになります。
そこへGTSやCS、DTM Champion Edition、30 Jahre M3、日本独自の限定車まで重なっていきました。
特に分かりにくいのがM4 DTM Champion Editionです。同じ名前の限定車が実質的に2度登場しており、最初のモデルと2回目では限定台数も中身もかなり違います。また、GTSはモデル末期ではなく比較的早い段階で登場し、しかもM4にしか設定されませんでした。さらに世代後半になると、F80 M3が先に生産を終え、その後もF82 M4だけがしばらく残ります。

The BMW M4 DTM Champion Edition (10/2016).
今回は、そうしたF8X世代の少し分かりにくい歴史を、発売された順番に沿って整理してみます。
細かなシャシー性能や乗り味、故障、エンジン出力の違いには深入りせず、「いつ、何が登場し、どのように世代が終わっていったのか」に絞って振り返ります。
※なお、本稿ではF80 M3とF82 M4クーペを中心に扱うため、2018年に日本へ正規導入されたF83 M4カブリオレなど、カブリオレ系の派生モデルについては割愛しています。
F8X世代は、M3とM4が分かれたところから始まった
F80 M3とF82 M4の歴史を振り返るうえで、まず押さえておきたいのが「M4」という名前そのものです。先代E9X世代までは、4ドアセダンも2ドアクーペもM3を名乗っていました。しかしBMWが3シリーズのクーペを4シリーズとして独立させたことで、Mモデルも4ドアセダンがM3、2ドアクーペがM4という形に分かれます。
BMWは2013年12月に新型M3セダンとM4クーペを世界向けに正式発表し、日本では2014年2月19日にBMWジャパンが予約注文の受付開始を発表しました。納車開始は同年7月からと案内されています。つまり、日本におけるF8X世代の始まりは2014年です。

いまではM3とM4が別の名前で並んでいることにほとんど違和感はありませんが、当時はここが大きな転換点でした。長く続いてきた「M3クーペ」という名前が消え、その後継車が初めてM4を名乗ったからです。そのためF80とF82は、単なる同世代のセダンとクーペというより、BMW Mの車名体系が切り替わった最初の世代でもありました。
ここからM3とM4は基本的に並行して販売されていきますが、限定モデルまで含めると、その歩みはかなり違います。F82 M4にはGTSやDTM Champion Editionが用意され、一方のF80 M3にはM3誕生30周年を記念した30 Jahre M3が登場します。同じS55を搭載し、同じ時代に売られていた2台ですが、限定車の歴史まで見ていくと、実はかなり別々の道を歩んでいました。
時系列で見るF80 M3 / F82 M4
日本市場を中心に、主要な通常モデルと限定モデルを時系列に並べると次のようになります。
| 年月 | F80 M3 | F82 M4 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 2014年2月発売 | M3 セダン | M4 クーペ | BMWジャパンが2月19日に予約注文受付開始。納車は同年7月から。F8X世代の日本導入が始まります。 |
| 2015年1月 | — | M4 DTM Champion Edition | 2014年DTM王者マルコ・ヴィットマンのタイトル獲得記念。世界23台、日本5台の限定車でした。 |
| 2015年10月 | — | M4 M Performance Edition | 日本17台限定。M Performanceパーツを組み合わせた日本市場向け特別仕様車です。 |
| 2015年10月 | — | M4 Individual Edition | 日本10台限定。BMW Individualによる内外装を特徴とした特別仕様車です。 |
| 2016年4月 | Competition Package設定 | M4 GTS / Competition Package設定 | M4 GTSは世界700台、日本30台限定。Competitionはこの時点では独立モデルではなく追加パッケージでした。 |
| 2016年9月 | 30 Jahre M3 | — | M3誕生30周年記念。世界500台、日本30台限定。 |
| 2016年11月 | — | M4 DTM Champion Edition | 2016年のDTMタイトル獲得記念。世界200台、日本25台。2015年に日本導入された同名モデルとは別の限定車です。 |
| 2017年5月 | M3 Competition | M4 Competition / M4 CS | 改良型M3 / M4を発売。Competitionが独立モデルとなり、M4にはCSが追加されます。 |
| 2017年8月 | — | M4 Competition 6MT追加 | M4 Competitionに6速マニュアル仕様が追加されました。 |
| 2017年12月発表/2018年1月販売 | M3 M Heat Edition | M4 M Heat Edition | M3、M4それぞれ15台、合計30台限定。Competitionをベースとした日本限定仕様です。 |
| 2018年2月 | M3 CS | M4 CS継続 | M3にもCSが登場。日本30台限定。M4 CSより遅れて日本導入されました。 |
| 2018年 | F80 M3 生産終了へ | M4継続 | F80 M3はこの年に生産終了。M3 CSは2018年3月から10月まで生産されました。 |
| 2019年6月 | — | M4 CS生産終了 | M4 CSは2017年7月から2019年6月まで生産。通常のF82 M4はその後も続きます。 |
| 2019年9月 | — | M4 Edition Heritage世界発表 | F82最後期を象徴する記念モデル。世界750台限定として発表されました。 |
| 2020年1月 | — | M4 Edition Heritage日本発売 | 日本30台限定。ラグナ・セカ・ブルー15台、ベルベット・ブルー10台、イモラ・レッド5台。 |
| 2020年 | — | F82 M4 生産終了 | F80よりおよそ2年長く生産され、F8X世代そのものがここで終了します。 |
| 2021年1月 | G80 M3へ | G82 M4へ | BMWジャパンが新世代M3 / M4を正式発表。F8XからG8X世代へ移行します。 |
こうして並べてみると、F8X世代が「標準モデルがあり、次にCompetition、最後にCSやGTSが出た」という単純な流れではなかったことがよく分かります。
象徴的なのがM4 GTSです。GTSやCSと聞くと、モデル末期に登場した最終進化型のように感じますが、F82 M4 GTSの日本導入は2016年4月でした。標準M4の日本導入から、まだ2年ほどしか経っていません。その後2017年にM4 Competitionが独立モデルとなり、同じ年にM4 CSが登場します。現在の感覚からすると、少し順番が逆に見えるほどです。
M3側も同じではありません。M3 CSが日本に導入されるのは2018年2月で、M4 CSよりかなり後です。そして、その年のうちにF80 M3は生産終了へ向かいます。つまりM3 CSは、F80という世代のかなり終盤に登場したモデルだったことになります。
DTMは2種類、GTSはM4だけ。限定車を並べると見えてくること
F8X世代を調べていて、もっとも混乱しやすいのがM4 DTM Champion Editionです。
最初のDTM Champion Editionは、マルコ・ヴィットマンが2014年のDTMシリーズでチャンピオンを獲得したことを記念して製作されたモデルです。世界限定23台で、日本にはわずか5台が導入されました。日本では2015年1月に発売が発表され、希望者が多かったため購入権の抽選まで行われています。「23台」という少し不思議な台数も、ヴィットマンのカーナンバー23に由来しています。
ところがヴィットマンは2016年にもDTMチャンピオンを獲得します。そこでBMWは、もう一度M4 DTM Champion Editionを製作しました。名前だけを見ると再販のようにも見えますが、こちらは世界200台、日本25台限定です。台数だけでなく内容もかなり異なっており、2014年タイトル記念車とは別のモデルとして考えた方が自然です。
そのため、現在中古車情報や過去の記事で「M4 DTM Champion Edition」という名前を見つけても、それだけではどちらなのか判断できません。2014年タイトル記念なのか、2016年タイトル記念なのか。F8X世代の限定車を調べていると、ここがもっとも混乱しやすい部分のひとつです。

BMW M4 DTM Champion Edition. Images include not only standard equipment but also options and accessories. (10/2014)
BMW M Sportパッケージ·特別仕様車·M4·M モデル·BMW M·M Sports Packages / 14.11.2016 | ID: P90239340
The BMW M4 DTM Champion Edition (10/2016).
スポーツ·Brands·BMW·BMW M·M モデル·M4
もう一つ特徴的なのがGTSです。F82 M4 GTSは2015年に世界発表され、日本では2016年4月に注文受付が始まりました。世界700台、日本30台限定です。そして、この世代ではGTSがM4にしか存在しません。
F80 M3にはGTSが用意されず、M3側では30 Jahre M3やM3 CSが特別なモデルとして登場しました。反対にF82 M4には2種類のDTM Champion Edition、GTS、M4 CSがあります。CSだけはM3とM4の両方に設定されていますが、登場時期はM4の方が先でした。
さらに日本市場だけを見ると、2015年のM4 M Performance EditionとM4 Individual Edition、2018年のM Heat Editionといった少量限定車も加わります。世界的に知られているGTSやCSだけを追っていると見落としやすいのですが、BMWジャパンもこの時代にはかなり積極的に独自の限定仕様を投入していました。
こうして眺めると、F8X世代はひとつの完成形に向かって一直線に進んだというより、その途中でさまざまな派生モデルを次々と生み出した世代だったように思えます。
M3が先に姿を消し、最後はM4だけが残った
F80 M3とF82 M4は2014年にほぼ同時に日本へ導入されましたが、終わり方は同じではありませんでした。先に生産終了へ向かったのはF80 M3です。M3 CSは2018年3月から10月まで生産され、この年の後半にはF80 M3そのものが世代の終わりを迎えています。
一方、F82 M4はその後も残りました。M4 CSは2019年6月に生産を終えますが、通常のM4とM4 Competitionは引き続き存在し、同年9月にはM4 Edition Heritageが世界発表されます。日本での発売は2020年1月でした。
Edition Heritageは世界750台、日本30台限定です。ラグナ・セカ・ブルー、ベルベット・ブルー、イモラ・レッドというBMW Mにとって馴染み深い3色が用意され、日本向けの内訳もそれぞれ15台、10台、5台と細かく決められていました。
ただ、Edition Heritageを「F82の最終進化型」と呼ぶと少し意味が違います。GTSやCSのように性能面で特別な位置を狙ったモデルではなく、M4 CompetitionをベースにBMW Mの歴史を振り返る記念車です。その意味では、F82の最後にもう一度Mの過去を振り返るような、少し象徴的なモデルだったとも言えます。
そして2020年、F82 M4も生産終了を迎えます。F80 M3は2018年、F82 M4は2020年まで。ほぼ同時に始まった2台でしたが、最後はM4だけが約2年長く残りました。その後2021年1月、日本でもG80 M3とG82 M4が正式発表され、M3 / M4は現在につながるG8X世代へ移っていきます。
振り返ってみると、F8X世代は思っている以上に短く、そして密度の高い世代でした。2014年にM3と、初めてM4を名乗るクーペが登場し、その直後から少量の限定モデルが次々と投入されます。2016年には早くもGTSが登場し、Competition Packageが加わり、2017年にはCompetitionが独立モデルとなってM4 CSが登場。2018年にはM3 CSを最後にF80が先に姿を消し、その後もF82だけが残り、2020年のEdition Heritageを経て世代を終えました。
DTM Champion Editionが2種類あることも、GTSがM4だけだったことも、30 JahreがM3だけだったことも、時系列で並べてみるとようやく関係が見えてきます。単純なスペック比較では少し分かりにくいF8X世代ですが、「このモデルはいつ、どんな流れの中で登場したのか」という目線で見ると、BMW Mがこの時代にどれだけ多くのバリエーションを試していたのかがよく分かります。
いまでは新車ではなく中古車として目にすることの方が多くなったF80 M3とF82 M4ですが、街で見かけた1台が前期の標準車なのか、Competitionなのか、それとも短い期間だけ販売された限定車なのか。背景を知ってから眺めると、同じF8Xでも少し見え方が変わってくるかもしれません。
参考・引用
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0168188JA/
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0159784EN/
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0202122JA/
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0206343JA/
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https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0264369JA/
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0266007JA/
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0270541JA/
https://www.bmw-m.com/en/topics/magazine-article-pool/bmw-m3-f80-and-bmw-m4-f82.html
https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0324868JA/
