総裁選討論から考える:名目賃金と実質賃金、生活を守るのはどっち?

コラム
この記事は約5分で読めます。

先日行われた自民党総裁選候補者の討論会で、林芳正氏が小泉進次郎氏に対して鋭い質問を投げかけ、それにうまく答えられなかった場面がSNSで拡散されました。

質問の内容はこうです。

  • 「どの程度のインフレ率や物価上昇水準を想定しているのか?」

  • 「それについて日銀とどう連携していくのか?」

一見するとシンプルな問いのようですが、実は経済学の核心に関わる非常に重要なテーマです。ところが、小泉氏の答弁はやや見当外れに映り、視聴者からは「理解できていないのではないか」「質問が難しすぎて答えられないのでは」といった否定的なコメントが寄せられました。

この場面は、単なる政治家同士の応酬以上に、「実質賃金」と「名目賃金」という私たちの生活に直結するテーマを浮き彫りにしたのです。


FRBとパウエル議長の例から考える

私自身もこの質疑を見たときに、「瞬時に答えられたら確かにすごいな」と思いました。

ただ、米国のFRB(連邦準備制度)の会見を日頃から見ていれば、ここで「物価目標は2%」という数字は自然に出てきます。

ジェローム・パウエル議長は、過去数年間にわたり何百回も繰り返してこう語っています。

  • インフレ目標は2%

  • 雇用統計が悪化し失業が増えれば利下げを検討する

  • 逆に雇用が堅調でインフレ圧力が強ければ利下げはしない

つまり、物価と雇用の二つの指標を軸に金融政策を調整しているのです。アメリカの経済ニュースを追っている人なら、頭にこのストーリーが自然と浮かぶでしょう。これをそのまま日本に当てはめることはできませんが、考え方の基本は大きく変わりません。

余談ですが、レバニキのチャンネルを登録して毎回視聴していると、金利や経済用語が自然に頭に入ってきます。たとえばコアPCEや労働市場といった指標についても、数字の動きを追いながら理解できるようになりますし、気づけばニュースや記事を読むときの基礎知識として役立っているはずです。

さらに、ベーシスポイントやリセッションといった専門的な単語も繰り返し耳にするうちに自然と覚えられます。最初は少し難しく感じるかもしれませんが、継続して触れていると“あ、こういうことだったのか”と腑に落ちる瞬間が増えていきます。経済や金融に苦手意識がある人にもおすすめできるコンテンツだと思います。


日銀と政府の関係性

前提として重要になるのが、日銀と政府の関係性です。

日本銀行は独立性を持つ中央銀行であり、政府から直接的な指示を受けて政策を決めるわけではありません。これはFRBも同じで、大統領の意向に従って金利を上下させるわけではないのです。

したがって「日銀とどう連携するか」と問われた場合に、政治家として模範的なのはこういう答えでしょう。

  • 「日銀の独立性を尊重しつつ、政府は財政政策や労働市場政策を通じて賃上げを支援する」

  • 「日銀が物価安定を担う一方で、政府は成長戦略や税制で賃金上昇の環境を整える」

つまり、役割分担を明確にしつつ“歩調を合わせる姿勢”を見せるのが、現実的かつ説得力のある立場なのです。


名目賃金と実質賃金の違い

ここからは、生活に直結する「賃金」の話に移りましょう。

まず整理しておきたいのは、名目賃金実質賃金の違いです。

  • 名目賃金:給料の額面そのもの。

    例:月30万円 → 月31万円に上昇(+3.3%)

  • 実質賃金:名目賃金の伸び率から物価上昇率(インフレ率)を差し引いたもの。

    計算式はシンプルで、

    実質賃金上昇率 ≒ 名目賃金上昇率 − 物価上昇率

この違いを理解すると、「給料は増えているのに生活が苦しい」という現象の理由がよくわかります。

たとえば、物価が2%上がっているのに給料が1%しか上がらなければ、実質賃金はマイナス1%。表面的には昇給しているように見えても、実際の生活水準は下がってしまうのです。

もう少し身近な家計の例で考えてみましょう。

  • 給料が1%増えた場合:月30万円 → 月30万3,000円

  • 物価が2%増えた場合:生活費30万円 → 30万6,000円

この結果、手取りはむしろ3,000円の赤字。数字上は昇給しているのに、生活は厳しくなるという逆転現象が起きます。

つまり、実質的に貧しくなっているということです。

このギャップを理解していないと、「給料が増えているから問題ない」という表面的な議論に流されてしまいます。逆に、この関係性をしっかり押さえておけば、政治家の発言やニュース報道に対して「実際に生活水準はどう変わるのか」を自分で判断できるようになります。


政策に求められる視点

したがって、政治家に求められるのは以下の二点です。

  1. 物価目標と賃金上昇のバランスをどう取るか

    • 日銀は物価安定(2%前後)を目指す。

    • 政府は名目賃金がそれを上回る上昇を実現できる政策を打つ。

  2. 独立した中央銀行との正しい関係を保つこと

    • 政府が直接的に「利上げ・利下げせよ」とは言えない。

    • その代わり、補助金・税制優遇・取引適正化を通じて企業の賃上げを後押しする。

この両輪が揃って初めて、私たちの生活を豊かにする「実質賃金の上昇」が実現できるのです。
つまりこの前提条件をベースにして総裁選討論に答えれば、大きく揚げ足を取られずに対応できそうですね。

タイトルとURLをコピーしました