ここ1か月のユーロ円を確認された方は驚いたのではないでしょうか。
久しぶりにチャートを見た私自身も、正直目を疑いました。今朝の段階で 1ユーロ=174.9円、ついに175円の大台に迫る水準に達しています。
これは昨年7月頃のピーク水準をやや上回るほどであり、為替市場としては極めて「危険な域」に差し掛かっていると言わざるを得ません。
「なぜこんなにも円安が進んでしまっているのか?」
「日銀は利上げをしているのに、ECB(欧州中央銀行)は利下げしているのになぜユーロ高なのか?」
ここでは、ユーロ円高騰の背景にある構造を整理し、今後のシナリオについても考えてみます。
1. 円安・ユーロ高の基本メカニズム
為替相場を語る上で最も重要なキーワードは 「金利差」 です。投資家は当然ながら「利回りが高い通貨を持ちたい」と考えます。
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日本:超低金利(現在政策金利0.5%前後)
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欧州:中銀預金金利(預金ファシリティー金利):2.00%
この金利差が、資金を「円からユーロへ」と動かす大きな要因です。
日銀は19日開いた金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.5%で据え置くと決めた。米関税政策による日本経済への影響を引き続き見極める。1月会合で0.5%に引き上げた後、5会合連続で現状維持となる。
植田和男総裁は同日午後3時半に記者会見し、決定内容を説明する。
出典元:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB17BOK0X10C25A9000000/
円を保有しても利息がつかない
日本の銀行にお金を預けていても、利息はほとんどゼロです。
一方、欧州の銀行や国債に資金を移せば、元本割れリスクが小さい長期国債でも数%の利回りが期待できます。結果、円を売ってユーロを買う動きが加速するのです。
ユーロ圏の10年物国債利回り(全体平均・AAA格国債ベースなど):約 3〜3.2 % 程度つきます。
円キャリートレードの拡大
さらに顕著なのは「円キャリートレード」です。これは、海外投資家が日本で円を借りて(超低金利)、その資金をドルやユーロに換えて高利回りの債券や資産に投資する手法です。
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日本での借入コスト:0.5%
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欧州の国債利回り:3〜4%
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差し引きで数%の利ざやがほぼ“ノーリスク”で得られる
この構造が続く限り、「円を売ってユーロを買う」という流れは止まらず、ユーロ高・円安を強烈に押し上げてしまいます。
2. なぜECBが利下げしてもユーロは下がらないのか
直感的には「利下げ=通貨安」のはずです。
実際、ECBはインフレ終息局面を受け、ここまでに数回の利下げを実行しています。それにもかかわらずユーロは強いままです。なぜでしょうか?

織り込み済みの利下げ
市場は「将来利下げが行われるだろう」とかなり前から予測していました。
為替市場は常に「先を読む」ため、実際に利下げが行われても驚きはなく、むしろ「予想通り」であればユーロ安に大きく動かないのです。
日銀の利上げは“弱すぎる”
日銀も2025年に入り2度の利上げを行い、政策金利は0.5%に達しました。しかし欧州との金利差は依然として大きいまま。投資家から見れば「日本は利上げしたとはいえ、まだゼロ金利同然」と映っています。
つまり、日銀の利上げが相対的に弱く、ECBの利下げは限定的かつ織り込み済みであるため、依然としてユーロの方が魅力的に見える構造が残っているのです。
3. 群衆心理とオーバーシュートの危険性
為替相場は必ずしも経済ファンダメンタルズだけで動くわけではありません。ときに「群衆心理」が過剰に働き、値が行き過ぎる、いわゆる オーバーシュート が発生します。
昨年のドル円でも、投機筋が「150円、160円」といった節目を狙い、短期的な仕掛けを行った結果、瞬間的に大きな円安が進みました。同じことがユーロ円でも起きる可能性は十分あります。
「円が危ない、ユーロに逃がさなければ」という心理が投資家の間で広がれば、実需や合理性を超えてユーロが一気に跳ね上がる展開があり得ます。その場合、180円や200円といった水準を試すシナリオも“ゼロではない”のです。
4. では巻き戻しはいつ起こるのか?
多くのエコノミストや市場関係者は、「永遠に円安が続くわけではない」と考えています。キャリートレードは強力ですが、リスクオフが訪れたときには一気に解消されやすいからです。
予想としてよく挙げられるのは、20円程度の下落=155円前後までの円高反転です。今年3月にも一度見られた水準であり、調整局面としては自然です。
ただしここで重要なのは、2020年の123円のような円高水準に戻ることはほぼ不可能という点です。当時と現在では日本の金利水準、経常収支、国際環境がまったく異なり、「円が強い通貨」としての魅力は大幅に薄れてしまっているからです。
5. 日銀が積極的に利上げできない構造
根本的に円高が戻らない理由の一つは、日銀が「本格的な利上げ」をできない構造的制約にあります。
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日本の国債残高はGDPの2.5倍。利上げ1%で数兆円規模の利払い増。
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日銀自身が国債を大量保有しており、利上げは日銀の収支悪化に直結。
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中小企業や個人の借入金利負担増 → 景気腰折れリスク。
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過去の「勇み足利上げ」で景気を冷やしたトラウマ。
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政府・有権者の反発(景気悪化による支持率低下)。
これらを考えると、日銀にできるのは 小幅利上げ+様子見 にとどまり、欧米のような積極利上げは事実上不可能です。

利上げで不動産の借り入れ返済ができない人も増加する
6. 今後のシナリオ整理
では、今後ユーロ円はどの方向に進むのでしょうか。可能性を3つに分けてみます。
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調整シナリオ(155〜160円)
リスクオフやキャリー解消により一時的に巻き戻す。
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現状維持シナリオ(170〜175円前後)
金利差構造が続く限り、このレンジで上下を繰り返す。
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オーバーシュートシナリオ(180〜200円)
投機筋と群衆心理が重なり、節目を狙って急上昇。
長期的に見れば「123円台復帰」のような強烈な円高は想定しづらく、むしろ 円安がどこまで行き過ぎるか、そしていつ巻き戻しが入るか が焦点となります。
結論
現在のユーロ円174〜175円という水準は、確かに「危険水域」にあります。しかしこれは単なる異常値ではなく、金利差とキャリートレードという合理的な構造が積み重なった結果でもあります。
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日銀は構造的に大幅利上げができない
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欧州は利下げをしても依然として金利差が大きい
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投機筋の仕掛けや群衆心理がオーバーシュートを助長する
こうした要因から、ユーロ円は短期的に調整しても、中長期で再び高値圏に戻りやすい構造にあります。
つまり「175円が天井」とは限らず、180円・200円を試す可能性も残されている。
一方で、急激な円高巻き戻しのリスクも常に内包している。
為替市場はまさに「構造」と「心理」の綱引きであり、今後も大きなボラティリティを伴う展開が続きそうです。



