スーパーからオレンジジュースが消えた一年間
ここ1年ほど、スーパーマーケットからオレンジジュースが姿を消していました。とくにここ半年ほどは顕著で、これまで当たり前のように並んでいた濃縮還元の100%オレンジジュースが消失し、ストレートタイプの本格派ジュースは続々と販売終了。代わりに高価な国産みかんジュースやポンカンジュースが細々と棚を埋めるだけという、異例の状況が続いていました。
昨年の冬あたりからは、ついに「オレンジジュースを希釈した飲料」まで登場しました。メーカー名を挙げることは控えますが、もともと濃縮されたオレンジ果汁をさらに薄め、果汁20%や30%程度にしたうえで香料・酸味料・甘味料を加えた、いわゆる“清涼飲料水”が主役になってしまったのです。見た目は1リットルパックでも、実質はオレンジジュースとは呼べないレベルの飲料ばかりになり、オレンジジュースを好んで飲んでいた人にとっては、かなり苦しい時期だったと思います。
しかし、ここ1ヶ月ほどで状況は大きく変わり始めました。これまで棚から消えていた濃縮還元の100%オレンジジュースが、少しずつ戻ってきています。代表的なところでは、トロピカーナのオレンジジュースが再び見かけられるようになり、1リットルサイズの手頃なパックも並び始めました。値段はまだ以前ほど安くはないものの、トロピカーナは900mlで税込483円前後、そしてOEM系の1リットル商品も300円前後と、かつての価格帯に少しずつ近づきつつあります。

では、なぜこれほどまでにオレンジジュースが高騰し、スーパーから姿を消したのでしょうか。そして今なぜ、少しずつ戻ってきているのでしょうか。背景には、この数年の世界的な異常事態が関係していました。
世界規模で起きていた不作と病害──ブラジルとフロリダの危機
オレンジジュースの供給が危機的な状況に陥った最大の原因は、世界最大の産地・ブラジルで発生した「柑橘グリーニング病(HLB)」です。ブラジルのシトラスベルトは世界のオレンジジュースの生産を支える地域ですが、ここ数年でHLBが全域へと広がり、感染地域はついに半分に達したといわれています。
HLBに感染した木は、実が小さく伸びず、熟さないまま緑色で止まり、味も渋くなり商品になりません。つまり、木そのものがオレンジを生産できなくなるのです。さらに、2024年前後には干ばつが直撃し、ただでさえ病害で弱っていた畑に追い打ちをかける形で収穫量を激減させました。

https://nypost.com/2025/03/28/us-news/florida-orange-production-drop-30-after-hurricanes-destroy-crop-growing-trade-wars/
アメリカのフロリダ州でも状況は深刻でした。フロリダは長年、世界有数のオレンジジュース産地として知られてきましたが、ここ十数年はHLBに加えて大型ハリケーンの連続被害により、長期的な減産傾向が続いていました。2024〜2025年のフロリダのオレンジ収穫量は、なんと「第二次世界大戦前の水準」まで落ち込んだと表現されるほどです。
その結果、世界全体の供給量は大きく不足し、オレンジジュースの原材料となるFCOJ(冷凍濃縮オレンジジュース)の価格は歴史的な水準まで高騰しました。
史上最高値となった先物市場──500ドル超からの急落
オレンジジュースの価格が消費者レベルで跳ね上がった最大の理由は、作物そのものの取引価格が異常な値動きを見せたことにあります。
過去20〜30年、オレンジジュース先物価格は比較的安定し、2019年頃は1ポンドあたり100ドル前後で推移していました。しかし、世界的な不作と病害、そして気候変動要因が重なった2023〜2024年に先物市場はパニック状態となり、なんと2024年10月には500ドルまで急騰。ピークでは529ドルで引けた日もあります。
つまり、わずか数年で価格が5倍以上に跳ね上がったわけです。
この価格変動は、消費者にとっては「300円で買えていたジュースが1,500円になる」というレベルのインパクトになります。これではスーパーは商品を並べられませんし、加工業者も仕入れができず、結果的に店頭からオレンジジュースが消えていく──そうしたメカニズムが働いていました。
ところが、2025年に入ると市場に変化が現れました。ブラジルでは次期シーズンの収穫量が持ち直す見通しが強まり、生産改善の期待が先物市場に反映され始めました。2025年3月には500ドルだった先物価格は250ドルほどに下落。その後も収穫期が近づくにつれてじわじわと下がり続け、現在の価格は158ドル前後まで落ち込み、これは2022年4月頃の水準です。
さすがに、コロナ前の相場と比べればまだ高いですが、ピーク時の3分の1という水準まで戻っており、市場が落ち着きを取り戻しつつあるのがわかります。

オレンジジュースはこれからどうなるのか──2025年以降の展望
先物価格が落ち着いたとはいえ、店頭価格がすぐに元に戻るわけではありません。市場にはタイムラグがあり、先物価格と実際の製品価格は数ヶ月から半年ほど遅れて反映されます。また、今年の収穫が本格的に流通するのは今年ではなく来年以降になるため、完全に安い価格に戻るには時間がかかります。
さらに、世界的なインフレ、物流コストの上昇、為替変動などの要因も重なり、かつてのように「1リットル100円」の時代が戻ってくる可能性はほぼありません。原材料価格が落ち着いたとしても、製造や輸送のコスト構造はもう当時とは違うからです。
それでも、今後は現在よりもオレンジジュースが手の届く価格帯に戻ってくる可能性が高いと考えられます。とくに来年の春から夏にかけては、今年の収穫を反映した加工品が市場に流れ始める時期です。そうなれば、今よりさらに値段が落ち着き、一般家庭でも気軽にオレンジジュースを楽しめるようになるはずです。
重要なのは、今回店頭からオレンジジュースが消えた背景には、
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世界的な病害(HLB)
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気候変動による異常気象
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主要産地の生産構造の変化
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先物市場の急騰
といった、複数の要因が重なった「世界的な問題」があったという点です。そして今、価格が落ち着いてきて棚に商品が戻りつつあるのは、これらの要因の一部が改善に向かっているというサインでもあります。
まだ昔ほど安くはありませんが、まったく飲めなかった時期に比べれば、ずっと前向きな局面に入っていると言えます。オレンジジュースが好きな人にとって、2025年は少しほっとできる一年になるかもしれません。



