805D3 Prestige Editionで測る輸入台数、現存数を推論する手法

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私が最近ハマっているのが、「生産台数や現存数をどこまで推測できるのか」という試みです。
自分が欲しいもの、あるいはすでに所有しているものが、いったいどれくらい作られ、現在の日本にどれくらい残っているのか。ひとつの思考実験でもあります。

ところが、少しニッチな製品になると、公式サイトにも代理店にも、生産台数や輸入数といった情報はほとんど書かれていません。それでも中古市場では売買され、所有者の存在もかすかに感じられる。

この「情報がないのに存在はある」という状態が、非常に知的好奇心を刺激します。
ここでは、その具体例としてB&W 805D3 Prestige Editionを取り上げ、どのような手順で輸入台数と現存数を推論したのかを書いていきます。

取引履歴から全体像をつかむ

最初に行うのは、極めて基本的な調査です。Googleなどで製品名を検索し、「生産台数」「輸入台数」といった情報を探します。805D3 Prestige Editionについては、この段階で明確な数字は得られませんでした。しかし、ここで重要なのは、情報がないという事実自体です。少なくとも、大量生産品や記念モデルのように、数字を前面に押し出す製品ではないことが分かります。

次に注目するのが、ヤフーオークションなどの取引履歴です。

https://aucfree.com/search?from=2015-06&l=300000&o=t2&q=805D3+&to=2025-11

オークフリーのようなサービスを使い、モデル名を正確に指定して、過去の取引件数を確認します。ここでは価格よりも件数を見ます。年間に10件程度なのか、100件なのか、あるいは1000件を超えるのか。この段階で、流通量の大まかな桁感が見えてきます。

805D3 Prestige Editionの場合、過去およそ10年で確認できる取引は45〜50件程度でした。これを年ごとに区切って見ると、取引が集中している時期と、ほとんど動いていない時期があり、市場の性質が比較的はっきりと表れています。スプレッドシートに落とし込み、件数や価格帯をグラフ化すれば、定性的な印象が定量的な形に変わっていきます。

シリアル番号とデモ機は上限と下限

取引履歴だけでは、どうしても曖昧さが残ります。そこで次に使うのが、シリアル番号という情報です。スピーカーは2台で1ペアなので、シリアル番号の最大値を確認できれば、そこから生産規模の上限を推測できます。たとえば、1000番台のシリアルが存在するなら、最大で1000台、つまり500ペア程度が作られた可能性がある、と考えられます。

ただし、この方法には注意点があります。
メーカーによっては、国ごとにシリアルを割り当てていたり、途中で番号を飛ばしていたりすることがあるため、必ずしも完全な連番とは限りません。そのため、国内の事例だけでなく、海外フォーラムやレビュー記事などから複数のシリアル情報を集め、分布として眺める必要があります。単一の数字ではなく、レンジとして捉えることが重要です。

一方で、下限を決める材料として有効なのが、デモ機や試聴機の存在です。805D3 Prestige Editionは発売当初、全国各地で試聴会や店頭展示が行われていました。デモ機は実物が存在しなければ成立しないため、仮に同時期に15店舗で展示されていたとすれば、最低でも15ペアは日本に入っていたことになります。しかも、これらのデモ機は展示終了後に販売されることが多く、実質的には市場に流通する個体です。この情報は、日本に存在した台数の下限を決めるうえで、非常に強い根拠になります。

 「売却される割合」を仮定する

ここまでで、取引履歴からユニークな個体が8〜12ペア程度存在すること、デモ機などから最低でも十数ペアは確実に日本にあったことが分かります。
次に行うのが、やや思考実験的なステップです。

それは、「そもそも売却に出る人は全体の何割か」を仮定することです。

高級スピーカーの場合、一度購入すると長期間使い続ける人が多く、頻繁に売買されるジャンルではありません。そのため、売却に出るのは全体の1割前後と仮定するのが、体感的にも妥当だと考えられます。この仮定を置くと、8〜12ペアが市場に出ているという事実から、全体では80〜120ペア程度が日本に存在している、という推定が導かれます。

この数字を裏取りする材料として使えるのが、SNS上の所有者投稿です。X(旧Twitter)などで805D3 Prestige Editionの所有報告を探すと、確認できるのは4〜5人程度で、その中には過去形で語っている人も含まれます。
仮に、全体の3〜5%程度の所有者がSNS上で可視化されると考えると、80〜120ペアという推定値と大きな矛盾はありません。複数の異なる視点から見ても、同じレンジに収束していく点が重要です。

価格の硬さとジャンル特性

最後に確認したいのが、価格の残り方です。
805D3 Prestige Editionは、新品時にスタンド込みで約90万円でした。

それが6年以上経過した現在でも、70万円前後で取引されています。残価率にすると約80%です。これは、流通量が少なく、代替が効きにくく、所有者が簡単には手放さない製品に見られる典型的な挙動です。もし台数が多く、市場に溢れていれば、この価格水準は維持できないでしょう。

https://auctions.yahoo.co.jp/

また、現存数を考える際には、製品ジャンルごとの「減り方」も考慮する必要があります。

車であれば、事故や故障、部品取り、海外流出などによって、年々確実に台数が減っていきます。一方でスピーカーは、壊れても修理されやすく、そして「型番が明確で価値が伝わりやすい」ため直ちに破棄されるケースは比較的少ないと考えられます。したがって、純粋な廃棄率は低めに見積もってよいでしょう。

逆に、美術系のガラスやアンティークグラスのようなジャンルは事情が変わります。
価値が分かりにくいものは、持ち主が高級品だと気づかずに格安で売ってしまったり、遺族が二束三文で処分したり、場合によっては破棄されてしまうリスクが高いからです。さらにガラスは素材として割れやすく、引っ越しや移動、日常の取り扱いでじわじわ減っていきます。

たとえば一例として、バブル期の1990年頃に大量に輸入された美術ガラスが「1000個入ってきた」と仮定しても、現在の現存数が500個、あるいは300個を下回っていても不思議ではありません。ジャンル固有の破損・廃棄・価値認識のズレが重なるほど、現存率は想像以上に落ちていきます。

つまり、同じ「台数推定」でも、スピーカーのように廃棄率が低く、価値が識別されやすい対象では、輸入台数=現存数に近い見積もりが成立しやすい。一方でガラスのように壊れやすく価値が伝わりにくい対象では、廃棄率や散逸率を高めに置いて推論する必要があります。

数字がないからこそ、推論が楽しい

以上のように、公式な数字が存在しなくても、取引履歴、シリアル番号、デモ機の存在、売却率の仮定、SNSの可視性、価格の硬さといった複数の要素を重ねていくことで、現実的なレンジを導き出すことができます。ChatGPTのようなAIは、これらの前提条件を整理し、思考を補助するための優れた道具です。

情報が少ないからこそ、考える余地があり、その過程そのものが楽しい。身の回りにある少しニッチなモノについて、ぜひ一度、同じような視点で「数えて」みてください。

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