DENONハイコンポシステムの新モデル「M38シリーズ」 RCD-M38
オーディオ全盛期の90年代から2000年代にかけて、コンパクトながらも高音質を志向した「ミニコンポ」は、多くのオーディオファンにとって憧れの存在でした。特にDENON、ONKYO、Pioneerといった専業メーカーの製品は、家電量販店の試聴コーナーを賑わせ、多くの若者が足を止めて耳を傾けたものです。
DENONといえば「Lapisia(ラピシア)」シリーズを思い出す方も多いでしょう。高級ミニコンポとして登場したD-MG33や、その後のFRシリーズとの熾烈な選択は、当時のオーディオファンにとって大きな悩みどころでした。そしてヨーロピアンサウンドを掲げた「RCD-M33+SC-M53」、続く「RCD-M37」を経て、いよいよ登場したのが今回取り上げる「RCD-M38」です。
本稿では、その機能や操作性、音質傾向、そして同時期の競合機との比較を通じて、RCD-M38が持つ魅力と課題を探っていきます。

外観とデザイン
RCD-M38のデザインは、DENONらしい落ち着いたラウンドフォルムが特徴です。フロントパネルには緩やかな傾斜があり、視認性に配慮された設計となっています。表示部には視野性の高いLEDが採用され、CDの曲名やUSBメモリの再生情報などもわかりやすく表示されます。
全体としてはシンプルで主張しすぎないデザインですが、オーディオ専業メーカーらしい質実剛健さを感じさせ、飽きのこない外観です。
機能と特徴
RCD-M38は「CD再生に特化したモデル」という点で、同時期のONKYO CRシリーズに近いコンセプトを持っています。しかし、それだけではなくUSBメモリのMP3再生や、USB経由でのiPod/iPhone再生に対応している点が大きな進化です。
特筆すべきは、iPodやiPhoneを接続した際に、アナログライン出力を経由するのではなく、デジタルデータを直接取り込み、RCD-M38内蔵のDACで処理する仕組みになっていることです。これにより、CDと同等レベルの高音質再生が可能となり、ポータブルオーディオを主に利用しているユーザーにとって大きなメリットとなります。
さらに、ポータブルイン端子を搭載しており、ウォークマンやパソコンも接続可能。ただし、こちらはアナログ入力扱いになるため、音質は接続元の機器に依存します。より高音質を求めるのであれば、バックパネルに備えられた2系統のライン入力を活用し、ONKYO SE-90PCIなどの高音質サウンドカードを組み合わせるのが推奨されます。
音質の傾向
RCD-M38の音質は、DENONらしい中域の厚みに特徴があります。中域がふくらみ、ややウォームで元気のある音が鳴るため、J-POPやロックとの相性が抜群です。明るく活発なサウンドで、日常的に音楽を楽しむには非常に適しています。
また、USB経由でのiPod/iPhone再生では、内蔵DACを通すことでクリアな音質が確保され、CD再生と遜色ないレベルに到達します。これにより、単なる「便利な接続端子」にとどまらず、実用的かつ高品位な再生環境を構築できます。
一方で、ポータブルイン経由ではアンプで単純に増幅されるだけのため、音源側の質がダイレクトに反映され、音がこもってしまう場合もあります。この点は、RCD-M38を最大限活かすための注意点といえるでしょう。

操作性とUI
RCD-M38の操作感については賛否が分かれるポイントです。ボリュームノブ自体は高級感がありますが、回し心地が固く、プリメインアンプに慣れたユーザーにとってはやや不満が残ります。さらに音量調整がステップ式で、スムーズに変化しない点も気になる部分です。
ただし、リモコン操作に対応しているため、近距離でもリモコンを使えば実用上は問題ありません。UIはシンプルで必要最低限ですが、同世代のONKYO CRシリーズやPioneer X-HM50の操作性と比べると一歩劣る印象があります。特にONKYO CR-D1のようなジョグダイヤル式の操作性には及ばず、改善の余地を残しています。

競合機種との比較
ONKYO CRシリーズ
同じくCD再生特化のコンセプトを持つONKYO CR-D1LTDと比較すると、RCD-M38はよりウォームな音質傾向にあります。ポップスやロックを楽しむにはM38が有利ですが、立体感や透明感を求めるならONKYOに分があります。
Pioneer X-HM50
X-HM50と比較すると、M38はやや低音が不足気味に感じられます。また、音場の立体感もX-HM50のほうが優れている印象です。デザインや操作性の洗練度もX-HM50に軍配が上がるため、両者を実際に視聴して好みを判断するのが良いでしょう。

総評
RCD-M38は、突出した特徴を持つわけではありませんが、DENONらしい中域の厚みと元気な音で日常の音楽を楽しむには十分な実力を備えています。iPod/iPhoneを直接デジタル接続して高音質再生できる点は当時として大きな魅力であり、普段使いの利便性と音質をバランス良く両立しています。
もちろん、ドラムの緊張感や声の厚みなどを本格的に味わうには上位のPMAシリーズへとステップアップする必要があります。しかし実売価格を考えれば、CD・USB・ラジオ・アラーム・AUX入力と、普段よく使う機能がコンパクトにまとまったRCD-M38は、非常にバランスの取れた「エントリー機」と言えるでしょう。
また、専業オーディオメーカーであるDENONの製品を所有すること自体が、オーディオ愛好家にとっては一種のステータスでもあります。SONYやPanasonicのミニコンポにはない「専門性」を備えたRCD-M38は、気軽に高音質を楽しみたいユーザーにとって価値ある選択肢となるはずです。
おわりに
RCD-M38は、ミニコンポ文化が最盛期を迎えていた時代のDENONらしい一台であり、「便利さと音質のバランス」を見事に体現したモデルです。突出した個性こそないものの、日常的なリスニング環境をワンランク引き上げるポテンシャルを秘めています。
もし家電量販店や中古オーディオショップで出会うことがあれば、ぜひ一度視聴してみてください。きっと、当時の「ミニコンポ全盛時代」の空気を思い出させてくれるでしょう。


