ランクル転売に見る、新車購入の“先物投資化”現象 ― 長納期時代のクルマ選びと金融リスク

クルマ
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皆さんは、昨今の新車の納期事情をご存知でしょうか。

かつて新車を注文するというのは、今よりもシンプルな体験でした。
2010年頃までは、ディーラーでカタログを見ながらボディカラーや内装、オプションをじっくり選び、その場で契約を交わすと、早ければ1ヶ月後には納車。遅くても3ヶ月程度でディーラーに車が到着し、新しいカーライフがスタートできたのです。

もちろん、トヨタ・プリウス初代やホンダ・オデッセイ、三菱パジェロといった大ヒット車種では半年待ちのケースもありました。しかしそれは“例外的な人気車”に限られており、ほとんどの国産車は3ヶ月もあれば十分に手元に届きました。輸入車やフルオーダーの高級車は別としても、日常的な車選びで「1年も待つ」などということは考えられなかったのです。


コロナ禍が変えた自動車のサプライチェーン

しかし2019年から2020年にかけて、この常識は大きく揺らぎました。

まず直撃したのが半導体不足です。近年の自動車は、エンジン制御ユニット、ナビゲーション、先進安全装備などに膨大な半導体を使用しています。1台あたり数百個ものチップが必要とされるため、世界的な供給不足は自動車生産を直撃しました。

さらに工場の稼働制限も重なります。コロナ禍では海外の工場がロックダウンにより停止、日本国内でも労働力不足や部品の入荷遅延が頻発。従来の大量生産方式では対応しきれなくなり、各メーカーは「必要な分だけを作る」オンデマンド型の生産体制に切り替えざるを得ませんでした。

また、物流の混乱やウクライナ情勢といった地政学リスクも無視できません。部品を海外から輸送する船や飛行機が足りず、せっかく完成した車が港で足止めされる、といった事例も相次ぎました。

こうした要因が重なり、2020年代に入ってからの新車納期は劇的に延びました。トヨタやレクサスの公式サイトを見れば「6ヶ月以上」「1年以上」という表記も珍しくありません。とりわけ人気SUVやEV、ハイブリッドモデルは注文から納車まで1年〜2年を要する場合もあるのです。


新車購入と「先物取引」の共通点

ここで、金融の世界にある「先物取引」という概念を持ち出すと、いまの新車購入がいかに特殊かがわかります。

先物取引とは、将来のある時点で商品の受け渡しを約束し、その価格を現在の時点で決めてしまう取引です。原油、小麦、金属などが代表的で、たとえば「1年後の小麦の価格をいま決めて契約する」といった形です。

自動車購入も、この仕組みに酷似しています。契約時に支払う価格が確定し、実際にクルマが届くのは半年から1年以上先。まさに「未来の商品をいまの値段で予約購入する」行為といえるでしょう。


得をするケース

長納期がもたらすのは、必ずしも損ばかりではありません。
場合によっては購入者が「得」をするケースもあります。

  1. モデルイヤー繰り上げの恩恵

    契約後にマイナーチェンジや装備追加があっても、当初契約時の価格で納車される場合があります。たとえば安全装備やインフォテインメントが最新仕様にアップデートされれば、支払額は変わらずとも実質的には「値上げ前の車」を手に入れたことになります。

  2. 中古車市場の高騰

    コロナ禍の一時期、半導体不足で新車が足りず、中古車価格が高騰しました。このとき新車契約をしていた人は、納車された瞬間に市場価格より安い値段で車を所有できたため、リセールで利益が出ることもありました。ランドクルーザーの転売屋も増加しました。

  3. 為替の影響

    輸入車では、円安が進んだ場合、契約時の価格と納車時の実勢価格に大きな差が生じます。円安前に契約した顧客は「実質的に値上がりした車」を旧価格で買えたことになります。


損をするケース

一方で「長く待ったのに損をした」という事態も十分に起こり得ます。

  1. 中古車相場の下落

    1年も経てば市場のトレンドは変わります。人気SUVでもライバルの新型が登場すれば中古価格は急落し、納車された時点で契約時より割高に感じるケースもあります。

  2. 生活環境の変化

    納車を待つ間に子どもが生まれて車のサイズが合わなくなったり、転職や引っ越しで必要な車種が変わることもあります。結果的に「やっと届いたけれど、もう不要」という状況に。

  3. 景気後退による資産価値の低下

    経済不況の影響で中古市場全体が値下がりする局面では、納車された瞬間から「高値掴み」となるリスクがあります。


メーカーやディーラーの対策

こうした「待ちリスク」に対して、メーカーやディーラーも手をこまねいているわけではありません。

  • キャンセル規定の厳格化

    契約後はキャンセル不可、もしくはキャンセル料を設定して流出を防ぎます。特に輸入車では工場発注後のキャンセルはほぼ不可能です。

  • 仮予約制度の導入

    納期が不確定な段階では「仮予約」として順番だけ確保し、納期確定後に本契約に移る方式を採用する例もあります。

  • 仕様変更への柔軟対応

    生産ラインに入る前であればオプション変更を認めるなど、ユーザーのライフスタイル変化に合わせられる仕組みを整えています。

  • リセールバリュー保証や残価設定型ローン

    一定期間後の買取価格を保証する残価設定型ローンを拡充し、将来価値の下落リスクを軽減する動きも広がっています。


消費者心理と「投資化」する車選び

このように、新車購入は単なる「欲しい車を買う」という消費行動から、半ば「資産運用」に近い行動へと変質しています。

  • 得だから買う:値上げ前に契約して価格差益を得たい

  • 損を避けたい:中古車相場が下がりそうだから契約を見送る

といった金融的な判断が介在するようになり、車選びに「投資的視点」が不可欠になりつつあります。


まとめ

つまり、現在の新車購入は

  • 契約時点で価格を固定する=先物取引的性質

  • 納車時点での市場価格と比較して利益・損失が生じる=金融資産的性質

を持つようになっています。

もはや「車を買う」というより「未来の自動車資産を予約購入する」というのが正確な表現に近いでしょう。

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