皆さんは先日、サントリーが「金麦」ブランドを2026年10月以降にビールとして再発売する、というニュースをご覧になりましたでしょうか。
金麦といえば、日本における発泡酒市場を支えてきた代表的なブランドであり、また「糖質75%オフ」シリーズを含め、多くの消費者に親しまれてきた存在です。そんな金麦がビールへと姿を変える背景には、日本の酒税制度の大きな転換点があります。

本記事では、「発泡酒がなくなる」とはどういうことか、なぜそんな現象が起きるのか、そして消費者やメーカーにとってどんな未来が待っているのかを解説していきたいと思います。
発泡酒誕生の背景
日本において「発泡酒」が誕生したのは1994年。当時、ビールにかかる税金は非常に高く、350ml缶1本あたり77円もの酒税が課されていました。これは世界的に見ても突出して高い水準であり、消費者はビールを「高級品」として捉える傾向が強く、毎日の晩酌には手が届きにくい存在でした。
そこで各メーカーは知恵を絞ります。「ビールのように飲めるが、税金の安いお酒」を開発すれば市場が広がるのではないか。こうして生まれたのが、麦芽比率を25%未満に抑えた「発泡酒」でした。さらに2000年代に入ると、発泡酒すら税率が引き上げられたため、今度は麦芽を一切使わず、大豆やエンドウ豆などを原料にした「新ジャンル(第三のビール)」が開発されます。

こうして日本の家庭には、ビール・発泡酒・新ジャンルという三層構造が定着し、「安いから発泡酒を選ぶ」「健康志向だから糖質オフを選ぶ」という消費行動が生まれました。
発泡酒の功績と限界
発泡酒は、確かに消費者にとって「安くて気軽に飲めるお酒」として大きな役割を果たしてきました。ビールに比べて軽やかな味わいを好む層や、日常的な晩酌に取り入れる層に支持され、2000年代前半には爆発的なヒット商品も誕生しました。
しかし一方で、麦芽比率を減らす必要から生じる「コクの薄さ」や「ビールに比べて物足りない味わい」は、どうしても克服できない課題でもありました。メーカーは副原料の工夫や製法の改善を重ねましたが、それでも「やっぱり本物のビールの方が美味しい」と感じる消費者の声は根強く残りました。
さらに、発泡酒が登場した理由そのものが「高いビール税を回避するため」という制度上の事情だったため、「税金が変われば存在意義そのものが揺らぐ」運命を抱えていたのです。

酒税法改正と一本化の流れ
こうした中で、日本政府は酒税制度の見直しを進めてきました。理由は大きく二つです。
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消費者の公平感
価格差が税制によって人工的に作られていることは、消費者にとって分かりにくく不公平だという声がありました。
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国際競争力の低下
発泡酒や新ジャンルに研究開発費を投じるよりも、世界に誇れるビールそのものの品質向上に注力すべきだという意見が強まっていきました。
その結果、2020年から段階的な改正が始まり、ビールの税率は少しずつ引き下げられ、発泡酒や新ジャンルの税率は引き上げられてきました。そして2026年10月には、ビール・発泡酒・新ジャンルの酒税がすべて350mlあたり54.25円に一本化されることが決まりました。
金麦がビールになる意味
この大改正を受けて、サントリーは人気ブランド「金麦」をビールとして再構築する方針を打ち出しました。単に税制対応というだけではなく、「エコノミー価格帯を担うのは、もはや発泡酒ではなくビールだ」という戦略的な判断です。
これはサントリーに限らず、他の大手メーカーも同じ動きを見せると予想されます。発泡酒というカテゴリーそのものは法的に残りますが、価格的なメリットを失った以上、主役の座を失うのは必然です。
発泡酒がなくなる日はいつか
では、具体的に「発泡酒がなくなる日」はいつ訪れるのでしょうか。
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2025年〜2026年前半
まだ発泡酒は販売され続けますが、徐々にビールへのリニューアル準備が進む時期です。
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2026年10月
税率一本化が実施され、金麦をはじめとした人気ブランドが一斉にビール化します。この段階で、日常的に発泡酒を飲む機会は大幅に減少するでしょう。
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2027年〜2028年
市場に残る発泡酒はごく一部に限られ、特殊用途の商品や販路限定品を除けば、消費者が発泡酒を手にする場面はほとんどなくなります。
したがって、「日本から発泡酒がなくなる日」は2026年10月を境に、2027年から2028年にかけて実質的に訪れると予想できます。
消費者へのメリットと今後の楽しみ
消費者にとっての最大のメリットは、「価格がほぼ同じなら、美味しいビールを選べる」というシンプルさです。従来のように「少しでも安いから発泡酒」という選び方をする必要がなくなり、味やブランドイメージで選べる時代になります。

さらに、ビールそのものの税率が下がるため、従来からビールを愛飲してきた方にとっても朗報です。クラフトビールや地域限定ビールの市場拡大も期待され、消費者はこれまで以上に多様な選択肢を楽しめるようになるでしょう。
結論
「発泡酒」という存在は、日本の酒税制度とメーカーの創意工夫が生み出した独特の産物でした。しかし、その役割はまもなく終わりを迎えます。2026年10月の税率一本化を経て、2027年から2028年にかけて、日本の家庭から「発泡酒」が消えていくのです。
私たちは今、その歴史的転換点に立ち会っています。これからは、価格競争に縛られた「なんちゃってビール」ではなく、本物のビールが家庭の食卓に並ぶ時代がやってきます。長年親しまれてきた「発泡酒」がなくなる日――それは日本の酒文化における新しい幕開けなのかもしれません。




