フェラーリ「12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)」なぜ名前がカッコ悪いのか?

クルマ
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フェラーリが新たに発表した「12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)」というモデル名を初めて聞いたとき、多くの自動車ファンが首をかしげたのではないでしょうか。

「ローマ」「ポルトフィーノ」「アマルフィ」など、美しい地名を冠してきたフェラーリが、突然“12気筒”というそのままの名前を付けたのです。日本語に直訳すると「フェラーリ・12気筒」。

シンプルすぎて拍子抜けしたという声も少なくありません。本記事では、この「ドーディチ・チリンドリ」というネーミングがなぜ“カッコ悪く”感じられるのか、そして実はイタリア語的にはどういう意味を持つのかを掘り下げていきます。


1. 「Cilindri(チリンドリ)」とは何か? イタリア語の基本構造

まず、名前の中にある“Cilindri”という単語。

これはイタリア語で「シリンダー」、つまり気筒を意味します。単数形は「cilindro(チリンドロ)」で、複数形になると「cilindri(チリンドリ)」となります。

したがって、“12Cilindri”とは文字通り「12個のシリンダー」、つまり「12気筒」を意味します。

「ドーディチ(dodici)」は数字の12。したがって“dodici cilindri”を日本語に直訳すれば「12気筒エンジン」というだけのこと。

つまりフェラーリはこの車に、特別な詩的ネーミングではなく「エンジン構成そのままの名前」を与えたわけです。これを日本語に例えると、「フェラーリ V12」や「フェラーリ 十二気筒」と呼ぶようなものです。

これまで「812スーパーファスト」「F8トリブート」「296GTB」など、数字や語感の組み合わせでエモーショナルな印象を作ってきたフェラーリにしては、あまりにストレートすぎるネーミングです。


2. それでも“イタリア語”という響きのマジック

とはいえ、“ドーディチ・チリンドリ”と口に出してみると、響きそのものは悪くありません。イタリア語特有のリズムがあり、母音で終わる音の連なりが心地よく耳に残ります。

この「音の美しさ」がイタリア語の魅力であり、世界中の自動車ファンが“イタリア語ネーム”に惹かれる理由です。しかし、イタリア語がわかる人にとってはこの名前、少し拍子抜けなのです。

なぜなら、彼らにとって“ドーディチ・チリンドリ”はあくまで「12気筒」という単なるスペック表現だからです。つまり「BMW 6気筒」「メルセデス V8ツインターボ」と言っているのと本質的に変わりません。


3. 過去のフェラーリとの比較:「詩的ネーミング」からの転換

フェラーリはこれまで、名前にも物語性を込めてきました。

  • ローマ(Roma):イタリアの首都ローマ。永遠の都の名を冠したエレガントなGT。

  • ポルトフィーノ(Portofino):イタリア北部の港町。ラグジュアリーなオープンGTにふさわしい響き。

  • 812スーパーファスト(Superfast):伝統的なV12モデルの延長線上にありながら、スピードを象徴する挑発的なネーミング。

それに対して「12Cilindri」は、あまりに説明的で、感情の余地がありません。「エンジンの構成そのまま」なのです。まるで、ラグジュアリーウォッチに「自動巻き42mmモデル」と名づけてしまったような印象です。


4. “チリンドリ”を応用すれば、誰でもイタリア車っぽくなれる?

面白いのは、この命名法を逆手にとれば、どんな車でも「イタリア語っぽく」言えてしまうということです。

たとえば、あなたが6気筒エンジンに乗っているなら、「セイ・チリンドリ(sei cilindri)」と言えます。4気筒なら「クアトロ・チリンドリ(quattro cilindri)」です。

つまり、マツダのロードスターも「クアトロ・チリンドリ」と呼べば、なんとなくフェラーリの血を引くような響きになります。

また、もしあなたがベントレー コンチネンタルGT W12に乗っているなら、「ドーディチ・チリンドリに乗っている」と言っても間違いではありません。V12とW12の違いはあれど、シリンダーの数は同じです。エンジン構成をイタリア語で表すだけで、一気に雰囲気が変わります。


5. 実は昔から“間抜けネーミング”が多いイタリア車

フェラーリだけでなく、イタリア車は昔からネーミングに独特の“ゆるさ”があります。

たとえば、マセラティのクアトロポルテ(Quattroporte)
これはイタリア語で「4つのドア」という意味。つまり、名前をそのまま日本語にすると「マセラティ4ドア」。高級車の名前にしては、あまりに説明的すぎます。

また、マセラティのクーペも興味深い存在です。イタリア語でクーペは「ベルリネッタ(berlinetta)」と呼ばれるのが一般的です。この呼び方はむしろフェラーリのほうが伝統的に使っています。

「マセラティ・ベルリネッタ」とは誰も言いませんが、言葉としては完全に成り立つのです。

こうして見ると、イタリア車のネーミングには「詩的な格好良さ」と「単純さ」が混在しており、そのギャップこそが魅力とも言えます。


6. 「プロサングエ」は美しい例外

フェラーリのSUVモデル「プロサングエ(Purosangue)」は、非常に美しいネーミングです。

イタリア語で“purosangue”とは「純血の」「生っ粋の」という意味。たとえば「sardo purosangue(生っ粋のサルデーニャ人)」のように使います。つまりこの車名には、「フェラーリは純血である」「他のSUVとは違う」という誇りが込められているわけです。

同じイタリア語でも、ここまで詩的な表現ができるのに、「12Cilindri」とはなんと機械的なことでしょう。


7. BMWオーナーがイタリア語風に語るとどうなるか?

もしあなたがフェラーリではなくBMWのオーナーだったとしても、イタリア語風に言い換えるだけでぐっとエレガントになります。

たとえば「BMW M4 コンペティション」に乗っているなら、「エム・クアットロ・コンペティツィオーネ(M quattro competizione)」と発音してみてください。

まるでフェラーリの限定モデルのように聞こえます。イタリア人にも一発で通じる表現です。

同じように、M3は「エム・トレ(M tre)」、M2なら「エム・ドゥエ(M due)」です。こうして並べると、ドイツ車にもイタリア的な情熱が宿るように感じられるのが不思議です。つまり、イタリア語の音韻構造には“機械をロマンチックに聞かせる”力があるのです。


8. フェラーリ12Cilindriが伝えたい“原点回帰”

それでは、フェラーリはなぜこんなシンプルな名前を選んだのでしょうか。実はこのネーミングには、原点回帰というメッセージが込められています。V12エンジンというフェラーリの象徴を、あえて“技術の名前そのまま”で呼ぶ。

それはブランドのルーツに立ち返る宣言でもあります。つまり、フェラーリが「ローマ」や「ポルトフィーノ」で優雅なラグジュアリーGTを演じてきた流れから、再び「エンジンそのものの美学」に焦点を当てたということです。

“12気筒”という言葉そのものをブランド化する──それはある意味で、フェラーリにしかできない潔い美学なのかもしれません。


まとめ

  • Cilindri=シリンダー(複数形)

  • Dodici Cilindri=12気筒という意味。

  • イタリア語だからこそ響きは美しいが、意味は極めてシンプル。

  • マセラティの「クアトロポルテ(4ドア)」のように、説明的なネーミングはイタリア車の伝統でもある。

  • フェラーリはあえて原点の「エンジン」に焦点を当てたことで、この“潔さ”を表現した。

つまり、ドーディチ・チリンドリとは「最も説明的で、最も象徴的なフェラーリ」。名前の響きがどうであれ、その12気筒の鼓動がフェラーリの魂そのものなのです。

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