ベルルッティの財布はなぜ人気が陰ったのか──流行の終焉と再評価

ファッション
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さて、日本国内ではなぜか未だに根強い人気を誇るベルルッティの財布。
革靴なども非常に有名なブランドですが、やはり特徴はその独自の製法と外見にあります。

通常であれば一色に均一に染め上げられるはずの革を、ベルルッティでは「パティーヌ」と呼ばれる独自の染色技法で、あえてムラ感を残しながらハケで塗り上げます。

この表情豊かな革の風合いに、さらにカリグラフィ(筆記体)の模様が刻まれたデザインが重なり、芸術品のような存在感を放つのです。日本では2015年前後から、この独特の「スクリット柄」と呼ばれる模様が入った財布や革靴がファッション感度の高い層の間で大流行しました。

私自身の知り合いにも、当時まだ日本での流通量が少なかった頃から個人輸入で手に入れていた人や、コレクションとして複数持っていた人がいます。特に2016年から2018年頃には、ベルルッティの財布は「大人の男性の憧れ」とも言える存在になっていました。


値上がり続けるベルルッティの財布

ベルルッティの製品は、品質も高く間違いなく一級の革製品です。
しかし、2015年頃と現在を比べると、その価格は大きく変化しています。

当時は7万円から10万円ほどで上質な財布が購入できましたが、今では同クラスのモデルが20万円を超えることも珍しくありません。

この背景には、ユーロ高や原材料である革の高騰、製造コスト・流通コストの上昇などがあり、さらにブランドがグローバルで人気を得たことで、価格帯はプレミアムレンジへと押し上げられました。

アリゲーターレザーなどの限定モデルに至っては、100万円を超えるものも登場しています。
もはやエルメスに並ぶ最高級クラスの価格設定と言っても過言ではないでしょう。

確かに品質とデザイン性を考えれば納得できる部分もありますが、個人的にはやや割高に感じてしまうのも事実です。以前のベルルッティは、芸術的なセンスを持ちながらも「少し背伸びをすれば手が届く高級品」でした。

しかし今は、明らかに富裕層向けのラグジュアリーブランドの領域に入ってしまった印象があります。


ベルルッティの歴史と「スクリット」模様の始まり

ベルルッティは、1895年にイタリア出身の靴職人アレッサンドロ・ベルルッティが、フランス・パリで創業したブランドです。つまり「イタリアの技術」と「フランスの感性」が融合した、非常に独特な立ち位置のブランドと言えます。

長らく高級紳士靴の世界で支持を集めてきたベルルッティが、本格的に財布やバッグといったレザーグッズに進出したのは2000年代に入ってからです。その中で登場したのが、現在も象徴的な存在となっている「スクリット(Scritto)」と呼ばれる筆記体模様。

このデザインは、18世紀の手紙や文書の書体をモチーフにしており、まるで歴史的な手稿の一部を切り取ったような雰囲気を持っています。「Scritto」はイタリア語で「書かれたもの」を意味し、まさに“書の芸術”を革の上に表現したものです。

2000年代後半から2010年代にかけて、このスクリット模様はベルルッティの代名詞的存在として一気に世界中で注目を集めました。


なぜベルルッティは流行したのか

ベルルッティがここまで人気を得た理由のひとつは、その「わかりやすい高級感」にあります。

例えば、同じく高級靴として有名なジョン・ロブやエドワード・グリーンなどは、確かに最高級の品質を誇りますが、その美しさはあくまで控えめで、革靴好きでない限り外見だけで価値を見抜くのは難しいものです。

一方でベルルッティの製品は、遠目にも分かる独特の光沢と模様があり、「あ、あれはベルルッティだ」と一目で分かる個性があります。

つまり、ベルルッティは“上質さ”と“視覚的インパクト”を両立させた稀有なブランドだったのです。

当時は、クラブやラウンジなどでベルルッティの長財布を取り出すことがステータスの象徴のようになり、「おしゃれで余裕のある男性」の代名詞として語られていました。


「ダサい」と言われるようになった理由

しかし、ここ数年のSNSやネット掲示板では「ベルルッティの財布はダサい」「時代遅れ」といった声も目立ちます。

かつてあれほど洗練された印象だったのに、なぜ評価が変わってしまったのでしょうか。

理由は大きく分けて2つあると考えられます。

1. 類似品や模倣品の大量流通

まず一つ目は、ベルルッティの「スクリット」デザインを模倣した財布や靴が、あまりにも大量に出回ってしまったことです。

数千円で買える安価な財布や靴にまで似たような模様が入るようになり、一般の人から見ると「高級なのか安物なのか区別がつかない」状態になってしまいました。

これにより、ベルルッティ本来の「芸術性」「希少性」という価値が薄れ、デザインだけが“安っぽく見える”方向へと引っ張られてしまったのです。

本物を持っていても「なんか見たことある模様だね」と言われてしまうのは、愛用者からすると少し悲しい現実です。

2. 流行世代のシフト

もう一つの理由は、流行の中心となっていた世代が年齢を重ねてしまったことです。
2015年前後にベルルッティにハマっていた人たちは、当時20代後半〜30代前半だった世代です。

彼らが40代や50代になった今、当時のファッションスタイルをそのまま続けていると、どうしても「時代遅れ」に見えてしまうのです。

たとえば、細身の白パンツにタイトなTシャツ、先の尖った革靴というスタイル。
2010年前後には確かにおしゃれでしたが、今では「ホスト風」「おじさんぽい」と揶揄されることもあります。

同じように、ベルルッティの財布も当時の流行を象徴するアイテムであったため、時代の変化とともに“古臭く”見られる傾向が出てきたと言えるでしょう。


海外ではどうなのか

私自身、イタリアやフランス、イギリスなどを何度も訪れていますが、現地でベルルッティのスクリット柄の財布を使っている人をほとんど見かけたことがありません。

確かにイタリア人は革製品を愛していますし、アリゲーターやクロコダイルの財布など高級品を好む人も多いです。

しかし、彼らが好むのはシンプルで洗練されたデザインであり、カリグラフィーのような模様入りの財布はあまり一般的ではありません。

フィレンツェやローマ、ナポリなどの革職人街でも、上質なレザー財布は300〜500ユーロ程度(日本円で5〜8万円前後)で購入できます。

それらはシンプルながらも美しく、使い込むほどに味わいが出るタイプが好まれています。

つまり、ベルルッティのような強い個性を持ったデザインは、むしろ日本特有の「見た目重視の高級志向」によって支えられている部分が大きいのかもしれません。


ダサいかどうかは「時代」と「場所」で変わる

ベルルッティの財布が「ダサい」と言われるようになったのは、

① 偽物・類似品が増えて価値が相対的に下がったこと

② 流行世代が年齢を重ね、当時のイメージが“古い”ものとして見られていること

この二つの要素が大きく影響していると考えられます。

ただし、ベルルッティの製品自体の品質や職人技は、今なお世界でもトップクラスです。
「Scritto」模様は一時的なブームであっても、ベルルッティのレザーは間違いなく本物のクラフトマンシップの結晶です。

派手さや個性の強さを求めるのではなく、自分のスタイルとして長く使い続けるのであれば、今でも十分に“格好いい”アイテムと言えるでしょう。

結局のところ、「ダサいかどうか」を決めるのは流行ではなく、持ち主のセンスと姿勢。
ベルルッティを“流行遅れ”ではなく“本物の革芸術”として使いこなせるかどうかが、今の時代に問われているのかもしれません。

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