久しぶりに「カレ・ド・ショコラ マダガスカルホワイト」を購入しました。あの黄金時代の味を知ってしまった者として、ここ数年間はほとんど手が伸びなかった商品です。特に2022年の劇的な品質劣化を経験して以降、しばらく距離を置いていました。過去のレビューは以下の通りです。



2025年秋、久々にドラッグストアで見かけた瞬間、当時の記憶が蘇り、「今のロットはどうなっているのか」という興味が湧きました。今回購入したのは賞味期限2026年6月、製造記号AB8M09のロットです。2021年頃のピーク品質と比べてどれほど違うのか、当時と現在の味覚の差も踏まえながら丁寧にレビューしていきます。なお、当時はブルゴーニュワインを常飲して嗅覚・味覚が鋭かったものの、現在は36歳。嗅覚は当時の五〜七割程度だと感じており、その点はあらかじめお伝えしておきます。
かつての黄金時代と価格の激変
2021年前後のマダガスカルホワイトは、21枚入り・約350円という驚異的なコストパフォーマンスでした。味も極めて高品質で、バニラビーンズの香りが広がり、ミルクは新鮮そのもの。舌触りはシルクのように滑らかで、雑味がなく、板チョコとは思えない完成度でした。

2021年にハマって大量に買っていたときの写真
その後、価格を据え置いたまま18枚に減少。税込355円で販売されていましたが、世界的なカカオ相場の高騰を考えれば、企業努力の限界だったのでしょう。

そして2025年現在、同じ18枚入りが約550円。数年間でほぼ2倍の価格です。他社製品も軒並み値上げが続き、原材料価格のインフレが“最低ラインの品質”そのものを押し上げることで、どれだけ払っても昔の品質に届かないという、まるでブルゴーニュワインのような世界になってしまいました。

なお、あの花柄パッケージへ切り替わった頃から急激に味が劣化したことも確認しています。
なぜここまで価格が上がったのか
これは企業の都合ではなく、カカオ相場の異常事態が直撃した結果です。2024〜2025年にかけてカカオ豆は史上最高値を更新し、1トン=1万ドルを突破しました。西アフリカの深刻な不作、気候変動、農園の老木化、規制強化によるコスト増、アジア市場の需要拡大など複数要因が重なっています。
特にホワイトチョコは最も高価なカカオバターを多く使うため影響が大きく、結果として「バニラは安くなったが、それ以上にカカオとミルクが高くなり、総原価はむしろ増えている」というのが現状です。
今のミルクが「平面的でチープ」に感じる理由
かつてのマダガスカルホワイトが“山の中で飲むフレッシュミルク”のような香りと清涼感を持っていたのは、以下の3つが揃っていたからです。
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高品質の全粉乳・無水乳脂肪が使われていた
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香りを飛ばさない低温処理が行われていた
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本物のマダガスカルバニラがミルクを立体的に引き立てていた
良質な乳脂肪は、バターのような芳醇さ、生乳の透明感、自然で立体的な甘さを生みます。当時の「蒜山高原の牛乳のような香り」は、乳原料のグレードが高かった証拠です。
しかし今は、そのミルク感が大きく失われています。理由は次の3つです。
1. 乳製品価格の高騰で高品質原料を使えない
世界的な乳製品不足や飼料・物流費の上昇により、粉乳・乳脂肪の価格は大きく上がりました。そのためメーカーは標準グレードの乳原料へ切り替えざるを得ず、結果としてミルクの甘さは平面的になり、やや粉っぽさやキャンディのような単調な風味が出ます。
2. バニラのグレードが落ちてミルクの弱点が露出
以前は「高品質バニラ × 高品質ミルク」で味に奥行きがありましたが、2022年以降は天然バニラの使用量が減り、安価な香料が増加。ミルク原料の弱さをごまかすことができず、“チープなミルク感”が目立つようになりました。
3. 製造工程の効率化で香りが単層的に
往年のように低温・長時間で丁寧にコンチングするのではなく、現在は効率重視で短時間処理が中心。これにより香りの層が浅くなり、「沸騰した牛乳のような加熱臭」や「千歳飴のような甘さ」が出やすくなります。
バニラが安値でも味が戻らない理由
2025年のバニラ相場は過去十年で最も安値圏ですが、企業はレシピを戻しません。理由は次の通りです。
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高品質バニラを戻しても売上が保証されない
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数十円の値上げでも顧客離れが起きる
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バニラは過去に価格が10倍になったように、再高騰のリスクが大きい
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一度グレードを上げると再度落とすのが難しい
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レシピ変更には開発・表示変更など莫大なコストが必要
結果として企業は「原価低下分は利益回復に回し、最低限の安定品質を維持する」という戦略を選び、バニラ相場が安くても味は戻らない構造になっています。

2025年ロット(AB8M09)のテイスティング
香りは2022年の“論外ロット”と比べると大幅に改善していますが、2021年のようなバニラスティックを割った瞬間の芳醇な立ち上がりには及びません。とはいえ人工的なミルクキャンディ感は減り、市販板チョコより上品な位置にあります。

舌触りはこの数年で最も良好で、ザラつきや油分の分離はなく、滑らかに溶けていきます。これは大きな改善点です。味わいは中盤以降のカカオの戻り香がよく、甘さも自然。ただしミルクのフレッシュ感は薄く、「丁寧に処理された安価原料」という印象が残ります。
2021年の品と比較すると、黒い斑点=バニラビーンズが明らかに少なく見える。

2021年の仕上がり
バニラの本当の価格と“伝説の香り”が戻らない理由
2023年にフランス・ブルゴーニュで訪れたバニラ専門店では、15cmほどのバニラスティック3本が20ユーロ(約4000円)。1本1000円以上です。

フランスのブルゴーニュ地方ボーヌでの栄光の3日間
本物のバニラを十分に使えば、板チョコ1箱1000円を超えるのは当然で、2021年の“伝説的芳香”はある意味、原材料がまだ使えた時代だからこその奇跡だったのかもしれません。
総合評価
香り:中の中〜中の上
舌触り:この3年で最も自然
バニラ:控えめ
ミルク:フレッシュ感は弱い
カカオ:後半の戻り香は良好
甘さ:バランス良好
価格:550円は正直きつい
2021年のピークロット(賞味期限2021.12 / AB9J54)を100点とすれば、今回のロットは60〜70点ほどです。味の完成度は悪くありませんが、550円という価格を考えると満足度はやや低めです。
ただし2022年の“論外ロット”からは劇的に改善しており、「最近の品質が気になる」「久しぶりに食べてみたい」という方には一度試す価値は十分あると思います。


