1960年代の再来?BMW「ノイエ・クラッセ」の本当の意味

クルマ
出典元:https://www.bmw.co.jp/ja/more-bmw/neue-klasse.html
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私は最初に「BMWのノイエ・クラッセ」という概念を目にしたとき、正直なところ「またエンジン以外のくだらないことを始めたな」と強い否定的な印象を受けました。

特に思い出すのは、BMW i3が発売されたときのことです。確かに質感は素晴らしく、アイデアとしても革新的でした。しかしその背景には、当時から強まっていたヨーロッパの環境規制がありました。BMWは「駆け抜ける喜び」をエンジンによって表現してきたブランドであり、本来は社名の「バイエルン発動機製造BayerischeMotorenWerke)」が示す通り、エンジンこそが根幹の存在です。

2014年6月12日筆者撮影

それにも関わらず、巨大で重いバッテリーを積み、数年経てば性能が落ちてしまうような電気自動車を、今度は社運をかけて量産していくのか――。私は当初、強い懐疑と反発を覚えました。

しかし調べていくうちに、どうやら私の感覚は「半分正しく、半分間違っていた」ことが分かってきました。今日はその点について、お話ししていきたいと思います。

「ノイエ・クラッセ」とは何か

まず「ノイエ・クラッセ」とは何かを整理しておきましょう。

オリジナルの「ノイエ・クラッセ」は1960年から1972年頃に登場しました。当時のBMWは、大排気量車と小型車のラインナップはあったものの、1500〜2000ccクラスの中型車が存在せず、販売も低迷していました。そこで打開策として投入されたのが、中型スポーツセダンの新シリーズ。その際に掲げられたブランドフレーズが「ノイエ・クラッセ(新しいクラス)」です。

具体的には、BMW 1500や2000など、革新的な4気筒エンジンを搭載したスポーティなモデル群が大成功を収め、BMW復活の大きな転機となりました。

それから時代は変わり、現在のBMWはEUの環境規制や社会的な需要を受け、「化石燃料エンジンを継続していくのは難しい」と判断し、近年はEV(電気自動車)に力を注いでいます。

そして2024年、BMWは次世代EV専用プラットフォームの総称として再び「ノイエ・クラッセ」という名前を復活させました。ここでは新世代のeDriveシステム、新しいバッテリー技術やアーキテクチャを採用し、さらにデジタル基盤やデザインを高度に融合させた、新時代のBMW像が提示されています。

新時代のEV規格

この「ノイエ・クラッセ」について、私は当初かなり否定的な印象を持っていました。
けれども調べを進めるうちに、従来のハイブリッドカーや初期のEVとは違い、これから登場する「ノイエ・クラッセ世代」の電気自動車は、従来のネガティブな要素を大きく改善していることが分かってきました。

例えば、私が最も疑問に感じていたのは効率の問題です。ガソリンを燃やして直接エンジンで駆動する方がエネルギー効率は高いのではないか、と。わざわざ巨大なリチウムイオンバッテリーを車に積み、遠く離れた発電所で発電した電気を送電し、それを充電してからモーターを回す――そんな回りくどい仕組みでは効率が悪く、むしろ環境負担も大きいのではないかと考えていました。

欧州の調査機関ICCTの最新レポートによれば、電気自動車(BEV)はライフサイクル全体でガソリン車よりも大幅に温室効果ガス排出を削減できるとされています
(*Life-cycle greenhouse gas emissions from passenger cars in the European Union: A 2025 update and key factors to consider* [ICCT, 2025](https://theicct.org/publication/electric-cars-life-cycle-analysis-emissions-europe-jul25/?utm_source=chatgpt.com))。

さらに、世界規模での比較研究でも同様の結論が示されており、製造段階での排出は大きいものの、走行による削減効果がそれを上回るとされています
(*A global comparison of the life-cycle greenhouse gas emissions of combustion engine and electric passenger cars* [ICCT](https://theicct.org/publication/a-global-comparison-of-the-life-cycle-greenhouse-gas-emissions-of-combustion-engine-and-electric-passenger-cars/?utm_source=chatgpt.com))。

しかし、文献を調べていくと、最新のBMWが採用する電動化技術やライフサイクル評価(LCA)を踏まえると、総合的に見てEVの方が二酸化炭素排出量を低く抑えられることが明らかになってきました。これは私にとって意外な発見でした。

もちろん、課題がすべて解決したわけではありません。コバルトなどの原材料調達、電池リサイクルの仕組み、そして充電インフラの整備といった問題は依然として残されています。したがってEVの未来を無条件に楽観視するのは危険ですが、それでも「かつてのEV」と「これからのEV」には確かな違いがあると感じるようになっています。

充電スポット問題

例えば、自宅に充電設備を整えられる人は、実際にはごく少数に限られます。田舎の広い一軒家であれば比較的容易に設置できるかもしれません。しかし東京のような都市部で「敷地内にガレージがあり、さらに充電設備を置ける余裕がある」一軒家に住んでいる人となると、本当に100人に1人以下といった割合ではないでしょうか。

仮に一軒家を持っていても駐車場がなかったり、マンションを所有していても駐車場は管理組合の管轄で勝手に設置できなかったり、あるいは賃貸物件ではそもそも工事ができないケースが大半です。つまり、多くの都市生活者にとって「自宅で充電する」という前提は、まだ現実的ではありません。

さらに、外出先の充電スポットにも課題があります。美術館や六本木ヒルズのような先進的な施設には、たしかにEV用の充電設備が2〜3台分だけ用意されていることがあります。しかしそれらは常に埋まっていることが多く、充電にも20〜30分程度はかかるため、その間に車を放置してしまい、結果として数時間にわたりスポットが空かない――そんな状況も珍しくありません。

このように、都市部においては充電インフラがまだ十分に整っておらず、実用性という観点では依然として大きな課題が残っているのが現実です。

15年後には大きく改善?

一方で、明るい材料もあります。EUや米国では新築マンションにEV充電設備の設置を義務付ける動きが進んでおり、スーパーマーケットやコンビニなどの生活圏にも少しずつ充電スポットが増えてきています。10〜20年というスパンで見れば、充電環境は着実に整備されていく可能性が十分にあるでしょう。

また、私が当初大きく勘違いしていたのは、昔のプリウスや初期のホンダ・インサイトといったモデルのイメージに引きずられていた点です。当時は「真夏にエアコンをつけて渋滞にはまるとバッテリー残量が急激に減る」「フル充電で出発しても、10〜20km走っただけで半分以下になる」といったレビューが数多くあり、それを鵜呑みにして強く否定的な印象を抱いていました。

昔の完全EVは美術館しかデートができなかったらしい

さらに充電に関しても、「高速道路の充電スポットでは30分〜1時間待たされる」「目的地に着く前に昼食休憩を取らないと充電が終わらない」といった不便なイメージが強烈に刷り込まれていたのです。

しかし、ノイエ・クラッセ世代では状況が大きく改善されつつあります。エアコンを最大で使い、オーディオやナビを同時に利用しても、航続距離への影響はせいぜい2割程度の減少にとどまり、かつてのように「数十キロで半減する」といった極端な現象は起こりにくくなっています。これは、バッテリー冷却やエネルギー制御の進歩によるものです。

さらに、今後登場するモデルでは800Vの急速充電システムが採用され、20分で80%充電が可能に。将来的には「10分で300km走行分を充電」という水準も目標とされており、もし実現すれば、10分の充電で東京から名古屋まで走れる計算になります。これは確かに現実的なレベルです。

そのため、私が以前抱いていた「充電は必ず30分以上かかる」「スポットが満車なら次に進めるのは30分後」という強烈なネガティブイメージは、だいぶ和らぎました。長期的に見れば、EVは十分に実用的な存在へと近づいているのだと思います。

避けることのできないソフトウェア陳腐化

技術面だけを見れば、かつて「ハイブリッドカー=不便」というイメージは大きく改善され、いまやガソリン車と同じように長距離を走れ、しかもバッテリーも劣化しにくく、10年経ってもまだまだ実用に耐えられる――そんな良い方向へ進化しているのは間違いありません。

しかし、ここで新たに浮かび上がる問題があります。それが「搭載されているソフトウェア」の寿命です。

私は2019年頃、六本木でテスラの展示車を見学した際、営業担当者からこう説明を受けました。

「普通の車と違って、このクルマは無線で自動的にアップデートされます。だから乗り続ける限り進化を続け、常に新車のように感じられるんです。これが“進化する車”です」と。

当時の私は「本当にすごい時代になった」と素直に驚かされました。しかし、実際にフタを開けてみると、初期型のモデルSはすでに最新OSやUIのアップデートではあるものの、不具合や一部の機能が制限され始めています。その原因はハードウェア側にあります。古いCPUやセンサーが新しいソフトウェアの要件を満たせず、物理的に対応できなくなってしまうのです。

これはまさにスマートフォンと同じ構図です。たとえば、かつてのiPhone Xに最新のiPhone 18のOSを載せられないのは、ハードウェアの性能や規格が追いつかないからにほかなりません。

いつまでサポートされるのか?

BMWのノイエ・クラッセ世代は、最新技術を積極的に取り入れ、デジタル体験や新しいオペレーティングシステムによって「エモーションを生む体験」を実現すると大々的に宣伝されています。確かにその言葉に誤りはなく、実際に非常に魅力的な未来像でもあります。

しかし問題は、それがどこまで、どのくらいの期間サポートされるのかという点です。これは実際に時間が経過してみなければ分からない部分であり、現実的に考えるとサポートが続くのはせいぜい7〜10年程度ではないでしょうか。

おそらく10〜15年が経過する頃には、OSの更新が止まり、アップデートが受けられなくなり、搭載されている多くの機能が制限される可能性があります。そして液晶モニターには「アップデートしてください」といった警告が表示されたり、あるいは新型車の宣伝が流れている――そんな光景も想像できます。

その点で考えると、クラシックBMW――例えばE型やF型といった古典的なモデルであれば、30年後でも40年後でも、機械をメンテナンスさえしていれば当然のように走り続けられます。インターネット通信に依存していないため、いつの時代でも「気持ちよく道路を駆け抜ける体験」が保証されているのです。

ソフトウェア寿命と無関係のAlte Klasse(古いクラス)

「駆け抜ける喜び」と「ノイエクラッセ」

クラシックBMWにおける「駆け抜ける喜び」は、エンジンの吹き上がりやハンドリング、スポーツ性能、シャシーといった純粋に機械としての魅力に根ざしています。

一方、ノイエ・クラッセ世代のBMWは、EV技術やバッテリーの進化、そしてマルチメディアやインターネット接続を融合させた「次世代の体験」に大きな価値を置いています。ITとクルマの融合という点では非常に革新的であり、これまでにない領域を切り拓いていることは間違いありません。

ただし、それは同時にiPhoneと同じように「機械としての限界」を抱えることも意味します。10年先、20年先にその体験がどこまで維持されるのか――現時点では誰にも分かりません。

これが、私が調べて辿り着いた「ノイエ・クラッセ」に対する現時点での結論です。

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