2013年秋に登場したiPhone5s。指紋認証機能「Touch ID」を初めて搭載したモデルとして記憶されている方も多いと思います。発売から半年以上が経過してもなお、その完成度の高さから高評価を維持しており、デザインや操作性、iOS7の刷新など数々の話題を提供してきました。
しかし今回取り上げるのは外観や操作性ではなく、iPhone5sの音質についてです。
スマートフォンは通話やアプリ、カメラ機能が注目されがちですが、音楽プレーヤーとしての完成度も無視できません。特にAppleはiPodからの流れもあり、音質設計にこだわりを持つメーカーです。では、iPhone5sは“オーディオ機器”としてどれほどの実力を備えているのでしょうか。
本稿では、ソニーのフラッグシップ・イヤホン「MDR-EX1000」を用いて詳細に検証しました。EX1000は周波数レンジが広くフラットな特性を持つモニターライクなサウンドを備えており、機材の音質比較には最適です。
アップル製品における音質傾向の変遷
Apple製品は世代によって音の傾向が少しずつ異なります。
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iPhone3G/3GS
やや緩やかで温かみのある音質。携帯電話らしい特性で、Hi-Fi志向からは距離がある印象でした。2014年時点で3GSを愛用するユーザーは少数派となり、音質的な評価対象から外れつつあります。
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iPhone4
フラットでニュートラル。低音100Hzと高音3kHzを控えめにしたチューニングは“ドンシャリ”とは対極的で、長時間リスニングに適します。特に新幹線や飛行機移動など、長時間音楽を聴くシーンに強い魅力を発揮しました。
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iPhone5シリーズ以降
DACが刷新され、音質が劇的に向上。従来よりも広いダイナミックレンジを確保し、Hi-Fi志向に寄った音づくりが進められました。
この変化は、スマホとしての機能以上に「音楽プレーヤーとしての完成度」を求めるユーザーにとって大きな意味を持ちました。
iPhone5sの音質的特徴
1. ダイナミックレンジの広さ
iPhone5sの音は、これまでのiPhoneと比べて一段と解像度が高く、空気感を伴った広がりが特徴です。1kHz付近をやや抑えることで、中高域に透明感を与え、音場に空気を感じさせます。
2. 引き締まった低音
100Hz〜200Hz付近の低域は過剰に強調されず、リバーブタイムも短めでタイト。いわゆる「締まりのある低音」で、迫力よりも輪郭の明確さを重視しています。そのため、長時間聴いても耳に疲れが残りにくいという利点があります。
3. 高域の伸びと透明感
純正のイヤホンでも、音の分解能力が格段に高まったことが分かります。かつては「付属イヤホン=妥協」という印象が強かったのですが、iPhone5sではDACと本体設計の進化によって、純正でも十分に楽しめるサウンドへと進化しました。
iPhone4とiPhone5sの比較
iPhone4はフラット志向で、長時間リスニングに適した“モニター的”な特性でした。一方iPhone5sは、よりダイナミックレンジを広げ、Hi-Fi寄りに進化した点が最大の違いです。
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iPhone4:音の刺激が少なく、疲れにくい。背景に溶け込むようなナチュラルサウンド。
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iPhone5s:中高域に透明感、低音はタイト。空気感の演出により「聴かせる音楽プレーヤー」に変貌。
もしiPhone4をiPhone5sのような傾向に近づけたい場合は、ソニーの「PHA-1」やフォステックスの「HP-P1」といったポータブルDAC内蔵アンプが必要になります。
ポータブルヘッドホンアンプは必要か?
結論から言うと、iPhone5sには不要です。
完成度が非常に高いため、ポータブルアンプを追加しても劇的な音質向上は望めません。
これはちょうど、BMW M3のように高性能な車をチューニングしても大きな変化が得られないのに似ています。3GSや4の頃であればアンプ追加による変化は顕著でしたが、5sはその必要性が薄れています。
もちろん、予算に余裕があり「とにかく極限まで追い込みたい」というユーザーには選択肢として残りますが、コストパフォーマンスの観点からは推奨しにくい部分です。
iPhone5sに合うイヤホン/ヘッドホン
iPhone5sは低域を抑えめに設計しているため、モニター寄りのイヤホンと相性が良いです。
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SONY MDR-EX1000:フラットでモニター的。比較やリファレンスに最適。
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Sennheiser IEシリーズ:特にIE80は低音がやや強調気味なので、IE800よりもバランスが良い。
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Ortofon e-Q8:温かみがあり、ボーカルの艶を強調。ジャズや女性ボーカルにおすすめ。
ヘッドホンについては、インピーダンスが高いモデルを除けば問題なく駆動可能です。ただし据え置き環境で高級ヘッドホンを使っている方がポータブルで同じ体験を求めると、物足りなさを感じる可能性はあります。
音質の“良さ”とは何か
音質評価は主観に大きく左右されます。ドンシャリ傾向を好む若い層もいれば、フラットで落ち着いた音を好む層もいます。iPhone5sはその中間を突いたバランスであり、短時間の迫力と長時間の聴きやすさを両立している点が高く評価できます。
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ドンシャリ:一瞬の試聴で感動的だが疲れやすい。
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フラット:地味だが長時間向き。
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iPhone5s:程よいバランスで“日常的なリスニングに最適”。
iPhone5sのベストな使い方
結論として、純正のまま使うのが最もコストパフォーマンスが高いです。
DACの進化により、付属イヤホンでさえ十分なクオリティを発揮します。もちろん飽きが来たら好みのイヤホンを導入すれば、さらに世界が広がります。
ただし、ポータブルアンプの導入はコストに見合った効果を得にくいため、優先度は低いと言えます。
まとめ
iPhone5sは、スマートフォンでありながら音楽プレーヤーとしても高い完成度を備えたモデルです。
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フラット寄りからHi-Fi寄りへ進化
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タイトで締まりのある低音と透明感のある中高域
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純正イヤホンでも十分楽しめるDAC性能
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ポータブルアンプ不要の完成度
スマホとしての利便性と、オーディオプレーヤーとしての完成度を両立した稀有な存在。それがiPhone5sです。
音楽を日常的に楽しむ上で、特別な投資をしなくても「質の高い音」を届けてくれる。これこそが、iPhone5sを語るうえで最大の魅力だと断言できます。


