ミッドセンチュリーに咲いた青の美学 ─ ウェッジウッド・パウダーブルーの魅力

グルメ・嗜好品
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さて久しぶりに、カップ&ソーサーについての記事を書いてみようと思います。
今回は、私のお気に入りでもあるウェッジウッドの美しい一客をご紹介します。
食器がお好きな方であれば、写真を一目見ただけで、ある程度は「これはあの時代の雰囲気だな」と想像がつくかもしれません。
それほどに、このカップ&ソーサーには時代の空気と美的センスがはっきりと表れています。

まず目を引くのは、深みのある青に金彩が重ねられた、あの伝統的な色合い。
ウェッジウッドのパウダーシリーズとして知られている、非常に有名な装飾技法です。
現在でも生産されているシリーズではありますが、1950〜60年代のものには、現代品にはない質感や美しさが宿っています。

この青は“パウダーブルー”と呼ばれ、スポンジのような小さな道具を使って細かな粒子を重ねる方法で作られます。
特にミッドセンチュリー以前のものは粒子が非常にきめ細かく、砂のようなテクスチャーをまとっており、光にかざすと柔らかく反射し、まるで宝石のような奥行きを感じさせます。
手に取って眺めると、深い青の中で金がわずかに揺らめき、古典的でありながらどこか幻想的な雰囲気を纏っています。

パウダーブルーを彩る金彩と白磁の美しさ

この上に乗せられている金彩は、転写による装飾と考えられます。
当時の製造技術を考えると完全なハンドペイントではなく、転写紙を使い、その上から部分的に加筆・金盛りを行っている可能性が高いのですが、それにしても金の質感が見事です。
現代の食器と比べると、金の色合いがどこか“濃い”とでも言うべきなのでしょうか。
18金ほどではないにせよ、金粉の質が優れており、また割り剤(フラックス)の調合も現代とは異なっていたのか、独特の深い黄金色を保っています。
この時代のウェッジウッドは金彩の質が良く、まるでジュエリーのように華やかな光を放っています。

本体の白地もとても美しいポイントです。
白といっても真っ白ではなく、どこか乳白色のようなミルクの質感を宿した柔らかい白で、光が入ると優しく透けるような、ボーンチャイナ特有の魅力が溢れています。
この繊細な白地に薄手のカップが組み合わさることで、手に持つと驚くほど軽く、それでいてしっかりと強度があり、エレガントさと実用性が絶妙に両立しています。

ステム(ハンドル)も今の製品より細く作られており、細工としての美しさも際立っています。
この繊細さでありながら割れにくいのは、当時の素材と焼成技術の高さを物語っています。

今回のセットは、カップ&ソーサーに加えてデザートプレートも付いたトリオ構成で、下のプレートはケーキ皿として使われるものです。
そして肝心のカップなのですが、これは一見すると紅茶用にも見えますが、実際の形状・深さ・容量から判断すると、コーヒーカップとして使われていたものだと考えられます。
直線的で深さのあるシリンダー形、容量150〜160mlほど、そしてコンパクトで縦長の細いハンドル。
どれも1950〜60年代のウェッジウッドがよく採用していたコーヒーカップの特徴に一致します。

古典美を再構築した金彩文様の意味

さて、ここからは中央部分の装飾について触れていきましょう。
パウダーブルーの魅力は青と金のコントラストですが、その金彩の図柄には意味があります。
右側に貝殻のようなモチーフがありますが、これは「パルメット」または「スカロップ」と呼ばれる意匠化された文様で、古代ギリシャやローマの神殿の装飾から取り入れられています。
貝殻の形に見えるのはその影響で、生命力・繁栄・再生といった象徴として使われてきました。
古典美術に深く根ざしたモチーフで、ウェッジウッドが創業時から追求していた新古典主義の伝統がここにも表れています。

小さな蕾のようなものは、牡丹(ボタン)かロータス(蓮)とされています。
これは19世紀後半から20世紀初頭に流行した“東洋趣味(Orientalism)”の影響で、ヨーロッパで人気を博した東洋の植物モチーフが取り入れられています。
東洋の花を象徴とした図柄が、西洋の古典モチーフと自然に融合しているのは、当時のデザイン感覚ならではの面白いポイントです。

そして背景に流れる唐草模様は、アカンサス(Acanthus)をもとにした古典的なスクロール文様です。
これはコリント様式の柱頭にも使われる植物文様で、西洋装飾では最も伝統的なパターンのひとつ。
生命が伸び続けることや繁栄を象徴し、装飾としての普遍性を持ったモチーフです。

さらに面白いのが、カップ上部の帯状の幾何学模様。
どこかエジプト風にも見える、古代的な雰囲気をまとったデザインですが、これは古代ギリシャのメアンダー文様、あるいはエジプト風のロータス装飾が混ざった、新古典主義的な要素と考えられます。
当時のヨーロッパでは古代美術全般への憧れが高まり、ギリシャ・ローマだけでなく、オリエントやエジプトの造形も積極的に取り入れられていました。
ウェッジウッドのデザイナーたちが大英博物館を訪れ、実際に古代ギリシャの壺やローマの装飾品、さらにはエジプトの遺物を眺めながらインスピレーションを得ていた――
そんな風景が目に浮かぶようです。

一客に凝縮された時代の美意識と技術

1950〜60年代は、こうした古典モチーフを現代的に再構築しながらも、手仕事の味わいがまだ残っていた時代でした。
ミッドセンチュリーという言葉からはモダンデザインを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ウェッジウッドの場合は“古典とモダンの共存”が最も美しく表れた時代といえるでしょう。
そのため、この年代のパウダーブルーはファンの間でも評価が高く、古い年代のものほど深い青を持ちますが、1950〜60年代の青も十分に魅力的で、落ち着きと気品があります。

こうして改めて眺めてみると、一客のカップ&ソーサーの中に、古代ギリシャやローマの美意識、19世紀の東洋趣味、エジプトへの憧憬、ミッドセンチュリーの技術革新が、ひとつの美しい世界として凝縮されているのがわかります。
手に取るたびに、その長い歴史と職人たちの美意識が伝わってくるようで、本当に魅力的です。

このような背景を知って眺めると、ただのカップ&ソーサーが、歴史と美意識の詰まった小さな芸術作品として見えてくるのも面白いところですね。

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