HifiMAN? いや、もっと奇妙な存在です
オーディオの世界は広大で、時折「なぜこんなものを作ったのか」と首をかしげたくなる製品に出会うことがあります。今日ご紹介する QLS QA350 もまさにそのひとつです。
「WAV専用ポータブルプレーヤー」。
この言葉だけで、現代の感覚からすると時代錯誤も甚だしいでしょう。ハイレゾ対応どころか、FLACもMP3も再生できない。SDカードに入れた44.1kHz/16bitのWAVファイルだけを再生するという潔さ。
しかし、そんな制限をものともせず、音質だけで勝負を挑んだ稀有なプレーヤーがこのQA350なのです。ポータブルで音質を追求した奇妙なチャレンジャー、QLSという中国のメーカーが生み出した孤高の一台。世界的にも希少な存在です。
秋の散歩と購入の言い訳
購入のきっかけは、とてもありふれたものでした。
秋になり、近所の美術館に併設された公園を散歩する機会が増えたのです。外の空気を吸いながら、気持ちよい季節に音楽を楽しみたい――そんな理由を自分に言い聞かせ、購入の正当性をこじつけました。
ところがこのQA350、ただの散歩のお供で終わるような代物ではありません。
調べてみると、なんとDACには Wolfson WM8740 を搭載しているではありませんか。オーディオ好きには馴染み深いこのDACチップは、かつてオンキョーの高音質サウンドカード SE-200PCI にも採用されていた名石。
さらに光デジタル出力と同軸デジタル出力を両方備え、ヘッドフォンアンプには MAX9722A を採用。これはソニーのフラッグシップPCMレコーダー「PCM-D50」と同じICなのです。ポータブル機にしてこの仕様。スペックを見た瞬間、私は反射的に「ポチって」しまっていました。
時代を逆行する仕様と存在意義
2000年代後半から2010年代にかけて、ポータブルオーディオ市場はウォークマンとiPodがシェアを独占し、国内メーカーも相次いでMP3プレーヤー事業から撤退していきました。その中で「WAV専用機」という方向性を選んだQLSは、ある意味で勇敢であり、ある意味で無謀でした。
しかし、この無謀さが逆に光っています。
「圧縮形式はいらない、非圧縮WAVだけで勝負する」
そんな割り切りが、純粋に音質に全振りするという明快な個性につながっています。
市場に迎合せず、あえて時代を逆行する。これこそがQA350を唯一無二の存在にしているのです。
音質レビュー:机上の空論ではなく本物
スペックだけが立派で実際は大したことがない製品も世の中には多くあります。しかしQA350は違いました。
実際に聴いてみると、驚くほど音が良いのです。
先日購入したポータブルアンプ iBasso D10 Cobra と比べても、空間表現の広がりはQA350に軍配が上がります。
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音の解像度が非常に高く、一音一音が粒立って聞こえる
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CDとSACDを比べたときのように、音の幅が格段に広がる
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位相の再現性が高く、楽器ごとの音がつぶれることなく自然に定位する
特にジャズのコントラバスのうねりは、まるで目の前で演奏しているかのようなリアリティがあります。ポータブル機でここまでの表現ができるのかと、感嘆せずにはいられませんでした。
QA350とHD650──無茶なスペックが現実に
公式ページでは「600Ωまでのヘッドフォンに対応」と書かれており、正直に言えば最初は笑ってしまいました。そんな無茶な、と。
ところが、ゼンハイザーの名機 HD650 を繋いでみると、予想は覆されました。
「鳴らせる」どころか、「エネルギッシュに生き生きと鳴らす」のです。
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HP-A7のヘッドフォンアンプよりも解像度が高い
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切れ込みが鋭く、スピード感に優れる
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しかしデジタルアンプ特有の冷たい固さはなく、自然で滑らか
まるでメーカーの社員のように絶賛しているようですが、本当に「音は」良いのです。
操作性という大きな壁
ただし、このQA350には致命的な欠点もあります。
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電源を入れてから再生準備が整うまで約30秒
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フォルダ管理は15年前のMDプレーヤーのような古臭さ
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液晶は8文字×2行、漢字非対応(半角カタカナは表示可能)
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ボタンは安っぽく、時折ぷるぷる震える
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時代錯誤のトグルスイッチが存在感を放つ
ユーザビリティという観点では完全に現代に取り残されています。散歩中にサッと音楽を聴きたい、というニーズにはまったく向いていません。
それでも、すべてを帳消しにできるほど音質が良い。これがQA350最大の矛盾であり、最大の魅力なのです。
ホームオーディオとしての可能性
さらに興味深いのは、このQA350が単なるポータブル機に留まらない点です。
付属のACアダプターは2種類あり、ひとつは充電用、もうひとつは再生専用。加えて、ポータブルではまず使わないであろうリモコンまで付属しています。つまり、メーカー自身が「据え置き用途」も想定していたのです。
実際にLINE OUTをプリメインアンプに繋いでみると、据え置きCDプレーヤー顔負けの音を鳴らします。光出力や同軸出力を活かせば、さらに上位のDACに接続することも可能。ポータブルとホーム、二つの顔を持つ珍しいプレーヤーと言えるでしょう。
QA350の入手方法
QA350は一般流通していないため、入手はやや特殊です。
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QLSの公式サイトから直接注文(EMS送料込みで約1万8千円~)
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Yahoo!オークションで「Haichun」氏などが出品している場合もあり
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予備バッテリーやパーツも相談すれば入手可能
発送は比較的スムーズで、日本語のやりとりも問題なく対応してくれます。中古市場で見かけることは稀なので、欲しい場合は見つけたときにすぐ行動するのが肝心です。


スペック概要
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対応フォーマット:16bit 44.1kHz WAVのみ
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メモリ:SD/SDHC 最大16GB
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出力:LINE×1、同軸×1、光×1、ヘッドフォン×1
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DAC:Wolfson WM8740
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デジタル出力IC:CS8406
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ヘッドフォンアンプIC:MAX9722A(SONY PCM-D50と同一)
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液晶:英数字・半角カタカナ対応、漢字非対応
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最大フォルダ数:55、最大格納曲数:550
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外形寸法:78(W)×135(D)×27(H) mm
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材質:アルミ、カラー:シルバー
総合評価:時代錯誤の傑作
QLS QA350は、現代の視点で見れば「不便極まりない奇妙なプレーヤー」です。操作性は悪く、デザインも洗練されているとは言えず、対応フォーマットはWAV限定。
しかし、その制限が逆に音質への執念を形にしました。
WM8740 DACと高性能アンプICを搭載し、600ΩのHD650すら堂々と鳴らすポータブル機。聴けば聴くほど「これが本当にポータブルプレーヤーなのか」と驚かされます。
時代に取り残されながらも、いまなお輝く唯一無二の存在。
操作性を犠牲にしてでも、純粋に良い音で音楽を楽しみたいという方には、ぜひ一度体験していただきたいプレーヤーです。


