12月で終了する「メルカリハロ」――わずか1年半の短命サービス
2025年12月、メルカリが提供するスキマバイトサービス「メルカリハロ」が終了します。
メルカリは公式発表で「市場環境の変化やサービス利用状況などを総合的に判断した結果」と説明していますが、その背後にはいくつもの構造的な要因があるように思います。
私自身、実際にメルカリのアプリから「メルカリハロ」のページを何度か見たことがあり、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)の設計を体感してきました。
そのうえで感じたのは、アプリの作りや設計思想に致命的な問題があったのではないかということです。
いくつかのニュースサイトや業界メディアでは「タイミー(Timee)など先行サービスに追いつけなかった」「税金や社会保険などの兼ね合いで利用者が伸びなかった」といった分析が出ていますが、私はそれ以上に、使う人にとって“ストレスが大きいアプリ”だったことが最大の原因だと感じています。
UI設計の根本的な誤り――地域検索の絶望的な不便さ
まず最も印象的だったのは、UIの使いにくさです。
メルカリハロでは、関東エリアを選んでも、次に選べるのは「東京都」などの大括りな単位です。
「東京都」をチェックしても、そこからさらに細かく渋谷区や新宿区などを指定できるわけではありません。

結果として、現在地が渋谷であっても、立川や東村山などの求人が表示されてしまうことが多々ありました。
ひどいときには「駅から近く」という条件付きで、なぜか埼玉県の求人が表示されることさえありました。
本来、スキマバイトを探す人が重視するのは「場所・時間・職種」の三要素です。特に“今いる場所の近くですぐ働ける”という直感的な検索体験が重要なのに、メルカリハロはこの最初の入口の段階でつまずいていました。これはUIデザインとして致命的な欠陥です。
中古車検索サイトの「カーセンサー」や不動産サイトの「SUUMO」などは、地図や沿線、駅名、徒歩分数など、あらゆる角度から探せるように作られています。
同じように、地図上から求人を視覚的に探したり、半径何キロ以内で絞り込めたりする設計があれば、利用体験はまったく違ったはずです。
しかし実際には、「東京都」や「神奈川県」といった大雑把な範囲指定しかできず、利用者が本当に欲しい情報にたどり着けない。
このUIの粗さが、ユーザー離れを引き起こした大きな要因だったように思います。
メルカリアプリ内に統合された構造的問題――独立性の欠如
次に感じたのは、サービスの存在感そのものが曖昧だという点です。
メルカリハロは、独立したアプリではなく、メルカリ本体アプリの中に組み込まれていました。
トップページの一部に「メルカリハロ」へのリンクがあり、そこから専用ページに飛ぶ仕組みです。

確かに、「すでに数千万人が使っているアプリの中に組み込む」ことで利用者の目に触れやすくする、という狙いは理解できます。
しかし、逆に言えば、メルカリに興味があってもバイトに興味がない人からすれば、「余計な機能」「押し間違えると面倒なボタン」と感じられる可能性もあります。
私個人としては、むしろ独自アプリとして独立させ、UIも目的特化型にすべきだったと思います。たとえば「メルカリワークス」という別アプリとして立ち上げれば、「働く人を支援するメルカリ」というブランドメッセージもより明確になり、UXの自由度も高まったでしょう。
しかし実際には、メルカリの巨大な本体アプリの“片隅”に埋もれてしまい、多くのユーザーが「そんな機能があることすら知らなかった」という状態に陥っていたように思います。
求人の質と条件設定の問題――「誰のためのバイトなのか」
UI以外にも、求人内容そのものにも深刻な問題がありました。メルカリハロの求人を見ていると、「経験者限定」「資格保有者のみ」といった条件の案件が非常に多く見られます。

特に介護やヘルパー、看護補助などの専門職系の案件が多く、「すぐに働ける」「短時間で稼げる」といったスキマバイトらしさが希薄でした。
交通費もわずか200円など、極めて限定的な条件の案件が多く、結果的に、「本当に今日働きたい人」や「未経験で少し試したい人」には手の届かない世界になっていました。
また、営業職の募集のように「短時間働く」ことを前提にしていない求人も見られました。

募集要項には「興味本位での応募はご遠慮ください」「説明会形式」と書かれているものもあり、その実態はスカウトやリクルート目的のようにも感じられます。こうした求人が混在していると、利用者は「どれが本当に短時間で働ける案件なのか」を直感的に判断できません。
これでは、スキマバイトを求める多くのユーザーの期待と大きくズレてしまいます。
UXへの軽視が生んだ「使われないアプリ」
ここまで述べてきたように、メルカリハロの問題は単なる戦略ミスではなく、「使っていて気持ちよくない」アプリだったことに根本原因があると感じます。
スキマバイトという領域では、「時間を探す」「場所を選ぶ」「応募してすぐ働く」までの一連の流れが、できる限り少ないステップで、かつ直感的に完結する必要があります。
しかしメルカリハロは、地理情報の精度が低く、条件絞り込みも不十分で、求人の多くが“すぐには働けない案件”で占められていました。
ユーザーの行動心理を設計し、利用者がアプリ内で迷わないように導線を整える。こうしたUX設計を軽視すると、どんなにブランドが強くても、ユーザーは離れていきます。
これは、単なる事業撤退ではなく、UI/UX設計の重要性を軽視した結果の構造的な失敗だと感じます。メルカリのような企業規模であれば、UX改善にリソースを割けたはずです。しかし、既存のフリマアプリ事業が主軸である以上、ハロのような新規事業は後回しになってしまったのかもしれません。
逆に言えば、後発企業であっても非常に使いやすい洗練されたアプリであれば、先行企業を追い抜く可能性もあるかもしれませんね。


