2004年式のベントレー・コンチネンタルGTが160万円、2005年式のマセラティ・クアトロポルテが85万円――そんな具合に、新車当時は1500万から2500万円ほどもした憧れの輸入車が、まるで国産中古車のような手頃な価格で売られていることがあります。
もちろん「ちょっと怪しいなぁ」と誰もが思うのですが、いざ中古車店に下見へ出向くと「まず出ませんよ!」と耳元でささやかれ、気がつけば即日契約の判を押してしまう人も少なくありません。そもそも実際には必要のない高級車というものは、一種の陶酔感に背中を押されなければ購入にまで至らないものなのです。
ところが勢い余って元高級車を手に入れると、そこから次々と発覚してくる整備の必要箇所に青ざめることもあります。「トホホ、こんなに修理費が……」と維持費の重さに音を上げ、結局は二束三文で手放してしまう。そしてそれを安く買い戻した店が再販する――そんなケースは後を絶ちません。中古車情報サイトを慎重に眺めていると、半年前から一年前に一度売れたはずの特徴的な車両が、まったく同じ販売店から再び売りに出されていることに気づくことさえあるのです。
※スクリーンショットの中古車ように法定整備をしてもらえたり、独自の保証をつけてもらえたり安心できるケースもあります。また故障覚悟で格安に乗れるという大きなメリットもあります。
今回は、そんな「中古の超高級車」を買うときに注意すべき点について整理してみましょう。
「病気持ちの子」を養子にする覚悟が必要
輸入車チェーン店でベントレーを購入した知り合いから、印象的な話を聞いたことがあります。彼は新車から4年落ちの比較的高年式のベントレーを1800万円で購入したそうですが、その販売店はとにかく売ることばかりに熱心で、納車整備はまともに行われなかったのだといいます。
走行中に突然「エンジン警告エラー」が点灯し、12気筒のうち何気筒かが停止してしまうような緊急事態に陥っても販売店には電話がつながらず、ようやく折り返しがあっても1時間以上後という有様。さらにスイッチの不具合やワイパーブレードの交換といった些細な整備でさえ後回しにされる始末で、「買った店が悪かった」と言えばそれまでですが、問題はここから本当の地獄が始まったのです。
彼は「お金が掛かっても良いから正規店でしっかり面倒を見てもらおう」と考え、ベントレーの正規ディーラーに相談に行ったのですが、返ってきた答えは「他社で買った車はサポートできません」の一言で、まったく相手にされなかったといいます。正規店ディーラーを訪れて「ナビとiPhoneをつなぐケーブルが欲しい」とお願いする程度のことでさえ、「ちょっと無理ですねぇ〜」と軽くあしらわれる。そのショールームには、ほんの4年前まで新車として並んでいた同じモデルが鎮座していたというのに、あまりに冷たい対応だったのです。

つまり、たった数年落ちであっても2000万円近い価格のベントレーを購入する際には、どのショップを選ぶかが極めて重要であり、病気を抱えた子供を養子に迎えるような覚悟と同時に、信頼できる「かかりつけ医」の存在が不可欠なのです。車は年数を重ねれば重ねるほど不具合や故障のリスクが増し、その傾向はさらに強まっていきます。特に1990年代から2000年代にかけて生産された、現在では手頃な価格帯に落ち着いたベントレーやマセラティといった車種については、たとえ東京のような大都市であっても面倒を見てくれるショップは驚くほど限られているのが現実です。そしてもし輸入車販売で名の知れたコ○○ズのような大手に入庫させてしまえば、ほんのわずかなオイル漏れであっても整備代が際限なく膨らみ、あっという間に車両本体の購入費を上回ってしまうのです。
さらにその知人の話によれば、車検ですらない単なる1年ごとの法定点検でさえ、請求額はおよそ100万円近くに達したといいます。考えてみれば、コ○○ズのようなショップは庶民が無理をして手に入れた中古の高級車を丁寧に面倒見るために存在しているわけではなく、むしろ新車を複数台持ち、常に最新モデルに乗り換えるような富裕層を相手にしているのですから、こうした対応もある意味では仕方のないことなのかもしれません。
御三家は購入店を気にする必要は無い
一般的に高級車とされるメルセデス・ベンツ、BMW、アウディといった御三家については、ベントレーほど神経質になって購入店を選ぶ必要はありません。もちろん70〜80年代に製造されたような絶版部品が多い古い世代のモデルは別として、90年代以降の御三家に関しては、面倒を見てくれるショップが数多く存在し、たとえその店で車両を購入していなくても親身に話を聞いてくれるケースが多いのです。御三家は流通台数が桁違いに多いため部品やアフターパーツも豊富で、正規ディーラーの純正部品に頼らずとも社外品を組み合わせることで、整備費用を何割も抑えてくれるショップが全国に点在しています。
実際に「BMW専門店」と検索すれば、多くの都道府県でいくつも候補が見つかるでしょう。もちろん理想を言えば、正規ディーラーで認定中古車を購入するのがもっとも安心ですが、仮に少し怪しげな販売店で買ってしまったとしても、その後に頼れる修理工場や専門ショップが見つかる確率は非常に高いのです。ちなみにBMWに関しては正規ディーラーの対応も比較的柔軟で、私自身、愛車が故障して旅行先のディーラーに駆け込んだ際、購入した店舗とは無関係であるにもかかわらず、丁寧かつ迅速に修理対応してもらえた経験があります。こうした対応力も、御三家が中古市場で安心して選べる理由のひとつだといえるでしょう。

古い高級車は絶対に専門店で買おう!
これは一例ですが、東京都調布市にあるベントレー&ロールスロイス専門店のシーザートレーディングに伺ったことがあります。そこでは1950年代のベントレーRをはじめとする旧車の数々が自社整備によって販売されており、半世紀以上も前の車両であっても自社工場で徹底的に点検を行い、不具合のある箇所は必ず修理したうえで世に送り出しているのです。もちろん古い車ゆえにパーツの手配は容易ではなく、納車までに半年近くかかることもあるそうですが、その姿勢は徹底しています。さらにシーザートレーディングでは、所有者のことを「一時預かり人」と呼び、丁寧に整備し、優しく乗り継ぎ、やがて何十年後に売却した際にも次のオーナーが絵画や美術品のように愛せる存在であるべきだという哲学を掲げています。こうした考え方こそ、旧車を安心して任せられる大きな理由だといえるでしょう。
マセラティであれば横浜のミラコラーレがおすすめです。こちらはマセラティやアストンマーティン、フェラーリ、ランボルギーニといったブランドを専門に扱っており、納車前に細部まで整備を施すだけでなく、部品が欠品している場合には自社で製造してしまうこともあるといいます。同じ車種を何十台も取り扱ってきた経験があるため、それぞれの弱点や持病を熟知しており、万一故障しても迅速かつ柔軟に修理対応してくれるのです。さらには、内装の革の張り替えやスイッチのベタつきといった細かな不具合も事前に解消してくれるため、比較的少ないコストで快適な輸入車生活を送ることができます。
この二件に限らず、全国には面倒見の良い中古車店が存在します。見分ける際のポイントは、その店が扱う車種に明確な傾向があるかどうかです。同じ車種、あるいは同系統の車種を複数台並べて販売しているショップは、裏を返せばそのモデルの修理や整備に強い証拠でもあります。実際、私が見かけたあるショップではコンチネンタルGTだけで10台以上を在庫しており、ここまで極端に専門化している店であればオーバーホールはもちろん、壊れやすい箇所の事前対策やスペアパーツの保管体制まで整っていると期待できるでしょう。

1台だけ浮いている店は避けよう
国産ファミリーカーがずらりと並ぶ展示場の中に、ぽつんと1台だけ高級車が置かれているような販売店は注意が必要です。そうしたケースでは、その高級車は本来の得意分野ではなく、単に下取りなどの都合で仕方なく並べている可能性があるからです。そのため、商談の際には必ず「故障したときに整備してもらえるのか」を確認しておくと安心です。自社での対応が難しくとも、知り合いのイタリア車専門店に紹介できるといったつながりを持っている場合もあり、そうした“病院のアテ”があるならば安心して購入に踏み切ることができます。逆に「うちではちょっと……現状販売です」といった返答しか得られない店であれば、迷わず避けた方が良いでしょう。
また、高級車の中には特別仕様車や日本国内に数台しか存在しないような希少車も存在します。そうしたどうしても欲しい一台に出会ってしまった場合には、専門店に相談して「業販という形で取り寄せてもらえませんか」とお願いしてみるのもひとつの手です。もちろん対応は店によってまちまちで、「手数料が上乗せされても良ければ面倒を見ます」と快諾してくれるところもあれば、「いや、それはそもそも無理です」と断られる場合もあります。しかし中には、自社販売した車両と同じようにしっかり面倒を見てくれる専門店もあり、そのようなつながりを得られれば、希少車であっても安心して所有することができるのです。

超高級車(中古車)のオーナーになるというのは…
「買ってから考える」という姿勢だけは、超高級車に関しては絶対に避けなければなりません。なぜなら、こうした車は購入した瞬間からが本当のスタートだからです。鍵を回すたびにエンジンが無事にかかることを祈り、外出中も走行中にエンジンから煙や火が出ないように願う――そんな心境にさせられるのが、超高級車オーナーの現実なのです。実際に私もある英国製の超高級車を借りて高速道路を走行中にエンジントラブルに見舞われた経験があり、そのとき同乗者には「もしも煙が出たらすぐに路肩に停車するから、慌てずにドアを開けて降りてほしい」と説明したほどでした。幸い火災には至りませんでしたが、そうしたリスクは常に背後に潜んでいます。
国産車で走行中に火災が発生することはまず考えられませんし、ドイツ御三家に関しても滅多に燃えることはありません(ただしポルシェは例外的に炎上事例が多いといわれます)。しかし数千万円単位の超高級車は、そもそも生産台数が極端に少なく、手作業で仕上げられたボディに大排気量エンジンを積んでいるため、不慮のトラブルに陥るリスクが飛躍的に高まります。リナシメントのライターが所有していた初代マセラティの例では、常に車内がガソリンの揮発臭に包まれており、原因はホースの取り回しの悪さによる微細な燃料漏れだったといいます。
とにかく超高級車は経年劣化による「病気」を抱えやすく、特に2000年以前のモデルは致命的な持病を備えていることが少なくありません。ビトゥルボ時代のマセラティに至っては「乗っている時間より修理工場に預けている時間のほうが長い」とまで揶揄され、実際にオフ会では数台が必ず故障し、その場でオーナーたちが協力して駐車場修理にあたるという逸話が残されているほどです。
結局のところ、英国車であれイタリア車であれ、超高級車の中古を所有するということは、相応の覚悟を伴う営みなのです。だからこそ、きちんと面倒を見てくれる専門店を見つけることこそが、安心してクルマ生活を楽しむための第一歩であると言えるでしょう。



