BMW6の存在意義
日本で走っている車は、ほとんどが4ドア。セダンはもちろん、ミニバンや軽もみんなそうです。
4ドアは便利。でも、そのぶん「クルマのかたち」は、実用に寄っていきます。
じゃあ、誰も必要としないような2ドアのクーペを、あえて選ぶ理由ってなんでしょうか。
それは――美しさと、クルマに特別な何かを求めているから。
BMWの6シリーズは、快適性や積載性よりも「かたちの美しさ」を優先して作られたクルマです。ただの道具じゃない、ひとつの作品のような存在。そこに、このクルマの価値があります。
6シリーズを選ぶ人は、みんな何かしら**「特別なもの」**を求めています。
たとえば、退屈な毎日を壊してくれるような非日常感が欲しくてこのクルマを選ぶ人もいれば、心にぽっかり空いた隙間を埋めたくてハンドルを握る人もいます。
あるいは、ほんの短い移動時間でも、上質な空間に身を置きたいという人もいるでしょう。いずれにしても、「とても便利」なだけの車では物足りないのです。
たとえBMWの5シリーズがどれだけ完成度の高い車だったとしても、それでは6シリーズの代わりにはならない。もし“合理性”だけを求めるなら、どの席に座っても快適な7シリーズを選んだほうがいい。
ラゲッジスペースも広く、運転席だって文句なしに快適です。
それでも6シリーズを選ぶ――
それは、美しさに惹かれたか。あるいは、自分だけの「特別な何か」を求めたからなのだと思います。
BMW 6の室内空間
「広くて快適」――6シリーズの室内にそんな言葉を使いたいところですが、正直に言えば違います。
どちらかというと狭いし、やや窮屈。
日本車の方が室内スペースは広いし、BMWの5シリーズの方が明らかに快適です。それでも6シリーズの室内には、ほかでは味わえない特別な感覚があります。
シンプルで上質なインテリアにすっと包み込まれるような感じ。先代E63からデザインは大きく変わったものの、あの「乗り込んだ瞬間に世界が変わる」ような包まれ感は、ちゃんと受け継がれています。
少し極端に言うなら、悪い男になったような気分にさせてくれる空間です。
このインテリアに1000万円を払おうと思える人は、きっと心のどこかで「日常や常識をぶち壊したい」という衝動を抱えているのかもしれません。とはいえ、ありがたいことにドリンクホルダーは2つ用意されています。先代モデルではあえて省かれていたその装備。まるで「運転に集中しろ」と言わんばかりの硬派な姿勢でした。
美しい内装に水筒の穴なんて要らない、というメッセージすら感じるほどです。
もしあなたが犬か猫だったら、後部座席で足を伸ばしてくつろげる…そんな広さが理想かもしれません。
でも、6シリーズのリアシートはそんなに甘くありません。正直に言って、狭いです。窮屈です。
小柄な小学生でも、きっと足をバタつかせてしまうでしょう。けれど、このサイズ感で「2ドア4シーターです」と開き直って売っているところが最高に好きです。
このクルマは、ドライバーひとり、あるいはふたりのための空間なんです。
助手席を一番後ろまで下げれば、180cmを超える人でも足を伸ばしてしっかりくつろげます。センターコンソールの収納スペースも意外と大きくて、3シリーズと比べると倍くらいあるんじゃないかという印象。ワインボトルが2本くらい入りそうな、そんな余裕があります。
6シリーズのインテリアは、ため息が出るほど美しく仕上げられています。
余計なラインが一切なく、現行の3シリーズで感じるような「もっさり感」もありません。
天然木の突板(つきいた)は、滑らかな曲線にぴたりと沿うように貼り込まれていて、その仕上げはとても丁寧です。
特に、**バーズアイ(鳥の目杢)**がしっかりと入った部分には、高級な素材が惜しみなく使われているのがわかります。
触れても、眺めても、心が満たされるような空間。
単なる「高級車の内装」という言葉では片付けられない、クラフトマンシップの美学がここにはあります。
前方にぐっと寝かせられたフロントガラスは、まるでスーパーカーのような雰囲気を醸し出しています。
室内からの視界も独特で、包まれるような感覚とともに、走りへの期待感が高まります。
サンルーフはワイドに開口されていて、見上げる空が広がるのはとても気持ちがいいです。
ただひとつ惜しいのは、開くのは少しだけという点。
天井全体に光は入るものの、全開にはなりません。風を全身で感じながら走りたいなら、カブリオレを選ぶしかないのかもしれません。
BMW6の外見特徴
走行性能とドライビングフィール
予想はしていましたが、6シリーズの走りは完全にグランドツアラーです。
約1.8トンのボディを、320馬力のN55直列6気筒エンジンがスムーズに押し出していく。スポーツカーというより、高速クルーザーのような走り方です。
実はこの640iを選んだのは、以前乗っていた**335i(前期型・N54)**の加速フィールが忘れられなかったから。650iのV8にすればもっとパワーはありますが、直6ならではの滑らかなフィーリングに惹かれました。
…と思っていたのですが、実際にはN55はN54とは別物でした。
しかも6シリーズ向けにさらに大人しくチューニングされていて、アクセルを踏み込んでも、蹴り出すような加速感は抑えめ。スポーツモードを選んでも、どこかマイルドです。
印象としては、アウディA5あたりの加速感に近く、落ち着いた高級感のある走り。
かつての335iが持っていた、血の気が多いようなダイレクトな加速感は、やはり3シリーズ特有のものでした。それでも0-100km/hは5.1秒。数値的には335iより速いのに、コンパクトな車体の方がスピードを感じやすいという、あの不思議な体感差があります。
8速ATのミッションは、かつてのもたつき感は一切なし。DCTと見間違うほどの鋭さで変速し、ようやくこのあたりにも「妥協のなさ」が見えてきました。
コーナリングやブレーキングといった運動性能に関しては、やはり車重の重さを感じます。
決してボディがよれるような不安感はありませんが、「クルマを曲げる」には少し気合いが必要です。
自由自在に切り返せる、というよりは――「よっこらしょ」と身体ごと預けて曲げる感覚に近いかもしれません。
正直、ここにきてようやく世間で4シリーズやM3、M4が好まれる理由がわかってきました。
日本の道路事情にマッチするサイズ感で、軽快かつ俊敏。速さと扱いやすさを求めるなら、やはりあのあたりのモデルがベストです。
以前、富士スピードウェイで行われたBMW Mドライビング・エクスペリエンスに参加しました。
M135i、M4、M6、M6カブリオレなど、さまざまなMモデルに試乗し、実際に全開走行まで体験。
その中でもM6の走りは格別でした。
あの重量級ボディなのに、加速にはまったく重さを感じさせず、ブレーキングからのコーナリングもM4に一切引けを取らない旋回性を見せてくれました。
もし640iや650iでもっと軽快に曲がりたいと思うなら、足まわりの見直しが効果的です。
たとえば――
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ホイールを軽量タイプに交換する(純正でもBBS製などがある)
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Mスポーツのサスペンションに換装する
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タイヤをミシュラン・パイロットスーパースポーツにする
このあたりを押さえるだけでも、体感的な軽さがかなり変わります。
6シリーズ本来の快適性をキープしつつ、もう少し「走り」に寄せたい方にはおすすめのチューニングです。
日常使いとしての6
正直に言えば、日常使いにこのサイズのクーペはまったく向いていません。
取り回しも気を遣うし、ドアは大きくて重く、駐車場でも気を使います。
けれど、それでも「6に乗りたい」と思わせる何かが、このクルマにはあります。
BMWが掲げるエフィシエント・ダイナミクスという思想。
聞き慣れない言葉ですが、簡単に言うと「環境性能と走りの楽しさを両立できる」という考え方です。
実際、1.8トンのボディに3リッター直6ターボ、トルク46kgというスペックを持ちながら、街中でリッター10km近い燃費を記録するのは驚異的。
このサイズと性能でこの燃費…技術の進化をまざまざと感じます。
一世代前のE63型や、メルセデスの先代CLSあたりに乗っていた方ならよくわかると思いますが、あの時代の「高級クーペ」はリッター5km台が当たり前でした。
それと比べたら、この進化は本当にすごい。
退屈な日常に、別のページを
日々がちょっと退屈に感じているなら。
同じ景色の繰り返しにうんざりしているなら――
印鑑を持ってBMWディーラーに向かうのも、悪くない選択肢かもしれません。
人生は一度きり。
何を言われようと、好きなものに乗って、好きな道を走ったっていいんです。
スペック
エンジン型式 N55B30A 最高出力 320ps(235kW)/5800rpm
最大トルク 45.9kg・m(450N・m)/1300~4500rpm
エンジン種類 直列6気筒DOHCターボ 総排気量 2979cc
圧縮比 10.2 過給機 ターボ
燃料タンク容量 70リットル 使用燃料 無鉛プレミアムガソリン
環境仕様 10モード/10・15モード燃費 10km/リットル
640i クーペ ¥10,230,000(税込み)
650i クーペ ¥13,170,000(税込み)
http://www.bmw.co.jp/















