話題のNetflixオリジナルドラマ『地面師たち』を観たので、ネタバレありで感想を書いてみます。なお、あらすじやストーリー全体については他のサイトで詳しく紹介されているので、ここでは特に気になった点に絞って述べます。
2024年に公開された本作は、2017年に実際に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をベースにしたクライムサスペンス。物語は、不動産詐欺を行う「地面師」と呼ばれる詐欺集団と、彼らを追う警察の攻防を中心に展開されます。主人公は、地面師のリーダーであるハリソン山中(演:豊川悦司)と、その部下の辻本拓海(演:綾野剛)。彼らは地主や不動産業者になりすまし、偽造書類を駆使して土地を不正に売買しますが、警視庁捜査二課の警部(演:リリー・フランキー)が徐々に追い詰めていきます。
ストーリーにリアリティ・緊張感がある
過去には暴力的な地上げ屋が暗躍した時代もありましたが、本作で描かれるのは暴力に頼らない“知能型”の手口です。土地所有者を直接脅すことなく、巧妙に架空の売買を成立させる展開が続きます。本物の所有者がその土地に住んでいるにもかかわらず、なりすましによって偽の売買が進んでいくという設定は、視聴者に強い緊張感を与えます。
また、モデルとなった「積水ハウス事件」を彷彿とさせるシーンも多く盛り込まれています。たとえば、土地の購入を急ぐ被害者企業が社長決済で稟議を飛ばす点や、社内の派閥争いに揺れる様子など、実際にありそうなディテールが物語のリアリティを高めています。さらに、真の所有者から「売買契約はしていない、仮登記は無効である」と記した内容証明郵便が届き、地面師の存在を疑うきっかけとなる場面は、実際の事件を知る人にとってはニヤリとさせられる要素でした。
キャスティング非常に良かった
池田エライザが演じる女性刑事については、やや違和感がありました。雑誌の表紙に出てくるような華やかさが強すぎて、現実味に欠ける印象です。視聴率や話題性を意識したキャスティングかもしれませんが、もう少し地味でリアルな役者でも十分だったのではと思います。
一方で、辻本拓海(綾野剛)、ハリソン山中(豊川悦司)、後藤義雄(ピエール瀧)、稲葉麗子(小池栄子)といった主要キャストはまさに適役。彼らが本当に「地面師」であるかのような雰囲気があり、他の作品で見せる表情とはまったく異なる姿を見せてくれたことで、ドラマ全体の没入感が格段に高まりました。
個人的に、木村拓哉や藤原竜也の出演ドラマは個性が強すぎて世界観に入り込みづらいのですが、『地面師たち』ではそうした“役者の存在感が作品を壊す”感覚がなく、演技が自然で、まるで映画のような完成度に感じました。特に、綾野剛演じる辻本拓海が、冴えないホストの見習いから地面師としての本性を現す場面は圧巻で、彼の演技力を存分に堪能できました。
ハンティングシーンは不要だった
冒頭の海外でのハンティングシーンは、正直不要だったように感じました。特に熊に襲われる場面はチープで、一昔前のB級映画を見ているような印象すらあります。
リアリティを追求するのであれば、YouTubeなどにある実際の熊襲撃映像を参考にした方が良かったかもしれません。また、アメリカのドラマでは本物のハンティングシーンが登場することもあるので、そうした映像表現を模倣した方がリアリティは増したでしょう。
あるいは国内でも北海道などには鹿やイノシシを狩るハンターが存在します。そうした現場で撮影すれば、より自然で説得力のあるシーンになったのではないかと思います。
ホスト・歌舞伎町シーンは凄みがある
ホストクラブや歌舞伎町のシーン、住職の来客シーンなどは、キャスティングのリアリティが際立っており、非常に恐ろしい雰囲気が漂っています。特に、半グレ役のオロチ(演:アントニー)は、実際に歌舞伎町で見かけてもおかしくないほどのリアルさがありました。
シャンパンを入れてからの交渉や、ホストがフェラーリを乗り回すシーン また、異常な性癖があるなど、本当にありそうなストーリーがちょっと怖いくらいです。
アジトが少しB級映画感
地面師たちのアジトは雑居ビルの一角にあるスケルトンオフィスという設定でしたが、どこかB級アクション映画の秘密基地のように見えてしまったのが惜しい点です。実際の地面師であれば、もっとこじんまりとしたバーの居抜き物件や、場末のスナックの二階といった方がリアルに感じられたのではないでしょうか。
その一方で、マイクホームズや石洋ハウスのオフィスセットは非常によく出来ていました。実際の大手不動産会社の雰囲気を再現しており、私自身が新宿の大きな会社で賃貸契約をした際に利用した来客スペースと重なるほどリアルに感じられました。
さらに、たつ警部(演:リリー・フランキー)の自宅シーンも妙に生々しいリアリティがありました。実際に誰かが住んでいる家を借りて撮影したのではないかと思うほど生活感が漂っており、夫婦関係が冷え切った空気や、互いに距離を置いている様子も自然で説得力がありました。
お酒の演出はイマイチ
60年代のボウモアやマッカラン、ポートエレンといった希少なウイスキーを登場させるのは良いのですが、グラスや調度品とのバランスが悪く、浮いて見えてしまったのが残念でした。たとえば『ゴッドファーザー』のような重厚な調度品に囲まれた部屋でヴィンテージウイスキーが出てくるのであれば自然ですが、専用の撮影セットに囲まれ、新品のバカラのグラスで飲む姿はどこかリアリティに欠けます。
さらに言えば、葉巻やおつまみ、瓶の水など、ウイスキーと一緒にあるべき小物が描かれないことで、場面全体が平板に見えてしまいました。思わず「こういうときは葉巻が吸いたくならないの?」「何かつまみたくならないの?」と突っ込みたくなるほど。せっかくの希少ウイスキーの存在感が、演出の軽さで薄まってしまった印象です。
最終回ラストについての感想
「地面師たち」の最終回は、少し消化不良な印象を受けました。
数年前に辻本拓海の一家を焼死させた真犯人が、実は彼を地面師として育てたボス=ハリソン山中だったと判明する展開までは非常にドラマティックです。しかし、その後の復讐シーンは格闘描写がやや微妙で、最後は女性刑事が突入して手榴弾が爆発、辻本が病院に運ばれるという結末。盛り上がりに対して、締めくくりが少々乱暴に感じられました。
特に違和感があったのは、辻本がハリソンと長年組み、ハンティングに同行してきたにもかかわらず、復讐の場面で銃を使うことに躊躇する点です。これまでのキャラクター設定からすると不自然で、むしろ銃器を登場させずに物語を進めた方が一貫性が保てたのではないでしょうか。
また、作中では白昼堂々と路上での誘拐が何度か描かれますが、日本の現実に照らすと違和感が残ります。日本では誘拐事件が比較的早期に解決されるケースが多いため、リアリティを追求するならもう少し慎重な描写が欲しかったところです。
総評:『地面師たち』は近年でも最も面白い作品のひとつ
私は普段、日本のドラマよりも海外ドラマを観ることが多いのですが、この『地面師たち』は久々に「日本のドラマでここまで作り込まれた作品があるのか」と感心しました。
まず、実際の事件をベースにした設定とストーリー展開が緻密で、演出もスピード感にあふれています。1話ごとにテンポよく進むので、休日に朝から観始めれば7話を一気に見てしまうほど引き込まれました。
キャスティングの妙、リアルな描写、そして全体の雰囲気が「日本の連続ドラマ」という枠を超えて、まるで映画や海外ドラマを観ているかのような没入感を与えてくれます。もちろん細部には惜しい部分(ハンティングシーンやアジトの設定、お酒の演出など)もありましたが、それを補って余りある迫力と完成度がありました。
特に「ゆったりとした進行の従来の国内ドラマに飽きている人」には強くおすすめできます。テンポの速さと緊張感の高さが最後まで持続するので、次の展開が気になって止まらなくなるはずです。
ぜひ、休みの日の午前中から観始めて、一気に没入してみてください。



