配当金を入れたトータルリターンと税引き後の実質リターンを、今年のデータで検証してみました
JEPQ(JPMorgan Nasdaq Equity Premium Income ETF)は、ナスダック100指数に連動しつつも「カバードコール戦略」を用いて安定した分配金を狙うETFとして注目を集めています。
ナスダック銘柄の強い上昇トレンドの恩恵を受けつつ、月次で高い配当を得られる――そんな魅力的なコンセプトの一方で、「実際どれくらいナスダックに追従できているのか?」という疑問を持つ方も多いはずです。
今回は2025年1月から10月までの実データをもとに、
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JEPQがナスダック100にどの程度追従しているのか
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配当込みでどれくらい差が縮まるのか
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さらに日米課税後の実質的なリターン差がどの程度なのか
この3点を順を追って検証していきます。
1. データと前提条件
まず比較の対象ですが、ナスダック100指数(NDX)は直接投資できないため、代わりにほぼ同じ値動きをする「Invesco QQQ ETF」をナスダック100の代理として使用しました。
JEPQとQQQの月次リターンデータは、PortfoliosLabとstockanalysis.comの公表データ(2025年1月〜10月分)を参考にしています。
条件は以下のとおりです。
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起点:2025年1月1日時点で100万円を投資したと仮定
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為替や手数料、為替益課税は考慮しない(ドル円一定)
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配当金は毎月再投資(株数が増える前提)
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売却は行わず、年内は保有継続
※実際には購入手数料、ドル円の為替変動、為替益課税、配当金のドル円換算などありますので、こちらはあくまでイメージの数値となります。
2. 株価だけで見たときの追従率
まずは「株価の値上がり分」だけで比較してみましょう。
| 項目 | 2025年1〜10月の累積リターン | 追従率 |
|---|---|---|
| QQQ(ナスダック100代理) | +22.93% | ― |
| JEPQ | +13.70% | 約59.8% |
つまり、ナスダック100が+22.9%上昇したのに対して、JEPQは+13.7%と約6割程度の追従率にとどまりました。
この差の背景には、JEPQの「カバードコール戦略」があります。
JEPQはナスダック100構成銘柄を保有しつつ、その一部に対してコールオプションを売却することでプレミアム(オプション料)を得ています。
これにより安定した収益(配当の原資)を確保する一方で、株価が急上昇した局面ではその上昇の一部を放棄してしまう仕組みになっています。
そのため、JEPQは上昇相場ではQQQに劣後しやすく、逆に下落・横ばい相場ではオプション収入が下支えとなり、下落を和らげるという特徴があります。
3. 100万円投資した場合の差額(株価のみ)
実際に100万円をそれぞれに投資した場合のシミュレーションです。
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QQQ:100万円 × (1 + 0.2293) = 1,229,300円
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JEPQ:100万円 × (1 + 0.1370) = 1,137,000円
この時点では、JEPQはQQQに対して約9万2,300円の差がついています。
つまり、同じナスダック系のETFでありながら、上昇相場では「約7.5%ポイントの取りこぼし」が生じていることになります。
4. 配当金を加えたトータルリターン
ここからがJEPQの真価が発揮される部分です。
2025年時点での年間分配金利回りはおよそ 10.2%前後(税引前)、一方でQQQは 0.46%程度と非常に小さい数字にとどまります。
この配当をそのまま単純加算すると、以下のようになります。
| ETF | 税引前の配当利回り | 税引前配当額(100万円換算) |
|---|---|---|
| QQQ | 約0.46% | 約4,600円 |
| JEPQ | 約10.21% | 約102,100円 |
これを株価上昇分に足すと、
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QQQ:1,229,300 + 4,600 = 1,233,900円
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JEPQ:1,137,000 + 102,100 = 1,239,100円
税金を考慮しなければ、JEPQは約5,200円(+0.5%)上回る結果となります。
株価だけを見れば負けていたJEPQですが、高配当分でほぼ同水準にまで並んだ形です。
5. 税金を考慮した場合の差
しかし、実際の投資ではこの配当金に課税がかかります。
米国ETFの配当には、
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米国で約10%の源泉徴収
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日本で約20%の課税(所得税・住民税)
と、合わせておおむね 28〜30%の税金 が課されることになります。
この税率を配当部分にだけ適用すると、以下のように変化します。
| ETF | 税後配当(概算) | 税後トータル評価額 |
|---|---|---|
| QQQ | 約3,220円 | 1,229,300 + 3,220 = 1,232,520円 |
| JEPQ | 約71,470円 | 1,137,000 + 71,470 = 1,208,470円 |
結果、QQQがJEPQを約2万4,000円上回る形となりました。
つまり、税引前では拮抗していた両者が、税金を考慮するとJEPQがやや不利に転じることが分かります。
6. 再投資効果でどこまで取り戻せるか
とはいえ、JEPQの分配金をすべて再投資に回していれば、翌月以降の配当や評価額はわずかに上昇します。
つまり、税引き後の手取りが7万円だったとしても、それを都度再投資していけば「株数が増える」ため、翌月の配当がさらにわずかに増えていく仕組みです。
これにより、単純加算よりも数千円〜1万円ほど評価額が上向く可能性があります。
結果として、最終的な差はQQQが+2万円前後有利という程度に縮まり、「大きな損失」というほどの差ではなくなると考えられます。
7. 結果のまとめ
| 比較内容 | 税引前トータル | 税引後トータル | 備考 |
|---|---|---|---|
| QQQ(ナスダック100) | 約123.4万円 | 約123.3万円 | 上昇相場に強い |
| JEPQ | 約123.9万円 | 約120.8万円 | 高配当だが税で不利 |
| 差額(QQQ−JEPQ) | −0.5万円(JEPQ優位) | +2.4万円(QQQ優位) | 税後は逆転 |
この表からも分かる通り、配当を含めればJEPQは驚くほど健闘しています。
上昇局面では株価で差をつけられても、高配当で追いつく構造があるため、「安定したリターンを求める投資家」にとっては有力な選択肢になり得ます。
ただし、税金の影響は無視できません。
高配当型ETFはその分課税の対象額も大きくなるため、結果的に「税引き後のリターン」で見ると、やや不利になることもあります。
また、米国ETFの二重課税(米国+日本)構造は、外国税額控除などを使えば一部軽減できますが、手続きが煩雑な点も考慮すべきです。
8. 投資スタイルによる使い分け
このようにJEPQとQQQは、どちらが優れているかではなく目的が違うETFです。
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JEPQ:月次分配・安定収入・ボラティリティ抑制を重視した「インカム型」
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QQQ:価格上昇による資産拡大を狙う「グロース型」
たとえば、FIRE後に安定した分配金で生活費の一部を補いたい人や、相場を気にせず長期保有で収入を得たい人にはJEPQが合っています。
一方、資産形成期において「リターンを最大化したい」「上昇相場を取りこぼしたくない」人にはQQQが向いています。
9. 税引き後でもJEPQは“悪くない”
今回の試算では、2025年1月から10月の期間において、
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株価上昇だけを見れば、JEPQはQQQの約60%程度しか追従できなかった
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しかし配当を含めるとほぼ拮抗し、税引き後でも差はおよそ2万円程度にとどまる
という結果になりました。
つまり、税金を考慮しても「高配当+安定性」というJEPQの特徴はしっかり活きており、リスクを抑えながらナスダックの成長に乗るという目的には十分合致しています。
上昇相場での伸びは抑えられるものの、配当による再投資効果によって長期的には安定したトータルリターンが見込めます。
短期での爆発的な成長を求めるか、長期で安定したインカムを得るか――どちらを重視するかによって、QQQとJEPQのどちらを選ぶべきかが変わってくるでしょう。
10. FIREにオススメのETF
また、心理的な観点から見ると、JEPQにはもう一つ大きな利点があります。
効率だけを考えれば、ナスダックに連動するQQQなどを購入し、必要な金額を毎月少しずつ取り崩していくのが合理的な方法です。
しかし、実際には「保有している資産の一部を売却する」という行為に抵抗感を覚える人も少なくありません。
特にFIRE後の生活においては、元本を減らすことへの心理的ストレスが大きく、たとえ取り崩しが計画的であっても“減っていく感覚”がプレッシャーになることがあります。
その点、JEPQのように配当金という形で収益が自然に出てくるETFであれば、「元の投資資産を減らさずに、配当で生活費をまかなう」というスタイルが可能になります。
実際、今回のデータを見てもJEPQはそこまで明確に劣っているわけではなく、税引き後を考慮しても“悪くない”成績を残しています。
このため、FIREをしている人や、精神的な安定を重視する投資家にとっては、JEPQのようなインカム重視型ETFで配当生活を送る方法は現実的でおすすめできる選択肢と言えるでしょう。
配当を自動的に受け取り、その範囲で生活をコントロールする――これは人間の心理に沿った自然な資産活用の形でもあります。
「売らなくてもお金が入ってくる」という安心感は、長期投資を続ける上で大きな支えになるはずです。


