9年越しに購入──BMW M3(F80)を手に入れて分かった“純粋なM”の本質【前編】

クルマ
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私が初めてBMW M3(F80)に触れたのは、2016年7月27日のことでした。

当時、サンセイBMW(現・静岡BMW)の好意で2日間ほど試乗車を貸していただきました。
私は当時640iに乗っていましたが、営業担当の方に「いつかMモデルに乗ってみたい」と話したところ、「ちょうど試乗車が空いたのでどうぞ」と貸してくれました。静岡ではMモデルの試乗車が非常に珍しく、まさに運よく巡り会えた一台でした。

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それから9年、私はついに当時試乗した車とまったく同じ仕様――外装がアルピンホワイト、内装がブラックのM3(前期型)を購入しました。

驚いたことに、2016年に撮影した写真とほぼ同じ外観なのです。ヘッドライトのデザイン、ホイールの形、そして車全体のシルエットまでも。まるで9年前から時間が止まっていたかのようで、「初めて買ったのに、ずっと自分の車だったような不思議な感覚」です。

当時お借りした車両


M3という“別次元”のBMW

2016年に初めて試乗した時、私の印象は「ストイックすぎるレーシングカーだ」というものでした。当時の試乗車は走行距離5000kmほど。まだサスペンションやエンジンもこなれておらず、全体的にシャープで、鋭く、張り詰めていました。

それから9年経った今、自分のM3は多少ダンパーが馴染んでいるはずですが、驚くほど印象は変わりません。コンフォートモードにしても「コンフォートとは?」と思うほど硬く、振動もダイレクトです。

しかしこの「硬さ」こそがM3の本質であり、F80という世代のアイデンティティだと思います。

私がこれまで乗ってきた320i、335i、そして640iのような通常のBMWは、静粛性と上質さを両立していました。音が静かで、室内は落ち着き、オーディオが美しく響き、乗り心地は柔らかい。まさに高級車の快適さがそこにありました。

M3はまったく違う、「快適性」を捨て、「走りのための緊張感」にすべてを注いだような車です。


コンフォートモードでも“ハードコア”

私は現在、関東に住んでいます。東京や埼玉、千葉あたりの道路は整備状態が良いので、走行中も比較的スムーズです。しかし、これが地方の峠道や田舎の舗装が荒れた道に入ると一変します。

小さな段差や継ぎ目を通過するたびに、ドン、ゴトッとダイレクトに突き上げが伝わり、サスペンションの動きが「剛性そのもの」だと感じさせます。

まるでマツダRX-7(FD3S)のように、路面の凹凸をそのまま拾ってくる――そんな印象です。

ただ、速度を上げると世界が変わります。高速道路のように路面がきれいな場所では、M3のサスペンションは一気に安定感を増し、驚くほど滑らかに。ある種の“速度域で完成する車”だと感じます。


スパルタンな加速と安定感

エンジンは、BMW伝統の直列6気筒3.0リッターターボ「S55」。
431馬力という数値は今見ても十分すぎるほどで、0–100km/h加速はわずか4秒。

これは、2000年代中盤のフェラーリF430と同等の加速性能です。
アクセルを少し踏むだけで、身体がシートに押し付けられる。中間加速の鋭さは特筆もので、一般道ではフルスロットルを使い切る場面などまずありません。

そして驚くべきは、その安定感です。私が以前乗っていたRX-7は高速走行になると若干フワつく印象がありました。

M3では、時速100kmを超えても四輪が地面に“貼り付いている”ような安心感があります。電子制御式LSDやトラクションコントロール、そして極太の19インチタイヤ(フロント255/リア275)がその感覚を支えているのかもしれません。


ステアリングの切れ味

M3のステアリングは「切る」ではなく「刺す」に近い感覚です。
少しハンドルを動かすだけで、車体がクイッとインへ向かう。

この反応速度は、一般の3シリーズとはまるで別物です。
RX-7ほど軽快ではないものの、重量級ボディを感じされないほどに切れが良くインに向いていきます。これこそがBMW M社の設計思想の粋だと感じます。

640iや335iの感覚で乗ると、一段内側に向いているので驚かされます。


車重とパワーのバランス

F80 M3の車重は約1640kg。
先代E92(V8エンジン搭載)とほぼ同じで、決して軽くはありません。

しかし現行のG80 M3が1740kgを超えていることを思えば、F80は“軽量M”の最後の世代とも言えます。実際に運転すると、重量感はあるものの、エンジンのトルクが圧倒的に強いため重さを感じにくい。
低速からブーストが立ち上がるため、街中でも扱いやすく、峠道でも非常にスムーズです。


DCT(デュアルクラッチ)の完成度

F80のDCT(7速M DCT)は、2010年代のBMWが誇る技術の集大成です。
初期のSMG(シングルクラッチ)に比べると、圧倒的にスムーズで街乗りにも適しています。

渋滞ではオートモードにしておけば、まるでAT車のようにスッと繋がり、ストレスを感じません。一方で、マニュアルモードに切り替えると豹変します。クラッチ操作の必要もなく、まさに“クラッチレス・マニュアル”という表現がぴったりです。

パーキングモードがない独特の構造(ニュートラル+サイドブレーキ)に最初は戸惑いましたが、慣れてしまえば何の違和感もありません。


燃費と実用性

S55エンジンは意外にも燃費が良いです。
街乗りではリッター6〜8km、高速では10〜15km。走り方次第では15km/Lを超えることもあります。

以前乗っていた335i(N54エンジン)よりも効率が良く、ターボエンジンながらも「走れば走るほど味が出る」設計だと感じます。

アイドリングストップをオンにすれば、渋滞時でも燃費の悪化は最小限。
ただしアイドリングストップはDCTとの相性が少し気になるので、好みに応じてオフでも良いかもしれません。極稀にエンストすることがあります。


外観と内装の印象

外観はやはり特別です。
M3専用のワイドボディ、膨らんだフェンダー、立ち上がるボンネット――どれも美しく、ただ者ではない存在感があります。

普通の3シリーズの優雅さとは違い、「筋肉質で構えている」印象。最初は少し派手に見えましたが、乗るうちに“これこそM3だ”と思えるようになりました。

内装は一見普通ですが、細部の質感が違います。メリノレザーのしっとりとした手触り、カーボントリムの質感、専用メーターの赤い針。シンプルでありながら特別感もあります。


日常でのM3──ラグジュアリーからスポーツへの転換

640iに乗っていた頃、私は「快適なグランドツアラー」こそ理想だと思っていました。

長距離でも疲れず、静かで、エレガント。しかしM3に乗り換えると、そのすべてが“逆”になります。振動が多く、騒音も大きい。長距離を走れば筋トレ後のような疲労感。

けれども、ハンドルを握るたびに「自分が運転している」という感覚が蘇ります。
F80は、乗るたびに覚悟を試される車です。

そしてその覚悟の先に、得も言われぬ「人と機械の一体感」が待っています。

後編では、

・維持費・消耗品・純正部品の価格

・中古市場の傾向と買うべき年式

・M3を所有する上での注意点

・そして「M3を日常で使う意味」

についてレビューしていきます。

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