Bowers & Wilkinsの805 D3 Prestige Editionを購入してから6年が経ちました。
購入当初のレビュー、そして2年後に書いた中間レビューはすでに公開しているのですが、それ以降、長期使用の感想をまとめる機会がありませんでした。今回は改めて6年という年月を経て振り返ってみます。





805D3PEに対してネガティブな印象がまったくないというのが正直な感想です。
最新の805 D4などを聴く機会もありましたが、「買い替えたい」と思うほどの違いは感じませんでした。(加齢もありますが)
音の方向性が少し変わっただけで、D3の完成度はいまだに非常に高いと思います。
音の変化とエイジング
この4年〜6年目はあまり音質の変化は感じませんでした。使い始めてから2〜3年ほどでエイジングがしっかり進み、以降は音が落ち着き、安定した状態を維持しているように思います。
新品直後はやや固めに感じましたが、2〜3年経つと少し柔らかく聞き取りやすくなった気がします。機械的に変化があったのか、それとも単に脳が慣れたかは明確ではないのですが、おそらく新品のセットと並べても少しは差がでるように思います。
B&Wの中でも805 D3は構造的に非常に剛性が高く、ユニットの精度も優れているため、長期間使用しても不安定さが出ないのだと思います。

経年劣化への強さ、ベタつき問題の完全な克服
過去のB&Wスピーカー、とくにPM1や805 Diamond(D1系)を使っていた人であれば、“あの独特のベタつき”に悩まされた経験があるのではないでしょうか。
PM1の外装や背面パネル、ダイヤモンドシリーズの一部では、数年で表面の塗装や樹脂が劣化し、ほぼ100%の確率でベタつくという欠点がありました。
英国の乾燥した気候では劣化が遅いのかもしれませんが、日本のような高温多湿の環境ではあっという間に劣化が進行してしまい、再塗装をするユーザーが出るほどでした。
この問題はB&Wユーザーの間で長らく不評でしたが、805 D3以降の世代では見事に改善されています。

私の805 D3 Prestige Editionは購入から6年が経ち、日常的に軽く日差しが当たる場所に設置していますが、今でもベタつきは一切ありません。表面の質感は新品の頃と変わらず、サラッとした手触りを維持しています。
さらに、コーンを支えるゴムパッキン部分も良好な状態です。多少の硬化は見られますが、亀裂や剥がれなどはなく、あと4年ほどは問題なく使える感触です。よほど直射日光を毎日浴び続けるような環境でなければ、劣化の心配は少ないでしょう。

この“ベタつきがない安心感”は、実際に長年使ってきたユーザーにとって大きな進化点だと思います。見た目の高級感が長持ちするというのは、音質とは別の意味での満足度を高めてくれます。
高級スピーカーは「空間の設計」が大切
このスピーカーを6年間使って強く実感したのは、どんなに高級な機材であっても「部屋との相性」こそが音を決めるということです。
私は以前、B&Wの802 Diamond(大型フロア型スピーカー)も所有していました。しかし、一般的な10畳程度のリビングでは完全に持て余してしまいました。アンプも当時はオンキョーのデジタルアンプでした。A-7VLという動力不足もありました。

802Diamondは広い空間でこそ真価を発揮する設計で、音の広がりが部屋に収まらないのです。特に低音が壁や床に共鳴し、結果的に“鈍い音”として返ってくることが多くありました。
防音材や吸音スポンジなどを使って調整も試みましたが、一般家庭ではどうしても限界があると感じました。理想は30〜40帖以上+天井高、コンクリート壁+制音+総絨毯などであれば、802Diamondも良く鳴ると思います。
それに対して、805 D3のようなブックシェルフ型は非常に扱いやすいです。音の広がりが適度で、部屋の音響特性を整えやすく、「高級感のある音をコンパクトな空間で鳴らせる」という意味で理想的だと思います。
ショールームと自宅のギャップ
B&Wの視聴イベントやショールームで聴くと、「なんて素晴らしい音なんだ!」と感動する人も多いと思います。しかし、家に持ち帰ると「あれ? こんな音だったかな」と感じることがあるはずです。それは空間のスケールの違いが原因でした。
イベント会場は特に体育館のような広大な部屋で、壁も反響しにくい設計がされています。その環境で聴くと、低音が過剰にならず、音が綺麗に伸びていくのです。
ところが、一般的な住宅では壁が近く、低音の反射が起こりやすい。結果として、広い空間での“理想の鳴り方”が再現できなくなります。このギャップを埋めるには、スピーカーの選択そのものを現実に合わせるしかありません。その意味で、805 D3はまさに「現実に適した高級機」だと思います。
現代音楽との抜群の相性
805 D3 Prestige Editionは、中音域から高音域の伸びが非常に美しく、ボーカルや金管楽器の表現力に優れています。
特に女性ボーカル、J-POP、R&B、電子音楽との親和性は抜群で、“現代的な音”を自然に鳴らしてくれます。また、D3世代特有のトゥイーターの透明感は本当に素晴らしく、音が空気に溶けるように消えていく感じがあります。昨今は、AmazonMusicなどハイレゾ配信で聴き放題などで、その恩恵に授かることができます。
一方で、オーケストラやクラシックを中心に聴く場合、どうしても低音の量感が物足りなく感じます。大きなウーファーを搭載したフロア型スピーカーと比べると、音の“地鳴り”のような深みは控えめで、表現のスケールは小さくなります。
セッティングの難しさ
スピーカーのセッティングは、想像以上に音質へ影響を与えます。本来であれば壁から2〜3メートル以上離し、左右も同程度の間隔を取るのが理想です。
その状態で鳴らすと、音が立体的に広がり、奥行きが劇的に増します。しかし現実には、リビングにテレビも置きたいですし、家具の配置もあります。

2021年頃のセッティング(当時はやや広い部屋)
私の場合、どうしても壁ギリギリに設置せざるを得ず、本来のポテンシャルを発揮できていない部分もあります。
都内でスーパーカーを日常使いしているような感覚で本来の性能をすべて引き出せてはいないけれど、それでも日常の中で特別な満足を感じさせてくれる存在です。(少しもったいない使い方です)
フロア型との比較、小型機の美徳
大型の802 Diamondなどのフロア型スピーカーを経験したうえで、改めて感じるのは805クラスのコンパクトは一般家庭での最適解だということです。
802やJBLのようなフロア型は確かに音の厚みやスケール感で圧倒します。しかし、それを“活かせる空間”がなければ宝の持ち腐れになります。特にマンションや戸建てのリビングでは、音が反射しすぎて濁ってしまうことも多いです。
その点、805 D3は“現実的な高音質”を追求する人にとって理想的です。部屋のサイズが10〜15畳前後であれば、適切なスタンドとアンプを選ぶことで、限界まで美しい音を引き出すことができます。

コストパフォーマンスと満足感
Prestige Editionの“Prestige”という名は、実はキャビネットに使われている木材の特別仕様から来ています。通常の805 D3とは異なり、このモデルには「サントス・ローズウッド(Santos Rosewood)」という非常に貴重な木材が使用されています。
サントス・ローズウッドは南米原産で、最高級家具や弦楽器に用いられてきました。その色合いは深い茶色から茶褐色へと移り変わり、光の当たり方によって表情が変化します。同じローズウッド系でもインド産のローズウッドよりも重厚で、色の深みは“本紫檀”にも近い印象があります。硬質で密度が高く、振動による不要な共鳴を抑えつつ、木材特有の温かみを音に与えてくれます。
また、805 D3 Prestige Editionのキャビネットは13層ものラッカー塗装を重ねて仕上げられています。手作業で何度も研ぎ出しを行い、丁寧に磨き上げられたその表面は、まるで楽器のような艶を持っています。
新品価格は100万円を超えますが、この質感と音のクオリティを楽しめることを考えると、決して高い買い物ではありません。むしろ、“買って終わり”ではなく“買ってから育てる”楽しみがある製品です。
この805 D3 Prestige Editionは、まさに時間に耐えるデザインと音を両立した稀有な存在だと思います。


